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53.闇サイト
1.知らない陸
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12月、3年の全クラスに衝撃的なある噂が広がっていた。チラチラと陸を見なりながらヒソヒソと何か話している。朝、教室に入るなり感じたみんなの異様な空気に、言い知れぬ不安を覚えた有紀子は、何があったのか確かめようとして、不安の影を探す。
見ると、友達の京子が何やら智子と話している。有紀子は京子に声をかけた。
「えー? ゆっこ噂知らないの?」京子が、抑えながらも大きな声で驚く。すぐにボリュームを下げて「上条君の話。前の学校でイジメしてたんだって。怖いよね」と囁いた。
「そうそう、しかも、マイノリティの男子をイジメてたんだってさ」智子が補足する。
有紀子はまさかと思った。視界に映っていた自分の席にカバンを置いて座った加奈子の表情が曇っていくのが分かる。
「嘘でしょ、京子?」
椅子を持って来てそばに座ってそう訊く有紀子に、智子が言う。
「嘘じゃないって、サイトに出てるもん、動画付きで」
そんな証拠まであるのか。でも、それでも信じられない。机に臥せる陸を見ながら有紀子は思った。
陸の背中を見やった智子が言う。
「でも、やっぱりそういうことするよね、シャーペン事件の時だってすごく怖かったし。もしかして、それで転校させられてんじゃない?」
「それは、記憶喪失の・・」
「イジメでクビになったなんて言えないじゃん」
智子に言葉を遮られた有紀子は、それ以上言えなかった。
陸はイジメをするようなタイプではない。有紀子は今まで陸と接していてそう確信できていた。だが智子は、転校させられたから大人しくしているんだと言う。
高知時代のことは知らない。陸も話そうとしないから、有紀子も加奈子もあまり訊こうとしなかった。
高知の人には申し訳ないが、これと言ってイメージが湧かないし、観光地もしらない。何とかってお殿様がいた、と陸が言っていたが、聞いたことのない変な名前の人だとしか思わなかった。確か坂本龍馬も出身だったと言っていたっけ?
それで有紀子は幕末を勉強しようと思ったことがある。
幕末の動乱期は大変複雑だ。親幕と討幕にはっきり分かれていれば楽なのだが、時期によって立場や敵味方が入れ替わる。歴史好きでも難しくてとっつきにくいと嫌煙する人もいるほどだ。
当然、歴史や武士に興味のない有紀子は、本屋で見つけた初心者向けの幕末関係の本を開いて5秒で閉じた。そしてそれ以来、幕末の存在を忘れた。
有紀子の中の陸は、未だに7歳の延長線上にいる。記憶喪失中の陸を認めていない証拠だと思った。不意に当時の陸の心の中を見てみたい、と思った。そして、みんなから守ってあげたい、と思った。
見ると、友達の京子が何やら智子と話している。有紀子は京子に声をかけた。
「えー? ゆっこ噂知らないの?」京子が、抑えながらも大きな声で驚く。すぐにボリュームを下げて「上条君の話。前の学校でイジメしてたんだって。怖いよね」と囁いた。
「そうそう、しかも、マイノリティの男子をイジメてたんだってさ」智子が補足する。
有紀子はまさかと思った。視界に映っていた自分の席にカバンを置いて座った加奈子の表情が曇っていくのが分かる。
「嘘でしょ、京子?」
椅子を持って来てそばに座ってそう訊く有紀子に、智子が言う。
「嘘じゃないって、サイトに出てるもん、動画付きで」
そんな証拠まであるのか。でも、それでも信じられない。机に臥せる陸を見ながら有紀子は思った。
陸の背中を見やった智子が言う。
「でも、やっぱりそういうことするよね、シャーペン事件の時だってすごく怖かったし。もしかして、それで転校させられてんじゃない?」
「それは、記憶喪失の・・」
「イジメでクビになったなんて言えないじゃん」
智子に言葉を遮られた有紀子は、それ以上言えなかった。
陸はイジメをするようなタイプではない。有紀子は今まで陸と接していてそう確信できていた。だが智子は、転校させられたから大人しくしているんだと言う。
高知時代のことは知らない。陸も話そうとしないから、有紀子も加奈子もあまり訊こうとしなかった。
高知の人には申し訳ないが、これと言ってイメージが湧かないし、観光地もしらない。何とかってお殿様がいた、と陸が言っていたが、聞いたことのない変な名前の人だとしか思わなかった。確か坂本龍馬も出身だったと言っていたっけ?
それで有紀子は幕末を勉強しようと思ったことがある。
幕末の動乱期は大変複雑だ。親幕と討幕にはっきり分かれていれば楽なのだが、時期によって立場や敵味方が入れ替わる。歴史好きでも難しくてとっつきにくいと嫌煙する人もいるほどだ。
当然、歴史や武士に興味のない有紀子は、本屋で見つけた初心者向けの幕末関係の本を開いて5秒で閉じた。そしてそれ以来、幕末の存在を忘れた。
有紀子の中の陸は、未だに7歳の延長線上にいる。記憶喪失中の陸を認めていない証拠だと思った。不意に当時の陸の心の中を見てみたい、と思った。そして、みんなから守ってあげたい、と思った。
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