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一年生の二学期
🍭
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お構いなしに彼女が続ける。
「あたしが成瀬のことムカついてるのは事実だよ。そりゃ、配られたプリントによだれ垂らされてたり、わけわかんないことぶつぶつ呟きながら授業受けられたりしたら、ストレスたまるじゃん。だからってうっぷん晴らすためにしてるなんて思わないで。どれもこれも成瀬のためなんだから」
「なにが成瀬のため? 三人で脅して首絞めて。大病克服してリハビリしてようやく高校入学できたんだよ。訊いたら、倒れたの中三の冬じゃん。受験終わって、これから羽伸ばして遊んで卒業して、高校生になるんだって時に倒れたんだよ。それから二年足らずで高校入ったなんてすごいじゃん。なんでそれを認めてあげられないの? ダンス頑張ってる? かなり上手い? それが本当だとしでも、その頑張りなんて霞むほど成瀬は頑張ってきたはずだよ」
凄みを放つ南が奈緒に振り返ると、纏う空気が優しさに変わった。
「もうお昼休みだいぶ過ぎたよ。早く屋上行ってお弁当食べよう」
間を置かず魚子が口を開く。
「あんたの家、母親いなくて、お父さんだけなんだってね。ママ恋しさのあまり、女に走ったってわけ? 都合いいよな、こんなだから扱いやすくてさ。仲良くしてもらう見返りにボディガード? 費用は体でだったりして? まさか無理やりとか? 抵抗されても簡単に押さえつけられるもんね」
菜緒を見やって、
「気をつけなよ、成瀬。あんた騙されやすそうだしね」とほくそ笑む。
魚子は、再び南に視線を戻した。
「どうせバカは体売るしかないんだろうし、バカ同士仲良く学校辞めてくれればせいせいするんだけど――」言いかけて言葉が詰まる。
南が、雪に落ちゆくつららのようなまなざしで睨んだからだ。
魚子が視線を逸らす。そのまま一分、二分と時が過ぎ、眼球を冷たい眼光から更にずらした。
奈緒は顔面を蒼白させて固まる。白黒させた目に映る南の横顔は、肌が凍り付いたようだった。表面を冷気が張っているように見える。これから屠られるはずだった奈緒は、自らを助けてくれた異形の者の目撃者となった。
魚子が頭を丸ごと下げたのを確認した南は、「ーー成瀬」と声をかけて、この子を見る。「先に教室に行って。足遅いんだから、食べる時間なくなっちゃうよ。わたしもすぐに追いつくから」
「うん……あ――」
奈緒は何かを言いかけたが言葉を飲み、ぴょこぴょこ走って表へと出て行った。そして振り返る。
「気を 付けて ね」
手を振ってきた南に手を振り返してから正面を向くと、「よっ、よっ」と掛け声をかけながら、怪我をしたウサギのように逃げていった。
「あたしが成瀬のことムカついてるのは事実だよ。そりゃ、配られたプリントによだれ垂らされてたり、わけわかんないことぶつぶつ呟きながら授業受けられたりしたら、ストレスたまるじゃん。だからってうっぷん晴らすためにしてるなんて思わないで。どれもこれも成瀬のためなんだから」
「なにが成瀬のため? 三人で脅して首絞めて。大病克服してリハビリしてようやく高校入学できたんだよ。訊いたら、倒れたの中三の冬じゃん。受験終わって、これから羽伸ばして遊んで卒業して、高校生になるんだって時に倒れたんだよ。それから二年足らずで高校入ったなんてすごいじゃん。なんでそれを認めてあげられないの? ダンス頑張ってる? かなり上手い? それが本当だとしでも、その頑張りなんて霞むほど成瀬は頑張ってきたはずだよ」
凄みを放つ南が奈緒に振り返ると、纏う空気が優しさに変わった。
「もうお昼休みだいぶ過ぎたよ。早く屋上行ってお弁当食べよう」
間を置かず魚子が口を開く。
「あんたの家、母親いなくて、お父さんだけなんだってね。ママ恋しさのあまり、女に走ったってわけ? 都合いいよな、こんなだから扱いやすくてさ。仲良くしてもらう見返りにボディガード? 費用は体でだったりして? まさか無理やりとか? 抵抗されても簡単に押さえつけられるもんね」
菜緒を見やって、
「気をつけなよ、成瀬。あんた騙されやすそうだしね」とほくそ笑む。
魚子は、再び南に視線を戻した。
「どうせバカは体売るしかないんだろうし、バカ同士仲良く学校辞めてくれればせいせいするんだけど――」言いかけて言葉が詰まる。
南が、雪に落ちゆくつららのようなまなざしで睨んだからだ。
魚子が視線を逸らす。そのまま一分、二分と時が過ぎ、眼球を冷たい眼光から更にずらした。
奈緒は顔面を蒼白させて固まる。白黒させた目に映る南の横顔は、肌が凍り付いたようだった。表面を冷気が張っているように見える。これから屠られるはずだった奈緒は、自らを助けてくれた異形の者の目撃者となった。
魚子が頭を丸ごと下げたのを確認した南は、「ーー成瀬」と声をかけて、この子を見る。「先に教室に行って。足遅いんだから、食べる時間なくなっちゃうよ。わたしもすぐに追いつくから」
「うん……あ――」
奈緒は何かを言いかけたが言葉を飲み、ぴょこぴょこ走って表へと出て行った。そして振り返る。
「気を 付けて ね」
手を振ってきた南に手を振り返してから正面を向くと、「よっ、よっ」と掛け声をかけながら、怪我をしたウサギのように逃げていった。
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