愛するということ

緒方宗谷

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50.病院

1.蚊帳の外

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 陸達が事件に巻き込まれたちょうど同じ日、知恵は友達と渋谷に行っていた。事件翌日、何も知らない知恵が教室に入ると、すぐに友達のひかるが、「大ニュース! 大ニュース!」と言いながら駆け寄って来た。
「ねえ、知恵、彼氏のこと聞いた?」
「何?」
「昨日、国分寺で大げんかだって」
「うそ⁉」
「本当、大怪我して入院だって」
 教室に入って席に座るや否や陸のことを聞いた知恵は、びっくりして立ち上がった。間髪入れずにどこの病院か聞いて走って教室を駆け出し、そのまま急いで病院に直行、着くなりすぐに面会の手続きをしようと受付に駆けていく。
「坂本知恵です」
「ご家族の方じゃないんですか? 申し訳ないですが、ご家族の方以外には教えられません」
 全く取り合ってもらえない。何を言っても規則上無理だと言う返事しか返ってこなかった。
 それでも知恵は心配で帰るに帰れない。どうしようかと途方に暮れて、ロビーやエントランスをウロウロしていた。
 知恵の心は、捨てられた子犬が段ボール箱の中で雨に打たれて泣いているようだった。急に遠くへ行ってしまおうとする陸の背中に追いすがるように、泣いて求めた。
 胸が苦しくて瞳が潤んできた丁度その時、見慣れた制服が目に飛び込んできた。見ると3年の篠原里美だ。里美は陸のお見舞いに来て帰るところだった。
 知恵は、急に全身がカッと熱くなった。熟れたいちじくが割れるように、怒りで脳天が割れた。
(あいつのせいだ! あいつが陸君を誘わなければ、こんなことにならなかったんだ)
 同じ学校の生徒で、あの事件を目撃した者は誰もいなかった。目撃した他校の生徒が、その友達に話し、その友達が中学の時の友達である近所のひかるに話した。又聞きの又聞きだったから、知恵は最初まさかと思ったが、里美を見て間違いない、と信じた。
「篠原先輩、ちょっといいですか?」
いきなり知恵と出くわしてびっくりした様子の里美に、知恵は病室を教えてくれるように頼んだ。
「はぁ? 知らないよ私」里美は訝しげに言う。そして、やましいことを隠すかのように視線をそらした。
「友達が見たんです。他に3人の女子がいたって。その1人って篠原先輩なんじゃないんですか?」
 それを聞いた里美は、知恵は健気で一生懸命な子だと思った。
(この子、とても心配で居ても立ってもいられずにここに来たんだ。自分が逆の立場だったらどうしていただろう? 多分心臓が潰れる思いをしながら教室で耐えてただろうな)
 里美は知恵に同情した。

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