FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🍭

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 奈緒は、迷った様子を見せて続ける。
「まだ、鳥羽 さんが 怖い。後ろから大きな音 を 立てるし、 つつかれる。それに 椅子を蹴られる」
「ペンを置く時の音だよね。務君も言ってた。つつくのはやめさせないといけないけれど、蹴るのはどうだろう。ぶつかっただけかも、足長いから」
「えぇ~?」
 奈緒は顔をしかめて弱々しく喘いで、唇を強張らせる。
「消しゴムの カスも 飛んでくる……いろ いろ から」
 杏奈は聞き流して話題を変えてきた。趣味の話や好きな食べ物、テレビなどの話題も振るが、この子は乗っていかない。彼女の表情から明るい色が退潮して沈黙に沈む。
 奈緒と杏奈は、並んで歩いているにもかかわらず、しばらくの間別々に歩いているように見えた。
 大通りの十字路にあるひだまり公園に差し掛かったところで、杏奈の瞳に閃きが瞬いて、即座にそれが口をつく。
「うん、わたし、務君と相談してみるよ。家が近いし、今度の日曜日にでも」
 眉を歪めて俯いていた奈緒の表情がぱぁっと明るくなって、上げた顔を杏奈に向ける。揺れるセンターパートの影を覗きながら、元気よくはきはきと言った。
「わ た し も い き ま す」
「行くってうちに?」
「うん」
「いいよ、いいよ。わたしたちだけで話すから」
「でも、助けてくれた、お礼も、したいから」
「分かってるよ。それにうち遠いし」立ち止まってそう答える。
「どこ?」
「え……ええっと、大岡山」
「日曜日」奈緒が一歩言葉で踏み込む。
「うーん……」
 商店街の突き当りまで来た杏奈は、困った様子で上がる踏切のバーを見た。
「あ、でもさぁ」
 彼女が意を決したように奈緒を見るが、一瞬にして言葉が止まる。
 この子は、溢れ出す気持ちが大きすぎるのか喜色満面を作りきれずに、ころころと表情を変えていた。ただただ、とても嬉しいという気持ちだけは誰にでも伝わる表情だった。
「楽しいな。楽しいな。杏奈ちゃんが 楽しいな」
 電車に乗る頃にはニコニコと満面の笑みを湛えていて、ずっとやじろべぇのように揺れながら歌っていた。その隣に座っていた杏奈の表情が終始考え込んだように固まっていたのにも気がつく様子はなく、自作の歌は北千束駅で降りたあとも、家に帰りついてからも続いた。





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