FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
75 / 428
一年生の二学期

第二十五話 花より団子

しおりを挟む
 仕方なさそうに敷地内へとみんなを招き入れる杏奈がほんの少し振り向き、目尻に三人の姿を収める。
「悪く思わないでね、うちの母親が区議会議員で印象にうるさいの。わたしもどっちかって言うと、小沢さんみたいな恰好がいいんだけど、いろいろ言われるから、しょうがなくこんな服装なのよ」
 春樹が口を開く。
「お父さんも確か弁護士だって聞いたな。いつか国政に打って出るんじゃないか?」
「マジ?」南が驚く。「わたし、どうしよう。こんな格好じゃ怒られちゃうかも」
「いまさら? お母さんが選挙に落ちたら、小沢さんのせいだからね」
 杏奈がチクリと答え、絶句したいがぐりを見やって続ける。
「じょうだん。落ちても弁護士だから大丈夫だと思う。区政か民間かの差があるだけで、やりたいことはほぼ同じように見えるし」
「玄関まで遠いな。六、七…十メートルはある? レンガの目地に躓くなよ」
 春樹はそう言って、奈緒を見やる。頷くのを見届けてから視線をみんなに戻し、緊張した面持ちで建物を見上げた。
「前もって心の準備してこれればよかった。俺と南は言葉遣い気をつけなきゃな。逆に奈緒はラッキーかも。区議会議員から見れば確実に守るべき対象だしな」
 緊張した様子で「うん」と頷く南に、金色のノブに手をかけた杏奈が振り返る。
「でも本当いいのよ、ちょっと話すだけだから。こんなに人数いても仕方ないでしょ。学校でお弁当食べながら結果を伝えれば済むと思うし。だからなにも小沢さんと高木君まで無理して来なくても、わたしと務君と成瀬さんだけでいいよ」
 そうつっけんどんに言って彫刻の施されたフロントドアを開ける。
 中に入った南が、玄関で黒いスニーカーを脱ぎながら、なだめるように笑って言葉を零す。
「まあまあ、かたいこと言わない。人数は多いほうが楽しいじゃん」
「おやつかいぎ」奈緒が南に微笑む。
「成瀬も乗り気」
「うん」
 栗色の廊下を先導されながら、南が納得のいかない様子の杏奈に小声で呼びかけた。
((親御さん厳しいなら、ポイント稼ぎになるんじゃない? いじめられっ子を救うんだからさ。それに、うちらの会話が聞こえたら、なにか助けになってくれるかもしれないし。さすがに学校も教育委員会も議員の意向を無視できないでしょ))
 杏奈は務をちらっと見てから、諦めた様子の表情を浮かべる。
「うーん……仕方がない。区議会議員レベルで影響できないと思うけど、最後の切り札になるかもしれないのは確かね」
 務は、2人のやり取りを和やかに笑って見ていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...