FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🐿️

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 魚子は静かな教室の中で、恐れもせず手を上げて大声を上げる。
「先生ー、なんでかおりをどけるんですか? 空いている後ろの席でいいじゃん」
 あからさまな不服を述べる彼女に、先生が答えた。
「成瀬は右目が見えないんだよ」
「この 半分 が み え ま せ んっ」
 奈緒が付け加える。右目の右半分が見えない、と言いたいらしい。
「左目が見えるんだから右端がいいだろう? 右端で黒板が一番見えやすい最前列。しょうがないだろう」先生が、すわった眼をした魚子の頭を声で抑える。
 自分は歓迎されていない。奈緒にとって、そう思い知らされる机の隙間の出来事だった。

 それからというもの、毎日こんなだ。花茶に混じった石粒みたいに、奈緒は何日経っても魚子になじられ続けて、今日に至った。
「ナナちゃん、今日も朝から大変だねぇ」
 左手を脇腹の高さに据えて、右手で空中をリズムカルにノックするしぐさを繰り返しつつバウンズしながら、練乳を溶かし込んだ桃シロップ色の髪をした一人の女子が、魚子のもとにやって来た。
 目の前に来るとロックダンスのトゥエルをしてからツーステップを踏んで、右トゥエル、左トゥエル、微かにロックを決めてからほんの少しがに股でバウンズをひと差し入れて、左足で奈緒の椅子をつつき、そして右足で床を踏む。
 月面を弾むように揺れる大きな胸を見やりながら魚子がため息をつき、奈緒の白のワイシャツを睨む。
「ほんとサイアク、朝から汚いもの見せられて。のーのも気を付けて。」
 右肘をつき、丈の短いワイシャツの裾の内側に左手の指を入れておなかを掻きながらそう言う魚子に、「あはは」、と暖乃[のんの]が笑う。
 いたたまれず、奈緒が振り返った。
「ほんとおに ごめんな さいっ。き を つ け ま すっ」
 だがブレイズの彼女は、突き放す。
「何度目よ。今だって垂れてるじゃん」
 奈緒はすすって、左手で唇を拭う。そして上目遣いで、ひとえの瞳を見やる。チワワのように小刻みに震えながら。
 暖乃が腰をツイストしつつ交互につま先を出した後、いろいろなところをノックするようにドラムしながら、左右の肩を交互にブランコみたく揺らして言った。
「いいじゃん、これから毎日、人知れずいじめてあげれば」
 奈緒は俯いて前に向き直った。セミロングの黒髪に表情を隠す。
 暖乃の言葉は予言となった。それからさらに一週間が経っても事態は好転しないばかりか、日常として定着しつつあった。肌に赤みが浮くようなことはされなかったが、無防備なところにキハダの汁をなめさせてくるような言葉を毎日のように囁かれて、肌に渋みが沁み込んでくる。今日も同じような一日が繰り広げられるのだろう。ゆっくりとしていて長たらしいエンドロールのように。

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