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18 逆恨みの妖魔 ~原因を転化する者の結末~
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実は、地中の深いところで、スズとメクラヘビのやり取りをずっと見ていた精霊がいました。
その女性は、メクラヘビの仕業を苦々しく見ていたのです。そして、罠にはまって地獄へ落ちるスズを、その度に助けていました。
スズが地表に這い出すたびにその女性は、嫌な顔をするメクラヘビの顔を見て、そばにいた精や妖精達と一緒になって、やんやんやと喜びの声をあげて騒いでいました。
メクラヘビは、蛇の中ではとても小さくて力の弱い魔界の住民でしたが、とてもずる賢くて、蛇だと気が付かれることなく、アリの巣に忍び込んでは、幼虫やサナギをさらって、ご飯にしていました。
そればかりか、魔界に住むシロアリすら無理やり眷属にして、餌にしていたほどです。白アリとしても、アリとはあまり仲が良くないので、アリと仲が悪いメクラヘビの傘下にいれば、巣を守る事が出来るので従っています。
シロアリは、大人になっても妖怪止まりの弱い存在でしたから仕方がありませんが、アリは違いました。アリは、種類によっては神や魔王にまで上り詰めたものもいました。
地下で地上の様子を見ていた女性は精霊で、大黒アリの女王でした。子供達を引き連れて花の里で甘い実を食べるツアーに参加していたのですが、ちょうどその時に戦争が始まってしまって、一番近くで大きなお城に避難していたのです。
メクラヘビに陥れられて落ちてくるスズを、土壌中に営巣していたアリ達を使って、受け止めていたのでした。
メクラヘビが身をよじらせて、地団駄を踏んでいます。
「くっそー! 何たることだ、この俺様があんな頭の悪そうな精1匹にやられるなんて・・・。
もう限界だ、魔気も尽きちまった」
スズを地獄に落とす事に失敗したメクラヘビの妖怪は、魔気を使い果たして息も絶え絶えです。
危ないのはハルだけじゃない、スズもだと気が付いたメクラヘビは、最後にヒアリ達にスズを謀殺するように進言して消え失せました。
もう結界は閉じていて、出口はありません。このままではみんなも自分と同じ運命をたどると脅されたヒアリの妖魔達は、スズを亡き者にしよう、と思い立ちました。
1匹のヒアリが、地位の高そうなヒアリに言いました。
「デグラン様、向こうで黒アリの巣穴を発見しました。
地獄への穴に落ちたミツスイは、黒アリの巣にいる模様です」
「うむ、そうか。それでは、全軍巣に突入だ」
ヒアリは、天界側の看護アリではありませんでした。とても強い毒のある魔界の軍団でした。軍団を率いてやって来た主のデグランは、遡上する八岐大蛇が起こした川の氾濫に巻き込まれて、ここまで流されてきたのです。
普通のアリであったなら全滅してしまう所でしたが、このヒアリは、ゲリラ戦と人海戦術が得意な特殊部隊でした。ですので、自らの体を組んでイカダを作り、薔薇城までたどり着いたのです。
アリの巣の中でキョロキョロしていたスズに、とても綺麗なドレスを着た優しそうな女性が呼びかけました。
「さあ、スズちゃん、こっちです! こっちに来て」
「え? あなたはだーれ?」
突然、優雅なドレスに身を包んだ女性に手を引かれて、びっくりしたスズは訊きました。
「わたしは、この巣の主の女王アリのクレアです。
あなたが落ちてきた穴から、もうすぐヒアリの大群が大挙して押し寄せてくるので、早く逃げましょう」
ヒアリ軍と大黒アリ軍との戦いの火ぶたが切って落とされました。どこからともなく響いてくる戦いの声に、スズは怖くてキョロキョロしています。迷路のようになっていたので、色々な通路から響いてきました。
連絡係のアリがひっきりなしにやってきます。
「女王様、あっちの道はもうだめです」
「女王様、この道を守っていた働きアリがやられました」
もともと大黒アリではヒアリに太刀打ちできません。しかも、ヒアリは訓練された軍隊であるのに対して、大黒アリ達は、虫の里のただの市民でしかありませから、力の差は歴然です。
クレアが狼狽えます。
「ああっ、どうしましょう、ここが最後の砦だわ。
あの門が破られたら、わたし達も、何の罪もない赤ちゃんたちも食べられてしまうわ」
クレアは嘆きました。スズが温かいオレンジ色のランプで照らされた後ろの部屋を見やると、沢山の赤ちゃんがベッドに並んで、すやすやとお休みしています。
スズは、ベビーベッドに近寄っていって、しばらく赤ちゃんの寝顔を見つめていました。そして、唇をかみしめて「よしっ」と叫ぶと、部屋を出て行きました。
既に、最後の門は破られていました。沢山のヒアリが広間になだれ込んできて、男の精霊達と闘っています。大黒アリは奮戦していますが、とても分が悪そうでした。兵隊アリとはいえ、私兵の黒アリでは全く歯が立ちません。大苦戦です。
そんな戦いの場に、思いがけない事が起こりました。皆目をぱちくりさせて見ています。なんと、スズが躍り出てきたのです。
「見て、わたしの可愛い上目使い、はにかんだ笑顔がとてもキュートでしょう?」
スズは、そう言いながら広間の中央に駆けて行って、お目目をぱちくりさせて、黒アリの働きアリ達にラブラブビームを照射します。
スズにチャームの力はありませんでしたが、貴婦人ウォッチングで鍛えた身振りと眼光は、そんじょそこらの精とは思えない力があります。もともと才能があって、とても可愛いスズですから、ちゃんと効果を発揮しました。
土まみれのお洋服では効果半減とばかりに、女王アリのクレアが色々なドレス用意してくれました。
お着替えを済ませて戻ってきたスズが、ウインクします。
「さあさぁわたしを見てらっしゃい♡ スズちゃんファッションショーの開催よー♡」
「きゃー! 可愛いー! スズちゃーん♡♡♡」
女王アリは大はしゃぎです。そんな中、突然広間が暗転したかと思うと、スポットライトがスズを照らします。
「さあ、やってまいりました! 第一回スズちゃんファッションショーの始まりです!!
実況はエメットと――」
「――わたくし、ルーシーがお届けしまーす」
お着替え室から続く花道を歩くスズに、みんながお囃子をつけます。
エメットの声が響きました。
「さあ始めは、おしとやかな白いドレス」
「おや? 流行りのハフスリーフがありませんね」
ルーシーの言葉に、ワンポイントがあるドレスだと言ったエメットが続けます。
「でも、可愛いラッフルが胸元を彩っていますよ。
何列もついているなんて、なんて手が込んでいるのでしょう」
「あっ! 次はわたしの大好きなハフスリーフですよ」
何着目かに登場したドレスは、肩が膨らんでいて、とても可愛らしい花柄のデザインです。アリの里で人気の型でした。
エメット興奮し過ぎです。
「おお、次のドレスもハフスリーフだね、だけどさっきと違って肩は普通だ」
「二の腕から手首までが膨らんでいて、とても大人びて見えます。とても年端もいかない幼児だとは思えません」
一応、スズは3000歳に満たない程度ですから、人間でいえば7、8歳位。幼児ではないのですが、遊んでばかりいたので、年齢に対して神気が弱く、幼く見える様です。
何度もお着替えしては、拍手喝采の中、可愛いポーズを決めて、お目目をぱちくり、ラブラブビームを照射します。効果抜群でした。スズのチャームで元気モリモリになった大黒アリ達は、次々に悪魔を倒していきます。
「おおー!」
「可愛いー!」
「L.O.V.E.I LOVEスズちゃーん!!」
働きアリの男達は、もうメロメロです。女中の女達もメロメロでした。
「スズ姉さま―! スズ姉さま―!」
小さな幼精もやって来て、自分を妹にしてほしいとせがんでいます。
はたから見ていたヒアリには、まったく効果がありません。一部に発生した暑い熱気にドン引きです。それでも、流れてきたピンク色のハートが頭に当って、惑わさられたヒアリが1匹2匹と出ました。その度に、ゴツンと頭を叩かれて、正気に返ります。
だんだんと押され始めて、ついに形勢逆転です。分が悪くなったヒアリは撤退を始めました。多くのヒアリが討たれる中、出口に向かって逃げていきます。
地上に出た火アリ達は、ご飯が無くて困っていたツバメに発見されて、次々に食べられていきました。黒アリとの戦いで弱っていたヒアリ達は、なす術なく逃げまどいます。
領主のデクランは、壊れかけて修復中だった茨の結界の穴を見つけて、何とか外に逃げ行きました。
勝利に沸く大黒アリ達がスズの活躍を讃える中、クレアの前に歩み出たスズが、スカートを摘まんで少し膝をかがめました。
「クレアさん、助けてくれてありがとう。
わたし、お礼に何もできないけれど、少しだけ美味しいおやつがあるのでプレゼント」
スズは、ポーチに入っていた光と蜜をお礼に全部クレアにあげました。
「あらそれは素敵だわ。遊んでばかりの一部のアリ達に奉仕できるわ」
スズには理解できない理由で喜ぶクレアをはじめ、アリの女の子たちはみんな素敵なドレスを着ています。興味津々のスズは、2着もらえないかおねだりしてみました。
クレアが楽しげに考えます。
「そうねぇ、何かサイズの合うのは無いかしら?」
「女王様、この間、成長期のアイヴィーが着れなくなったのが幾つかあるはずですが」
女中が答えます。言い終わると衣裳部屋に行って、ハフスリーブのドレスと肩と首から胸にかけてフリル飾りのあるドレスを持って来てくれました。
「2着で良いの?」クレアがスズに訊きます。
「うん、ハルちゃんと着るの」
綺麗なドレスを貰ったスズは大喜び。何故か昔実家から送られてきた古い蛇服を着ているハルにフリルドレスの方をあげる事にしました。
地上に戻ったスズは、さっそくハルの所に遊びに行きます。ハルは、思いがけないプレゼントに大興奮。
肩の膨らんだスズのドレスの方が豪華です。でもハルは、シンプルな方を好みますので、羨ましくありません。2人共大満足でした。
ルンルン気分のハルが、ふと気がついて訊きました。
「どうして、アリさんからドレスを貰えたの? アリさんのお友達がいたなんて、初耳だわ」
「お友達にはなったばかりよ。どうしてドレスを貰えたかはヒミツー」
妖怪に騙されてみんなを困らせてしまったとは、恥ずかしくて言えないスズでしたが、1人部屋にこもって、こっそりとバラに謝りました。お部屋中にお花が咲きましたので、きっとバラは許してくれたはずです。
みんなに迷惑をかけた分は、一生懸命みんなのお世話をすることで返しました。
その女性は、メクラヘビの仕業を苦々しく見ていたのです。そして、罠にはまって地獄へ落ちるスズを、その度に助けていました。
スズが地表に這い出すたびにその女性は、嫌な顔をするメクラヘビの顔を見て、そばにいた精や妖精達と一緒になって、やんやんやと喜びの声をあげて騒いでいました。
メクラヘビは、蛇の中ではとても小さくて力の弱い魔界の住民でしたが、とてもずる賢くて、蛇だと気が付かれることなく、アリの巣に忍び込んでは、幼虫やサナギをさらって、ご飯にしていました。
そればかりか、魔界に住むシロアリすら無理やり眷属にして、餌にしていたほどです。白アリとしても、アリとはあまり仲が良くないので、アリと仲が悪いメクラヘビの傘下にいれば、巣を守る事が出来るので従っています。
シロアリは、大人になっても妖怪止まりの弱い存在でしたから仕方がありませんが、アリは違いました。アリは、種類によっては神や魔王にまで上り詰めたものもいました。
地下で地上の様子を見ていた女性は精霊で、大黒アリの女王でした。子供達を引き連れて花の里で甘い実を食べるツアーに参加していたのですが、ちょうどその時に戦争が始まってしまって、一番近くで大きなお城に避難していたのです。
メクラヘビに陥れられて落ちてくるスズを、土壌中に営巣していたアリ達を使って、受け止めていたのでした。
メクラヘビが身をよじらせて、地団駄を踏んでいます。
「くっそー! 何たることだ、この俺様があんな頭の悪そうな精1匹にやられるなんて・・・。
もう限界だ、魔気も尽きちまった」
スズを地獄に落とす事に失敗したメクラヘビの妖怪は、魔気を使い果たして息も絶え絶えです。
危ないのはハルだけじゃない、スズもだと気が付いたメクラヘビは、最後にヒアリ達にスズを謀殺するように進言して消え失せました。
もう結界は閉じていて、出口はありません。このままではみんなも自分と同じ運命をたどると脅されたヒアリの妖魔達は、スズを亡き者にしよう、と思い立ちました。
1匹のヒアリが、地位の高そうなヒアリに言いました。
「デグラン様、向こうで黒アリの巣穴を発見しました。
地獄への穴に落ちたミツスイは、黒アリの巣にいる模様です」
「うむ、そうか。それでは、全軍巣に突入だ」
ヒアリは、天界側の看護アリではありませんでした。とても強い毒のある魔界の軍団でした。軍団を率いてやって来た主のデグランは、遡上する八岐大蛇が起こした川の氾濫に巻き込まれて、ここまで流されてきたのです。
普通のアリであったなら全滅してしまう所でしたが、このヒアリは、ゲリラ戦と人海戦術が得意な特殊部隊でした。ですので、自らの体を組んでイカダを作り、薔薇城までたどり着いたのです。
アリの巣の中でキョロキョロしていたスズに、とても綺麗なドレスを着た優しそうな女性が呼びかけました。
「さあ、スズちゃん、こっちです! こっちに来て」
「え? あなたはだーれ?」
突然、優雅なドレスに身を包んだ女性に手を引かれて、びっくりしたスズは訊きました。
「わたしは、この巣の主の女王アリのクレアです。
あなたが落ちてきた穴から、もうすぐヒアリの大群が大挙して押し寄せてくるので、早く逃げましょう」
ヒアリ軍と大黒アリ軍との戦いの火ぶたが切って落とされました。どこからともなく響いてくる戦いの声に、スズは怖くてキョロキョロしています。迷路のようになっていたので、色々な通路から響いてきました。
連絡係のアリがひっきりなしにやってきます。
「女王様、あっちの道はもうだめです」
「女王様、この道を守っていた働きアリがやられました」
もともと大黒アリではヒアリに太刀打ちできません。しかも、ヒアリは訓練された軍隊であるのに対して、大黒アリ達は、虫の里のただの市民でしかありませから、力の差は歴然です。
クレアが狼狽えます。
「ああっ、どうしましょう、ここが最後の砦だわ。
あの門が破られたら、わたし達も、何の罪もない赤ちゃんたちも食べられてしまうわ」
クレアは嘆きました。スズが温かいオレンジ色のランプで照らされた後ろの部屋を見やると、沢山の赤ちゃんがベッドに並んで、すやすやとお休みしています。
スズは、ベビーベッドに近寄っていって、しばらく赤ちゃんの寝顔を見つめていました。そして、唇をかみしめて「よしっ」と叫ぶと、部屋を出て行きました。
既に、最後の門は破られていました。沢山のヒアリが広間になだれ込んできて、男の精霊達と闘っています。大黒アリは奮戦していますが、とても分が悪そうでした。兵隊アリとはいえ、私兵の黒アリでは全く歯が立ちません。大苦戦です。
そんな戦いの場に、思いがけない事が起こりました。皆目をぱちくりさせて見ています。なんと、スズが躍り出てきたのです。
「見て、わたしの可愛い上目使い、はにかんだ笑顔がとてもキュートでしょう?」
スズは、そう言いながら広間の中央に駆けて行って、お目目をぱちくりさせて、黒アリの働きアリ達にラブラブビームを照射します。
スズにチャームの力はありませんでしたが、貴婦人ウォッチングで鍛えた身振りと眼光は、そんじょそこらの精とは思えない力があります。もともと才能があって、とても可愛いスズですから、ちゃんと効果を発揮しました。
土まみれのお洋服では効果半減とばかりに、女王アリのクレアが色々なドレス用意してくれました。
お着替えを済ませて戻ってきたスズが、ウインクします。
「さあさぁわたしを見てらっしゃい♡ スズちゃんファッションショーの開催よー♡」
「きゃー! 可愛いー! スズちゃーん♡♡♡」
女王アリは大はしゃぎです。そんな中、突然広間が暗転したかと思うと、スポットライトがスズを照らします。
「さあ、やってまいりました! 第一回スズちゃんファッションショーの始まりです!!
実況はエメットと――」
「――わたくし、ルーシーがお届けしまーす」
お着替え室から続く花道を歩くスズに、みんながお囃子をつけます。
エメットの声が響きました。
「さあ始めは、おしとやかな白いドレス」
「おや? 流行りのハフスリーフがありませんね」
ルーシーの言葉に、ワンポイントがあるドレスだと言ったエメットが続けます。
「でも、可愛いラッフルが胸元を彩っていますよ。
何列もついているなんて、なんて手が込んでいるのでしょう」
「あっ! 次はわたしの大好きなハフスリーフですよ」
何着目かに登場したドレスは、肩が膨らんでいて、とても可愛らしい花柄のデザインです。アリの里で人気の型でした。
エメット興奮し過ぎです。
「おお、次のドレスもハフスリーフだね、だけどさっきと違って肩は普通だ」
「二の腕から手首までが膨らんでいて、とても大人びて見えます。とても年端もいかない幼児だとは思えません」
一応、スズは3000歳に満たない程度ですから、人間でいえば7、8歳位。幼児ではないのですが、遊んでばかりいたので、年齢に対して神気が弱く、幼く見える様です。
何度もお着替えしては、拍手喝采の中、可愛いポーズを決めて、お目目をぱちくり、ラブラブビームを照射します。効果抜群でした。スズのチャームで元気モリモリになった大黒アリ達は、次々に悪魔を倒していきます。
「おおー!」
「可愛いー!」
「L.O.V.E.I LOVEスズちゃーん!!」
働きアリの男達は、もうメロメロです。女中の女達もメロメロでした。
「スズ姉さま―! スズ姉さま―!」
小さな幼精もやって来て、自分を妹にしてほしいとせがんでいます。
はたから見ていたヒアリには、まったく効果がありません。一部に発生した暑い熱気にドン引きです。それでも、流れてきたピンク色のハートが頭に当って、惑わさられたヒアリが1匹2匹と出ました。その度に、ゴツンと頭を叩かれて、正気に返ります。
だんだんと押され始めて、ついに形勢逆転です。分が悪くなったヒアリは撤退を始めました。多くのヒアリが討たれる中、出口に向かって逃げていきます。
地上に出た火アリ達は、ご飯が無くて困っていたツバメに発見されて、次々に食べられていきました。黒アリとの戦いで弱っていたヒアリ達は、なす術なく逃げまどいます。
領主のデクランは、壊れかけて修復中だった茨の結界の穴を見つけて、何とか外に逃げ行きました。
勝利に沸く大黒アリ達がスズの活躍を讃える中、クレアの前に歩み出たスズが、スカートを摘まんで少し膝をかがめました。
「クレアさん、助けてくれてありがとう。
わたし、お礼に何もできないけれど、少しだけ美味しいおやつがあるのでプレゼント」
スズは、ポーチに入っていた光と蜜をお礼に全部クレアにあげました。
「あらそれは素敵だわ。遊んでばかりの一部のアリ達に奉仕できるわ」
スズには理解できない理由で喜ぶクレアをはじめ、アリの女の子たちはみんな素敵なドレスを着ています。興味津々のスズは、2着もらえないかおねだりしてみました。
クレアが楽しげに考えます。
「そうねぇ、何かサイズの合うのは無いかしら?」
「女王様、この間、成長期のアイヴィーが着れなくなったのが幾つかあるはずですが」
女中が答えます。言い終わると衣裳部屋に行って、ハフスリーブのドレスと肩と首から胸にかけてフリル飾りのあるドレスを持って来てくれました。
「2着で良いの?」クレアがスズに訊きます。
「うん、ハルちゃんと着るの」
綺麗なドレスを貰ったスズは大喜び。何故か昔実家から送られてきた古い蛇服を着ているハルにフリルドレスの方をあげる事にしました。
地上に戻ったスズは、さっそくハルの所に遊びに行きます。ハルは、思いがけないプレゼントに大興奮。
肩の膨らんだスズのドレスの方が豪華です。でもハルは、シンプルな方を好みますので、羨ましくありません。2人共大満足でした。
ルンルン気分のハルが、ふと気がついて訊きました。
「どうして、アリさんからドレスを貰えたの? アリさんのお友達がいたなんて、初耳だわ」
「お友達にはなったばかりよ。どうしてドレスを貰えたかはヒミツー」
妖怪に騙されてみんなを困らせてしまったとは、恥ずかしくて言えないスズでしたが、1人部屋にこもって、こっそりとバラに謝りました。お部屋中にお花が咲きましたので、きっとバラは許してくれたはずです。
みんなに迷惑をかけた分は、一生懸命みんなのお世話をすることで返しました。
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