愛するということ

緒方宗谷

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32.恋愛進化論

2.倫理

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 有紀子は少し感情が高ぶって、食ってかかるように島根に訊いた。
「そんな倫理に反する事許されるんですか?」
「うん、俺もそう思うし、そう言ったんだ。そしたら、『倫理って何?』だって。
 『そのために飢えや病気に苦しむ人を見殺しにするの? 人間を進化させて、自然破壊をしなくても、戦争しなくてもいい世の中を作ったり、他の惑星に行って、人口を地球に適した人数に調整する方がいい』って言ってた。
 今人口を調整するには、ホロコーストみたいなエグい方法しか人類は出来ないんだろうけど、医学が進んで永遠に生きられる時代になれば、出産を調整しても非人道的にならないかもよ。だって生まない代わりに半永久的に生きていられるんだから」
 オレンジジュースを飲み終えた彩絵が口を開く。
「結局、倫理って人が決めることだもんね。宗教的なこともあるんだろうけれど、昔から続く常識から逸脱しすぎていて理解できないから、怖くって攻撃的になってしまうんじゃないかなぁ。
 その恋多き女(笑)?の人は、私も知っている人なんだけど、脱肉体の話は面白いと思うの、恋愛って脳でするものだから」
「脳ですか? 心ですよ、心でするんですよ」
 有紀子は驚いて言葉をかえす。
「うん、人が恋に落ちる時、脳内物質が大量に分泌されるんだって。心はその反応の結果に過ぎないのよ。
 それに、脳って想像していることと現実に起こっていることの区別がつかないから、極端に言うと脳内彼女だって成立するよね、多分」
「変な話ですか?」有紀子は真面目に顔をしかめる。
「ううん、想像次第ってこと。現にメタバースはすごい勢いで進化していて、近い将来人は、7割の時間をメタバースで過ごすって言われているし。アバターに本気で恋をする事例も報告されてきているらしいの。
 繁殖するって本能が肉体にあるから、人同士とか異性同士とかってくくりでパートナーを考えるけど、先輩(恋多き女?)の言う脱肉体とか恋愛進化論を聞くと、AIやロボットが恋愛対象になる時代が来るし、その先には生体工学で融合した人達のスキンシップもあるよね、きっと」
「あの、難しいことは分かんないんですけど」有紀子はちんぷんかんぷんだ。
「うふふ、人はメタバースを手に入れたことによって、肉体を超越しつつあるってこと。相対的に肉体の価値は低下するから、陳腐化したそれを補うために、脳にチップを埋めて脳力を高めたり、iPS細胞で培養した臓器を移植したり、遺伝子操作で身体能力を高めたりするのが、美容整形みたいにファッション化するかも。少なくとも脳は、解放された自分に見合う機能を手に入れようと必死なんじゃないかしら? そうしたら、メタバースに現実社会が流入している現在から、現実社会にメタバースが流入する時代に変わったりして。
 それに、惑星移民するにしても、地球人じゃ木星やら金星やらには住めないから、新人類を作る時代が来るでしょう? そしたら、SFに出てくる人獣みたいな宇宙人ぽいのや、ファンタジーに出てくるエルフやキメラっぽい人類が誕生するかも。そしたら、もはや、恋愛対象が人かロボットかとか、性別がどうとかなんて、みんなちっぽけに思えちゃうよね――受け売りだけど」
 (見た目に寄らず随分と頭がいいというか、超越した子だな)と有紀子は思った。 


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