93 / 490
一年生の二学期
🖋️
しおりを挟む
間髪入れずに、杏奈が言った。
「落としているんじゃない?」
「いーや、盗られてる。間違いないよ」
「案外、背負いなおすためにちょっと飛び跳ねたりした拍子にコロッて落ちちゃうのかも」と務が分析すると、菜緒と安奈の瞳に納得の色が差す。
「ひどいなぁ。わたしのことなんだと思ってるの?」
南がぼやくと、務が声を返した。
「でもよくあるよね。ポケットからなにか取り出す時に一緒に落ちること。僕、コートの胸の内側にあるポケットからティッシュ出そうとした時、万年筆が引っかかって持ちあがっちゃって、そのまま線路に転がり落ちて電車に轢かれちゃった。高校入学のお祝いにお父さんからもらった大事なやつだったから、ショックだったよ。謝ったら、お父さんは笑って許してくれたけどね」
杏奈が驚く。
「それって、お父さんが使っていたって言っていたやつ? あの高そうな」
「そう」
そのまま押し黙った彼女は、物思いにふけるように宙を見やった。
南が、睨みつけるように眼輪筋を強張らせる。
「なんにしても最低だよね。ちかんは全面的に男だし、スリだって大抵男だしね」
それを聞いて、務が俯く。
「男として申し開きも出来ない。情けなさ過ぎて、本当にどう謝っていいのやら……」
奈緒の顔をちらりと垣間見て言うと、すかさず杏奈が口を開く。
「務君がそこまで思うことないよ。務君は立派だったと思う。あの満員電車の中で成瀬さんを助けたじゃない」
「僕だって勇気なかったよ」思い詰めた様子で答える。
「まあ、この問題はお昼に話そうよ」
南が、昇降口でスニーカーを脱ぎなから、みんなに言った。奈緒は頷かなかったが、他の二人は頷く。
二階の保健室に来た奈緒はすぐにベッドに入ると、声をかけてくる三人が出て行くまで黙って潜っていた。
「落としているんじゃない?」
「いーや、盗られてる。間違いないよ」
「案外、背負いなおすためにちょっと飛び跳ねたりした拍子にコロッて落ちちゃうのかも」と務が分析すると、菜緒と安奈の瞳に納得の色が差す。
「ひどいなぁ。わたしのことなんだと思ってるの?」
南がぼやくと、務が声を返した。
「でもよくあるよね。ポケットからなにか取り出す時に一緒に落ちること。僕、コートの胸の内側にあるポケットからティッシュ出そうとした時、万年筆が引っかかって持ちあがっちゃって、そのまま線路に転がり落ちて電車に轢かれちゃった。高校入学のお祝いにお父さんからもらった大事なやつだったから、ショックだったよ。謝ったら、お父さんは笑って許してくれたけどね」
杏奈が驚く。
「それって、お父さんが使っていたって言っていたやつ? あの高そうな」
「そう」
そのまま押し黙った彼女は、物思いにふけるように宙を見やった。
南が、睨みつけるように眼輪筋を強張らせる。
「なんにしても最低だよね。ちかんは全面的に男だし、スリだって大抵男だしね」
それを聞いて、務が俯く。
「男として申し開きも出来ない。情けなさ過ぎて、本当にどう謝っていいのやら……」
奈緒の顔をちらりと垣間見て言うと、すかさず杏奈が口を開く。
「務君がそこまで思うことないよ。務君は立派だったと思う。あの満員電車の中で成瀬さんを助けたじゃない」
「僕だって勇気なかったよ」思い詰めた様子で答える。
「まあ、この問題はお昼に話そうよ」
南が、昇降口でスニーカーを脱ぎなから、みんなに言った。奈緒は頷かなかったが、他の二人は頷く。
二階の保健室に来た奈緒はすぐにベッドに入ると、声をかけてくる三人が出て行くまで黙って潜っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる