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7 妨碍の悪魔 ~繰り返せば傷は膿み、取り返しがつかない腐肉と化す~
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強い癖のある濃い灰色の髪は、クネクネと揺らいでいます。鋭い眼光を放つ切れ長でとても垂れた目に目玉は1つずつしかないのに、小さな黒目は沢山あって、それぞれが別々に躍動して色々な方向を見ていました。
虫の足をつなげて編んだ帷子は黒光り、我は王者なりと叫んでいるかのようです。この鎧は、虫の里のカブトムシの神々の亡骸で作られていたからです。死んで消滅する前に呪縛したのでした。
腰の前と横には、カブトムシの羽で作った腰当があって、左右には、大きく波打ったサーベルをぶら下げています。これは、大クワガタの神のあごから作られていました。
カブトムシもクワガタも天界側の神様ですが、先の天魔戦争で皇子に敗れ、武器コレクションにされてしまったのです。
当時の虫の主神であるヘラクレスオオカブトのアーノルドの善戦よって、なんとか悪魔軍を押し返すことが出来ましたが、多くの上位神が死んでしまいました。それほど、悪魔の皇子は恐ろしい相手でした。
バラは悲壮に顔を歪めて、城を取り囲む数多の悪魔を見渡しました。
空も地平線も見えないほどに埋め尽くされています。1人1人の魔気は小さく、バラの神気と比べれば取るに足りません。神気を発して、腕を振るえば、一薙ぎに出来るでしょう。
ですがバラに戦意は湧きません。心が折れてしまっていたからです。
最初に攻めてきたのは、沢山のコウモリの一団でした。バラの蜜や茎を流れる水を吸い上げて、枯らそうとしたのです。
コウモリの殆どは妖魔で、バラから見ればたいした事がありません。お堀に施されている睡蓮の結界も破る事ができないでしょうから、気にも留めませんでした。
もともと姫の一部でしたが、今は独立した精霊の宿った睡蓮です。ですから、コウモリが結界に接触したところで、姫を煩わせるとこはありません。
バラは、魔界の軍勢が花の里を侵略してきたことを姫には言わず、いつもの様に楽しく過ごしながら、同時に城の外でコウモリを薙ぎ払いました。
次に押し寄せてきたのは、ムクドリの一団でした。大群で押し寄せ、イバラに巣をつくり、フン害で腐らせてしまおうとしたのです。
黒い塊になって、ウネウネと空を飛び回るムクドリの妖魔達は、散開したり集合したりを繰り返しながら、上手くバラの攻撃をよけました。
バラが眷属の子供達を押し出して攻めかかろうとすると退き、城に戻そうとすると攻めてきます。
バラもバカではありません。ムクドリを率いる悪魔は自分をおびき出そうとしているのだと考え、バラの騎士団を出陣させずに城のそばに留め置きます
しかしムクドリは諦めません。夕方になると、城の周りに生えている木や裏の林や森を寝床にして、永遠と叫び続けています。
日中はバラの周りを飛び回り、夜はうるさく騒ぎ立てているので、バラの騎士団は日夜心が休まりません。戦わずにして、段々と疲弊していったのです。
城下町はバラの保護下にあって、悪魔達は侵入してこられません。とても香りが強くて、しかも濃厚なバラの神気が充満していたからです。ですが、ムクドリたちの鳴き声がうるさくて夜も眠れません。ひねもす響く絶叫に、みんなはへきへききていました。
城下に住む有力な神々が、連盟の嘆願書を持って来て言いました。
「バラ様、どうかお願いでございます。閣下のお力で、あの忌々しいムクドリを退治していただけないでしょうか。
あのように日夜奇声を発せられると、気が変になってしまいそうです」
城のそばにある役所として使われていた小さなお城で、それを聞いたバラは何とか町の平穏な夜を守らなければならないと思いましたが、兵法上は攻めるのは得策ではありません。
そもそも、城攻めは攻める方の分が悪く、少なくても3倍の兵士が必要と言われているほどですから。バラは、接近してくる敵を城から攻撃してうち滅ぼし、兵士達に野戦をさせない方が良いと考えていたのでした。
ですがムクドリの鳴き声は、日に日に増していきました。最初に攻めてきたコウモリたちも加わって、ギーギー鳴いています。林や森の精霊達も鳴き声や糞害に困り果て、バラに助けを求めました。
それに加えて、アブラムシの悪魔が率いる歩兵団が進軍してきている、と戻ってきた斥候隊が報告してきたのです。
バラは考えました。ムクドリは自分をおびき出して、伏兵のアブラムシの歩兵団に包囲させる気だったのだと。自分が出陣しない事にしびれを切らせて、正面から攻撃を始めるのだと思いました。
アブラムシの悪魔たちを含めても、まだ、バラの騎士団の数の1/4にも満たない勢力です。囲まれれば、多くのバラの花が落とされたかもしれませんが、正面から攻め来るのであれば、騎士団の突撃で蹴散らす事が出来るでしょう。
バラは、自信満々で言いました。
「親愛なる我が子らよ、聞け。
今日は素晴らしき良き日である。
皆の初陣の日であり、勝利の日となるからである。
美しき花の里に攻めてきた事、そして、姫の騎士たる我々に刃を向けた事を後悔させてやろうではないか」
眼下に広がる隊列は雄叫びをあげて、バラの主神に応えます。
「皆の者、出撃だ!」
3個大隊のアブラムシが丘を登って進行してきます。その上には、ムクドリの2個大隊が飛んでいました。かく乱の為でしょうか、コウモリの1個大隊は、バラバラになって無秩序に飛んでいます。
斥候兵から敵の陣形を聞いたバラは、松の神から借りた兵法書に従って軍勢を地上と上空の2師団に分けました。戦になってしまう事に、もはや何の躊躇もありません。
この時、バラは気が付いていませんでした。城下町や森に対して行われていた嫌がらせは、ひとえにバラを城の外へおびき出すためだけを目的に行われていたという事を。
虫の足をつなげて編んだ帷子は黒光り、我は王者なりと叫んでいるかのようです。この鎧は、虫の里のカブトムシの神々の亡骸で作られていたからです。死んで消滅する前に呪縛したのでした。
腰の前と横には、カブトムシの羽で作った腰当があって、左右には、大きく波打ったサーベルをぶら下げています。これは、大クワガタの神のあごから作られていました。
カブトムシもクワガタも天界側の神様ですが、先の天魔戦争で皇子に敗れ、武器コレクションにされてしまったのです。
当時の虫の主神であるヘラクレスオオカブトのアーノルドの善戦よって、なんとか悪魔軍を押し返すことが出来ましたが、多くの上位神が死んでしまいました。それほど、悪魔の皇子は恐ろしい相手でした。
バラは悲壮に顔を歪めて、城を取り囲む数多の悪魔を見渡しました。
空も地平線も見えないほどに埋め尽くされています。1人1人の魔気は小さく、バラの神気と比べれば取るに足りません。神気を発して、腕を振るえば、一薙ぎに出来るでしょう。
ですがバラに戦意は湧きません。心が折れてしまっていたからです。
最初に攻めてきたのは、沢山のコウモリの一団でした。バラの蜜や茎を流れる水を吸い上げて、枯らそうとしたのです。
コウモリの殆どは妖魔で、バラから見ればたいした事がありません。お堀に施されている睡蓮の結界も破る事ができないでしょうから、気にも留めませんでした。
もともと姫の一部でしたが、今は独立した精霊の宿った睡蓮です。ですから、コウモリが結界に接触したところで、姫を煩わせるとこはありません。
バラは、魔界の軍勢が花の里を侵略してきたことを姫には言わず、いつもの様に楽しく過ごしながら、同時に城の外でコウモリを薙ぎ払いました。
次に押し寄せてきたのは、ムクドリの一団でした。大群で押し寄せ、イバラに巣をつくり、フン害で腐らせてしまおうとしたのです。
黒い塊になって、ウネウネと空を飛び回るムクドリの妖魔達は、散開したり集合したりを繰り返しながら、上手くバラの攻撃をよけました。
バラが眷属の子供達を押し出して攻めかかろうとすると退き、城に戻そうとすると攻めてきます。
バラもバカではありません。ムクドリを率いる悪魔は自分をおびき出そうとしているのだと考え、バラの騎士団を出陣させずに城のそばに留め置きます
しかしムクドリは諦めません。夕方になると、城の周りに生えている木や裏の林や森を寝床にして、永遠と叫び続けています。
日中はバラの周りを飛び回り、夜はうるさく騒ぎ立てているので、バラの騎士団は日夜心が休まりません。戦わずにして、段々と疲弊していったのです。
城下町はバラの保護下にあって、悪魔達は侵入してこられません。とても香りが強くて、しかも濃厚なバラの神気が充満していたからです。ですが、ムクドリたちの鳴き声がうるさくて夜も眠れません。ひねもす響く絶叫に、みんなはへきへききていました。
城下に住む有力な神々が、連盟の嘆願書を持って来て言いました。
「バラ様、どうかお願いでございます。閣下のお力で、あの忌々しいムクドリを退治していただけないでしょうか。
あのように日夜奇声を発せられると、気が変になってしまいそうです」
城のそばにある役所として使われていた小さなお城で、それを聞いたバラは何とか町の平穏な夜を守らなければならないと思いましたが、兵法上は攻めるのは得策ではありません。
そもそも、城攻めは攻める方の分が悪く、少なくても3倍の兵士が必要と言われているほどですから。バラは、接近してくる敵を城から攻撃してうち滅ぼし、兵士達に野戦をさせない方が良いと考えていたのでした。
ですがムクドリの鳴き声は、日に日に増していきました。最初に攻めてきたコウモリたちも加わって、ギーギー鳴いています。林や森の精霊達も鳴き声や糞害に困り果て、バラに助けを求めました。
それに加えて、アブラムシの悪魔が率いる歩兵団が進軍してきている、と戻ってきた斥候隊が報告してきたのです。
バラは考えました。ムクドリは自分をおびき出して、伏兵のアブラムシの歩兵団に包囲させる気だったのだと。自分が出陣しない事にしびれを切らせて、正面から攻撃を始めるのだと思いました。
アブラムシの悪魔たちを含めても、まだ、バラの騎士団の数の1/4にも満たない勢力です。囲まれれば、多くのバラの花が落とされたかもしれませんが、正面から攻め来るのであれば、騎士団の突撃で蹴散らす事が出来るでしょう。
バラは、自信満々で言いました。
「親愛なる我が子らよ、聞け。
今日は素晴らしき良き日である。
皆の初陣の日であり、勝利の日となるからである。
美しき花の里に攻めてきた事、そして、姫の騎士たる我々に刃を向けた事を後悔させてやろうではないか」
眼下に広がる隊列は雄叫びをあげて、バラの主神に応えます。
「皆の者、出撃だ!」
3個大隊のアブラムシが丘を登って進行してきます。その上には、ムクドリの2個大隊が飛んでいました。かく乱の為でしょうか、コウモリの1個大隊は、バラバラになって無秩序に飛んでいます。
斥候兵から敵の陣形を聞いたバラは、松の神から借りた兵法書に従って軍勢を地上と上空の2師団に分けました。戦になってしまう事に、もはや何の躊躇もありません。
この時、バラは気が付いていませんでした。城下町や森に対して行われていた嫌がらせは、ひとえにバラを城の外へおびき出すためだけを目的に行われていたという事を。
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