愛するということ

緒方宗谷

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54.高知

3.大葉博樹

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 時計を見ると、まだお昼前。この時間では、大葉の家に行ってもさすがに彼には会えないだろう。
 学校は分かっている。裏サイトの動画は中学生の頃のものだが、今通っている高校名も掲載されていた。陸の行っていた高校と同じだ。2人はスマホの位置情報を利用して学校まで歩いて行く。
 さすがに高知駅から離れると、だいぶ田舎町の雰囲気が出てきた。道路は広くなく、場所によっては、歩道と車道が分かれていない道路もある。左右には古めかしい昭和の民家が立ち並んでいた。
 放課後まで時間があった。加奈子は郷土料理をお昼で食べたい、と思ってしばらく探したが、全く見当たらない。そもそも食堂すら無い。観光地ではないから仕方がないのだが、2人はがっかりした。
 大きなスーパーを見つけて、お弁当を買った。駐車場でそれを食べ終えて時計を見ると、授業が終わるまでまだ何時間もある。時間つぶしをする場所もない。加奈子は、学校に行って大葉を呼び出してもらうことを提案した。渋る有紀子の手を引いて、加奈子は学校に向かった。
 なのに校門の前まで来て、加奈子が躊躇している。
「なんか、入りづらいね」
 確かに他校に入るのは気が引ける。制服が同じ様であればいいのだが、2人の制服はエメラルドグリーン、対してこの学校はネイビーブルーだ。目立たないわけがない。
 でも2人は運が良かった。訪問者用と手書きで書かれた看板を見つけて、下駄箱が並ぶ入り口へ向かって歩いていた時、そこからあの映像の生徒と思われる男子が出てきた。
「有紀、あの人じゃない?」加奈子が小声で言って、顎で指す。
 確かにそうだ。雰囲気から、乙女らしさが感じられる。2人は目を見合わせて頷き、意を決っして話しかけた。
「あの…………」加奈子が呼び止める。「……大葉君……ですか?……私達東京から来た村上加奈子と言います、こっちは――」
「渡辺有紀子です」
 有紀子は、勇気無さげに会釈する。
 2人とも何から話して良いか分からなかった。2人共シドロモドロしながら、加奈子が上条陸のことを話し出す。
 初めはきょとんとしていた大葉であったが、しばらくして陸の名が出ると、頬をほころばせてきゃぴきゃぴし出した。間違いなく女の子だ。
 だがすぐに表情が曇る。加奈子が闇サイトの話をしたからだ。
「今、東京で問題になっているんです。だから、真相が知りたくて……」
 加奈子の話を聞き終わる前に、大葉は歩き出した。
「帰って、俺、話すことなにもないから」
 男子にしては高い声だ。まるで、虹色マーブルの甘いキャンディの様。
「遊び半分でわざわざこんなところに押しかけられてもね、すっごい迷惑」大葉が吐き捨てた。
 その背中を有紀子が追いすがる。
「遊び半分じゃないんです。私、陸君の幼馴染で、だから!」
「知らないよ‼」
 大葉は、駆け寄ろうとした有紀子の前で学生かばんを振って威嚇する。2人は取りつく島もなく呆然と立ち尽くした。

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