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一年生の二学期
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「じゃあ、二回戦始めようっか」
杏奈が仕切りなおすと、南が注文をつける。
「葵チームには廣飯が入ってよ」
「なんで、ずるいじゃない、バレー部二人なんて」
魚子がすかさずいちゃもんをつけたので、安奈が首肯して折衷案を模索する。
「うん、そうだよね。わたしと成瀬さんは外れて、ほかの子たちでじゃんけんにしようよ」
助っ人は、暖乃と明日香に決まって試合が始まった。
「成瀬、大丈夫?」南は訊いて、驚いて続ける。「真っ赤じゃん、冷やしたほうがいいよ」
「わたしが連れて行くよ」
杏奈がそう言って、奈緒を水場へと連れて行く。
「成瀬さん、大変だったね。でもみんな変わってきたでしょ。前みたいに無視したりしなくなったし」
「うん。で も あのいじめっ子は おん なじ」
「ナナはそんなでもなかったじゃない。かおりはポジションの問題かも。左にサーブがそれる子だから、そっちにいた成瀬さんが狙いやすかったのかも」
「そ れ で も 狙いすぎ だ か ら、わざとだと 思う。そ れ に あの――あれ……わたしにぶつける」
「のーののこと?」
「うん」
「悪ふざけが過ぎるよね。うん、今度言っとく」
言い終わって、杏奈は思い出したように試合を遠望した。
「ナナがわたしのこと話していたと思うけど、気にしないで」
奈緒はそれを聞いて、賢そうな横顔を見る。
「でも、クラス委員の 仕 事は 大変だから、迷惑 かな って、す ご く 心配に している。わたし、廣飯さんがいなかったら、あらあらあらって、どうしていいか 分からない」
「うん、大丈夫だよ。務君や高木君もいるから。小沢さんっていうばくだんも抱えているけどね、あはははは」
奈緒も一緒になって笑った。
「小沢さんは不良だと思う」
「そうだよ、絶対そうだと思う」
二人して大笑いして全部の気持ちを吐き出すと、一瞬静寂が広がる。
間もなくして奈緒が、恥ずかしそうに逡巡しながら、上目遣いで瞳をむけた。
「廣飯さんのこと、杏奈ちゃんって呼んでいい で す か?」
「……」
杏奈は一瞬ためらったが、照れくさそうにもじもじする奈緒を見やって、笑顔で「いいよ」と答える。
「杏奈ちゃんも わたしの こ と 奈緒って呼んで」
「え~、いいよわたしは。人を名前で呼ぶタイプじゃないし。今まで通りに成瀬さんのほうが落ち着く」
「そうかぁ、ざんねん」
水場でおしゃべりしているうちに、第二試合はかおりチームの勝利で終わった。
杏奈が仕切りなおすと、南が注文をつける。
「葵チームには廣飯が入ってよ」
「なんで、ずるいじゃない、バレー部二人なんて」
魚子がすかさずいちゃもんをつけたので、安奈が首肯して折衷案を模索する。
「うん、そうだよね。わたしと成瀬さんは外れて、ほかの子たちでじゃんけんにしようよ」
助っ人は、暖乃と明日香に決まって試合が始まった。
「成瀬、大丈夫?」南は訊いて、驚いて続ける。「真っ赤じゃん、冷やしたほうがいいよ」
「わたしが連れて行くよ」
杏奈がそう言って、奈緒を水場へと連れて行く。
「成瀬さん、大変だったね。でもみんな変わってきたでしょ。前みたいに無視したりしなくなったし」
「うん。で も あのいじめっ子は おん なじ」
「ナナはそんなでもなかったじゃない。かおりはポジションの問題かも。左にサーブがそれる子だから、そっちにいた成瀬さんが狙いやすかったのかも」
「そ れ で も 狙いすぎ だ か ら、わざとだと 思う。そ れ に あの――あれ……わたしにぶつける」
「のーののこと?」
「うん」
「悪ふざけが過ぎるよね。うん、今度言っとく」
言い終わって、杏奈は思い出したように試合を遠望した。
「ナナがわたしのこと話していたと思うけど、気にしないで」
奈緒はそれを聞いて、賢そうな横顔を見る。
「でも、クラス委員の 仕 事は 大変だから、迷惑 かな って、す ご く 心配に している。わたし、廣飯さんがいなかったら、あらあらあらって、どうしていいか 分からない」
「うん、大丈夫だよ。務君や高木君もいるから。小沢さんっていうばくだんも抱えているけどね、あはははは」
奈緒も一緒になって笑った。
「小沢さんは不良だと思う」
「そうだよ、絶対そうだと思う」
二人して大笑いして全部の気持ちを吐き出すと、一瞬静寂が広がる。
間もなくして奈緒が、恥ずかしそうに逡巡しながら、上目遣いで瞳をむけた。
「廣飯さんのこと、杏奈ちゃんって呼んでいい で す か?」
「……」
杏奈は一瞬ためらったが、照れくさそうにもじもじする奈緒を見やって、笑顔で「いいよ」と答える。
「杏奈ちゃんも わたしの こ と 奈緒って呼んで」
「え~、いいよわたしは。人を名前で呼ぶタイプじゃないし。今まで通りに成瀬さんのほうが落ち着く」
「そうかぁ、ざんねん」
水場でおしゃべりしているうちに、第二試合はかおりチームの勝利で終わった。
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