バラの神と魔界の皇子

緒方宗谷

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20 絶望の悪魔 ~最後に力を発揮するのは、応援してくれる仲間の声~

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 1の門の内側は大騒ぎです。巨大なティラノサウルスと数匹の大コウモリがワサワサと入ってきて、暴れ始めました。
 戦える精霊達が応戦しますが、歯が立ちません。
 攻め入ってくるティラノサウルスの足元に、父葡萄が嘆きが響いていました。
 「母さんが! 子供達が!!」
 葡萄の搾り汁と化した家族をかき集めて嘆く父葡萄が言いました。
 「騙したな! コウモリめ!!」
 「わはははは、大きな恐竜の足から良く逃れたな。
  そもそも、お前らみたいな安葡萄の酒を主人の吸血鬼の魔王様が飲むわけないじゃんかよう」
 「畜生!! 畜生!!」
 父葡萄は掴み掛りますが、バサバサと身を翻すコウモリを捉える事が出来ずに、地面に倒れ込みます。
 次から次に入って来る魔物をいくら倒してもらちがあきません。幸い、火を吐くドラゴンではなかったため、大火事になるのだけは避けられましたが、負けるのは時間の問題です。
 マスキィハの精霊が言いました。
 「せめて、あのティラノサウルスの動きだけでも抑えないと、みんな踏みつぶされてしまうぞ」
 多くの戦士達が攻撃を加えますが、分厚い皮膚の前に傷もつけられません。
 そこに、若い屋久杉の精霊が、本性を露わにして飛びかかりました。ドラゴンを覆う網の様に根を広げた屋久杉の精霊は、緑色の巨体を掴みとって、剣を振りかざします。負けじと胸ぐらに食らいつくティラノサウルスと、切り結ぶ覚悟の様です。
 「バラ様! バラ様!! お願いします!! 結界閉じてー!!」
 開いた結界のそばのイバラに身を隠していたスズとハルは、懸命にバラに祈りを捧げながら、イバラを揺さぶりました。魔物達はそれを止めさせようとしますが、鋭いトゲに阻まれて、近づく事が出来ません。そればかりか、イバラに巻かれて死んでしまいました。
 ツル系の植物達によって、空飛ぶ大蝙蝠は捕縛する事が出来ましたが、嚙まれた精霊達は吸血植物になってしまいました。生き残った数匹の大蝙蝠は人の姿に変身して、鋭い牙と爪で、精霊達を切り刻んでいきます。
 屋久杉の精霊が、絶望を露わにして言いました。
 「ああ! ダメだ! このままではこのティラノサウルスを抑えきれない」
 屋久杉は、ティラノサウルスを根で締め上げて持っていた剣を深く突き刺していましたが、同時に大きなアゴで幹を噛まれて、大変な大怪我を負っていました。
 悪魔の地位にいるティラノサウルスの魔気の前に、屋久杉の精霊は力尽きてしまいそうです。せめて、コイツを道連れにと思いましたが、これ以上、剣を深く突き刺す事が出来ません。遂には、握っている事すら出来なくなってしまいました。
 その様子を見ていたスズが叫びます。
 「このままじゃ、精霊様が危ないわ! ハルちゃん、わたし達で応援してあげましょうよ」
 「うん、そうね、キュートなわたし達に応援されたら、死んでも頑張っちゃうわよ」
 2人は、てけてけてけと屋久杉の所に走って行って、両手で力こぶを作るポーズをとって構えます。ハルお得意の小躍りと小唄の始まりです。

 ♬うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  大きく育って天まで届け♪♪
  うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  万年経ったらご神木? 社が出来たら儲けもの♬
 
 戦闘に参加できない精霊や精達がティラノサウルスと屋久杉の周りに集まってきて、輪になって踊り始めました。
 
 ♬うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  お供えー物を貰っちゃおっ♪
  うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  大きく育って天まで届け♪♪
  うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  だって梢が多いーほうが、美味しい小鳥がいっぱいよ♬

 「えぇ? ハルちゃんなんて言ったの!? どーゆー事それ!?」
 隣で踊っていたスズはギョッとして叫びましたが、ハルは気にせず、力こぶのポーズでしこを踏み踏み、歌い続けました。スズは目を萎めて、口をイーとしながら踊ります。

 ♬うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  だって果実が多いーほうが、美味しい小虫がいっぱいよ♬

 どこからともなく、鳥の丸焼き達がやってきます。歌の効果で元気が出てきた屋久杉の精霊は、大きく高く幹を成長さました。沢山の枝に青々とした葉を茂らせたので、鳥の丸焼き達が止り木にして休もう、とやってきたのです。

 ♬食べてー食べてーわたしを食べてー♪ ぴよぴよぴよぴよ♡ ぴよぴよぴよぴよ♡♬

 「良いの!? 食べて良いの!? っていうか、なんで鳥いるの!?」
 スズはツッコミを入れますが、聞く耳は無いようです。城壁の丘の上から、小鳥の精が精の宿っていない小鳥を生んでは丸焼きにして飛ばしていました。
 「あんたか! 鶏肉出したの!!」
 スズはツッコミを入れますが、主人の小鳥の精も聞く耳を持っていません。
 
 ♬うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
  子蛇のかば焼き内緒でおまけよ♡♬

 「あなた、卵産めないでしょ!?」スズ、ツッコミ三連目。
 ハルは自分の放つ神気に魅了されていたので、自分はどこかのアイドル歌手だと思い込んでいました、なのでスズの言葉が耳に入りません。 

 ♬うんとこしょーの、どっこいしょ♪ うんとこしょーの、どっこいしょ♪
うんとこしょーの、どっこーいーしょ―――♪♪♬
  
 掌を合わせて天高く突き上げたハルは、上手く歌いきれて満足気。スズは正直イヤイヤでした。
 皆で歌った応援歌は効果抜群です。元気いっぱいの屋久杉の精霊は、太い根をドラゴンに巻きつけて、遂には絞め倒してしまいました。
 後は、数人の下級の吸血鬼を倒すだけです。



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