18 / 365
一年生の二学期
🐿️
しおりを挟む
「あれ、サッカーコート一面分くらい飛んで行いったんじゃない?」美憂が、一緒に見学していた誰に言うわけでもなく言った。
「レギュラーじゃないのにすごいよね」恵子が答える。
「出てもないんじゃなかったけ、部活。確かダンススクール行ってるとか」
「なんかそうらしいね」
「うちダンス部ないから、お金出して習うしかないんだもんね。でもお金出してまでするかなぁ」
「わたしだったらいや」
そうこう話しているうちに、試合はあっけなく終わった。結果は杏奈チームの自爆。
道子が放った最後のサーブは、後衛ライトにいた暖乃のもとに飛んでいったのだが、彼女は真横に向かってレシーブで受け、ボールは奈緒の右肩に勢いよくさく裂した。
「きゃっ」と叫んだこの子は、そのまま横に一回転して膝から崩れる。
「成瀬、大丈夫?」南が駆け寄って様子をうかがう。
「う……うん」
何が起きたか分からない様子で奈緒が答えて、肩をさする。
「右目が見えないから、分から なかった」
「おい、深谷、わざとでしょ、今の」南が立ち上がって凄んだ。
「え~? ちがうよ」暖乃が答える。
「偶然なわけないでしょ。レシーブする前に成瀬の位置を確認してたじゃん」
「してないよ」
詰め寄ろうとした南と暖乃の間に割って入って、杏奈がなだめる。
「スポーツのことはスポーツで返そうよ。とりあえず負けた無念は葵チームに晴らしてもらうことにして――」
「じゃあ平家」南が葵に向き直って、「次の試合、相沢を狙い打って。バレー部対決。そのあと、深谷にサーブかましてよ」とズケズケと注文を放つ。
「えぇ~、わたしを巻き込まないでよ」
葵は視線でSOS信号を発するが、誰もが見流す。
「それいじめでしょ」魚子が南に言った。
「は? あんたたちがやったことはいじめじゃないの?」
「あたしらがなにしたって言うの? ただバレーしてただけじゃん。成瀬に当たったのは全部偶然。それに平家さんは一年のレギュラーでしょ? 実力違いすぎるじゃん。これをいじめって言わずになんていうの?」
「待って」杏奈が言った。「成瀬さんを守れなかったのはわたしの責任。わたしが謝る。ね、ごめんね、成瀬さん」
「なんで廣飯が謝るの。前々からこいつら庇いすぎじゃない?」南が反駁した。
「そんなことないよ」そう言ってかおりに向き直り「でもかおり、曲がりなりにもバレー部員なんだから、今度からもう少しやさしくしてあげて、ナナだってスポーツ万能なんだから、ちょっとは手加減してくれなきゃ。のーのは前にレシーブして」。
「分かった。前にね」
暖乃がそう笑うと、間髪入れずに南が釘を刺す。
「前に成瀬がいる時はやめろよ」
「ちぇぇ~」
暖乃は、あからさまに不服そうに顔を歪めた。
「レギュラーじゃないのにすごいよね」恵子が答える。
「出てもないんじゃなかったけ、部活。確かダンススクール行ってるとか」
「なんかそうらしいね」
「うちダンス部ないから、お金出して習うしかないんだもんね。でもお金出してまでするかなぁ」
「わたしだったらいや」
そうこう話しているうちに、試合はあっけなく終わった。結果は杏奈チームの自爆。
道子が放った最後のサーブは、後衛ライトにいた暖乃のもとに飛んでいったのだが、彼女は真横に向かってレシーブで受け、ボールは奈緒の右肩に勢いよくさく裂した。
「きゃっ」と叫んだこの子は、そのまま横に一回転して膝から崩れる。
「成瀬、大丈夫?」南が駆け寄って様子をうかがう。
「う……うん」
何が起きたか分からない様子で奈緒が答えて、肩をさする。
「右目が見えないから、分から なかった」
「おい、深谷、わざとでしょ、今の」南が立ち上がって凄んだ。
「え~? ちがうよ」暖乃が答える。
「偶然なわけないでしょ。レシーブする前に成瀬の位置を確認してたじゃん」
「してないよ」
詰め寄ろうとした南と暖乃の間に割って入って、杏奈がなだめる。
「スポーツのことはスポーツで返そうよ。とりあえず負けた無念は葵チームに晴らしてもらうことにして――」
「じゃあ平家」南が葵に向き直って、「次の試合、相沢を狙い打って。バレー部対決。そのあと、深谷にサーブかましてよ」とズケズケと注文を放つ。
「えぇ~、わたしを巻き込まないでよ」
葵は視線でSOS信号を発するが、誰もが見流す。
「それいじめでしょ」魚子が南に言った。
「は? あんたたちがやったことはいじめじゃないの?」
「あたしらがなにしたって言うの? ただバレーしてただけじゃん。成瀬に当たったのは全部偶然。それに平家さんは一年のレギュラーでしょ? 実力違いすぎるじゃん。これをいじめって言わずになんていうの?」
「待って」杏奈が言った。「成瀬さんを守れなかったのはわたしの責任。わたしが謝る。ね、ごめんね、成瀬さん」
「なんで廣飯が謝るの。前々からこいつら庇いすぎじゃない?」南が反駁した。
「そんなことないよ」そう言ってかおりに向き直り「でもかおり、曲がりなりにもバレー部員なんだから、今度からもう少しやさしくしてあげて、ナナだってスポーツ万能なんだから、ちょっとは手加減してくれなきゃ。のーのは前にレシーブして」。
「分かった。前にね」
暖乃がそう笑うと、間髪入れずに南が釘を刺す。
「前に成瀬がいる時はやめろよ」
「ちぇぇ~」
暖乃は、あからさまに不服そうに顔を歪めた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる