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36.近藤美由紀の悩み
4.恋愛観
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そもそも、道徳観や社会観は国よって異なる。日本だって昔は側室がいるのが当たり前だった。もしかしたら、今の一夫一妻は戦後になってからかもしれない、と美由紀は思った。
中東に行けば一夫多妻の国があると聞いたことがあるし、多夫一妻の国の話をテレビで見たこともある。よくよく考えたら、母親や子供を地域で育てる仕組みのある進んだ国は、ある意味超進化した多夫多妻の国と見ることも可能ではなかろうか。
昔はどうだったのだろう、と文化人類学の教授の研究室に遊びに行った美由紀は、中世近世の一夫一妻は悪だったのか、男の欲望の結果だったのか、と聞いてみた。すると、意外な答えが返ってきた。
教授は、一夫多妻は社会システムだと言う。例えば、日本の国主や藩主と言われた人たちは、地位を世襲していた。だから、もし子供がいなければ、兄弟や親せきに宗家が取って代わられてしまうかもしれない。
それだけなら問題なさそうに見えるが、新しく入ってくるお殿様には家臣団がいるから、今までの家臣は城から追い出されてしまう。当然抵抗があるから内戦になりかねない。領民としては、国が荒廃するからやめてほしい。
正室(正妻)から見ても、夫であるお殿様が死んで別の権力者が入城してお殿様になれば、自分は尼寺に入らなければならない。対して側室に子がいて地位を継いでくれれば、正室としての地位は保てる。
国境(くにざかい)の向こうでは、政(まつりごと)が混乱して疲弊した領土をかすめ取ろうと、方々のお殿様が虎視眈々と狙っている。今と違って国際法や戦争に関する法があるわけではないから、乱捕りは当たり前だ。
乱捕りとは、要は略奪のこと。占領した軍勢が、米や財産を取り上げて兵糧とする。当然、下っ端の足軽連中は、満足に給料をもらっていないから、乱捕りで得るおこぼれが大きな収入源だ。
最悪殺されたり、さらわれて人買いに売られてしまう。現に、武田信玄は、寺に集めた村人を人買いに売ってしまった。義の武将である上杉謙信ですら、川中島の戦いで乱捕りをしている。
中東の全ての一夫多妻の制度が同じ理由ではないが、中東が一夫多妻を採用した理由の一つに戦争未亡人の問題があった。
もともと砂漠の多い中東は、女性が生きにくい環境である。戦争で夫が死んで、生きていくのが困難となった女性を救うべく、裕福な王侯貴族などが養ってあげたのが起源の一つだという。
今の日本人の感覚で考えれば、一夫一妻以外は不道徳な行為に映るが、時代や文化、環境が違うのに、今の平和な日本に生きる自分が善悪をジャッジするのはおかしい。
美由紀は教授の話を聞いて、そのような考えに至った。
中東に行けば一夫多妻の国があると聞いたことがあるし、多夫一妻の国の話をテレビで見たこともある。よくよく考えたら、母親や子供を地域で育てる仕組みのある進んだ国は、ある意味超進化した多夫多妻の国と見ることも可能ではなかろうか。
昔はどうだったのだろう、と文化人類学の教授の研究室に遊びに行った美由紀は、中世近世の一夫一妻は悪だったのか、男の欲望の結果だったのか、と聞いてみた。すると、意外な答えが返ってきた。
教授は、一夫多妻は社会システムだと言う。例えば、日本の国主や藩主と言われた人たちは、地位を世襲していた。だから、もし子供がいなければ、兄弟や親せきに宗家が取って代わられてしまうかもしれない。
それだけなら問題なさそうに見えるが、新しく入ってくるお殿様には家臣団がいるから、今までの家臣は城から追い出されてしまう。当然抵抗があるから内戦になりかねない。領民としては、国が荒廃するからやめてほしい。
正室(正妻)から見ても、夫であるお殿様が死んで別の権力者が入城してお殿様になれば、自分は尼寺に入らなければならない。対して側室に子がいて地位を継いでくれれば、正室としての地位は保てる。
国境(くにざかい)の向こうでは、政(まつりごと)が混乱して疲弊した領土をかすめ取ろうと、方々のお殿様が虎視眈々と狙っている。今と違って国際法や戦争に関する法があるわけではないから、乱捕りは当たり前だ。
乱捕りとは、要は略奪のこと。占領した軍勢が、米や財産を取り上げて兵糧とする。当然、下っ端の足軽連中は、満足に給料をもらっていないから、乱捕りで得るおこぼれが大きな収入源だ。
最悪殺されたり、さらわれて人買いに売られてしまう。現に、武田信玄は、寺に集めた村人を人買いに売ってしまった。義の武将である上杉謙信ですら、川中島の戦いで乱捕りをしている。
中東の全ての一夫多妻の制度が同じ理由ではないが、中東が一夫多妻を採用した理由の一つに戦争未亡人の問題があった。
もともと砂漠の多い中東は、女性が生きにくい環境である。戦争で夫が死んで、生きていくのが困難となった女性を救うべく、裕福な王侯貴族などが養ってあげたのが起源の一つだという。
今の日本人の感覚で考えれば、一夫一妻以外は不道徳な行為に映るが、時代や文化、環境が違うのに、今の平和な日本に生きる自分が善悪をジャッジするのはおかしい。
美由紀は教授の話を聞いて、そのような考えに至った。
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