愛するということ

緒方宗谷

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41.えっち

3.パルピテーション

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 島根が自分の住むマンションに戻ってくると、玄関の前に彩絵が蹲っていた。
「たっちゃん……」
 エレベータのドアが開いて出てきた足音が自分に向かってきていることに気が付いた彩絵は、顔をあげて言った。
 見上げた島根は悲壮な顔をしていた。何か失ってはいけないようなものを失った時のような、ガラス細工というか、氷細工というか、無残に砕け散ってしまった大切な宝物を目の前にしたかのような蒼々たる表情だ。
 残酷な結果を帯びているのではないか、と怯えたじろぐ彩絵は、最初の一言以降声をかけることが出来ない。
 島根は、見上げる彼女を見つめ続けたまま膝をついてから、徐にキスをした。そのまま彩絵を持ち上げて立たせ、腰を抱きしめる。そして、中腰の自身も直立した。抱きしめられたままの彩絵の足が宙ぶらりんになる。
 しばらくの間濃厚なキスが続いた後、ゆっくりと彩絵を下ろした島根は、玄関の鍵を開けて、目で先に入るように促す。
 おずおずと部屋に入った彩絵は、どのような話があるのだろうと思いながら、フローリングに置いてあるクッションに座った。
 だが、意外にも島根は何も話さない。クッションを両方のすねの間に挟んで崩した正座の様な格好で座る彩絵を持ち上げてベッドに寝かせると、妄りに彼女の肌を求める。
「シャワー浴びないと」彩絵が拒む。
「浴びなくていい、今すぐ、今すぐ彩絵ちゃんを抱きたいんだ」
 島根の声は震えていた。泣いているかのようだ。
 仰向けに寝る彩絵の上に跨る形で四つん這いになった島根は、今日あった出来事をしどろもどろ話し始める。
 彩絵は黙ってそれを聞いていた。先輩と口づけした唇だ、と思うと、無性に腹立たしい。嫉妬が生まれた。その嫉妬の炎は、美由紀の気配を焼き消さんとばかりに燃え上がり、島根の唇を求め覆う。2人は、長く長く抱きしめ合った。 
 小鳥のさえずりが聞こえて彩絵が目を覚ますと、既に朝を迎えていた。カーテンのはしから差し込む朝日の強さからいって、もう7時くらいだろう。島根を見やると、いつもの様に無防備な表情で寝ている。
 彩絵は島根に背を向けて、男らしい(と思っている)胸板に自らの背中を重ねた。そして、彼の硬い両腕を胸の前で交差させて、彼の体温に包まった。
 とても幸せだ。彩絵は島根の香りを胸いっぱいに吸い込んで、瞳を閉じる。永遠にこのままでいられたらいいな、と思いながら、幸せの中に微睡んだ。

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