愛するということ

緒方宗谷

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32.恋愛進化論

1.脱肉体

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「そう言えば、大学の友達に面白い考えをする子がいるよ」
 急に話題を変えた島根は、何やら思い出して笑みを浮かべた。
「その子、恋多き女の子なんだけど、ある時ね、ボーイフレンドとの約束をダブルブッキングしちゃって、その時間配分に四苦八苦していたんだ。 
 だから、1人の彼氏に絞ったら? 普通沢山の恋人がいるっておかしいことでしょ?って言ったんだけど、彼女は言うんだ。
 『どうして? 1人しか愛せないなんて、了見狭いって思わない?』だって。
 俺が、普通は1対1でしょ?って言ったら、『誰かを好きになったら、普通他の人は嫌いってことでしょ? それって排他的すぎないかな。
 私はこの人はいい人だって思えたら、誰でもいつでも好きになれちゃう、当然同時にね』だって。有紀ちゃん、どう思う?」
「え? 絶対おかしいですよ、何人も同時になんてありえないです」
「だよね、俺もそう言ったんだけど、彼女からしてみたら、俺の方が遅れているらしいんだよ」
 コーヒーを一口飲んだ島根は、彼女の言葉を丁寧な口調で淡々と話す。
「彼女の理論だと、何人もの人を同時に愛せる自分は、博愛に満ちているんだって、多少冗談交じりに言っていたけどね」
「なるほどー」
 有紀子は興味無さげにそう答え、続きを聞く。
「彼女には恋愛進化論て持論があって、1人に永遠の愛を誓うって思想が古いんだってさ。
 言うんだよ、『整形だってもう当たり前だし、漫画やアニメのキャラに恋い焦がれるのだって当たり前。ネカマだっていて、それを分かっていて、その人が操るアバターに恋をすることもある』って言ってて、『その内、恋愛シュミレーションゲームのAIもどんどん高度になって、いつか本当に恋愛をするようになる』だってさ。
 まさかって思ったけど、よくよく考えたら、立体映像はもう実用化されているし、受け答えできるロボットやキャラだっているんだから、あながち空想とは言えないよね。
 それでさ、彼女、もうすぐ恋愛対象が人ですら無い時代が来るって言ってた」
「男女も超えますか?」
 有紀子がそう言うと、彩絵が吹きだして少し萌える。
 島根が答えた。
「超えるんじゃない? 彼女、なんか脱肉体とかなんとか言っていたし」
「脱肉体?」
「うん、人類は動物からかけ離れて進化してしまって、もはや自然の生き物とは違う次元に来ているから、もう自然に任せて繁殖しなくても繁栄できる圧倒的な力があるんだよ。
 しいて言えば、病原体や気候変動が敵だよね、あとは老化とか。全部科学と医学で乗り越えていくよ、進化だってもう科学を使って人為的に出来る時代に入るしね」
 有紀子には全く理解できなかった。

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