愛するということ

緒方宗谷

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28.陸と知恵、急接近 

1.知恵の思考 ~冬休み前~

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 ここ最近、上条先輩は一人で帰っている。初めは部活の見学回りが終わったからだと思っていたけれど、どうもそうじゃないらしい。
 だって、陸上部の栄子の話だと、先輩は渡辺有紀子と別れたんだって。2-Aの先輩から聞いたって言うから、間違いない。ラッキーって思った。こんなチャンスめったにないから、邪魔が入らないうちに速攻で落としてやる。冬休みまでがタイムリミット。
 この間のケンカの話聞いたけど、私凄く格好良いって思っちゃった。男の人はこのくらいじゃなくっちゃね。でも、イジメしたヤツ最っ低、しかも3人掛かりで先輩1人にやられちゃうなんて、ダサ過ぎ。
 空気が変わったって言うか、流れが変わったって言うか、先輩の周りに付きまとうウルさい子達がいなくなって、本当によかった。私は大丈夫だよ、先輩のこと嫌いにならないから。
 今すごく傷ついているんでしょ? 雰囲気で分かるよ。でも大丈夫、私が癒してあげるもん。
 と思ったものの、何話せばいいんだろう。いつもの会話じゃぜんぜん答えてくれない。先輩は上の空だ。不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。
 ヤバい、会話が途切れた。うーん、取りつく島が無いなぁ。ああ、なんか切ない。これが恋っていうやつか。ん? 恋? ヤバい、私恋に落ちちゃったんだ。先輩を落とすつもりでいたのに。
 でも、まあいっか、すごいドキドキする。3歩斜め後ろを歩いているだけなのに、とても幸せ。恋ってこんな感じなんだ。ていうか、私恋したことなかったんだね、知らなかった。
 胸全体がムズかゆい。さっき幸せって思ったけど、ウソウソウソ! 3歩の距離が恨めしい。この想い伝えたい。て前に伝えてたか。無言でフラれたけど。でも今は本気。先輩、私のこと好きにしていいんだよ。
 もう住宅街だ。このまま家に帰るのかな? やだやだ、そんなの。ゲーセン行こうよ、カラオケ行こうよ。
 「先輩」
 あ、声かけちゃった。私何話す気なんだろう。無視された。無理に引き留めちゃえ。右と左の手、どっち取ろうかな。右手でいいや、エイ。
 無表情の先輩の顔、初めて見た。でも瞳の奥が寂しそう。どうしていいか分からなくて、私思わずはにかんじゃった。お、いい雰囲気じゃん。今なら落とせる。私、絶対いい表情しているよ。だって、恋しくて目が潤んでるもん。
 見つめ合ってる。上目使いを意識して。ああ緊張する。誰もいないよね、大丈夫、さっき前も後ろも右も左も確認したから。十字路の真ん中でって奇跡じゃない? ここ逃せないよ、だって帰り道が分かれるもん。
 きゃ、触られてる。て自分で触らせたんだけど。先輩の手って大きい。とても指が長い。抵抗しないで触ってくれてる。私の体気持ち良いでしょう?
「私、いいですよ」
 身長差あり過ぎて届かない。背伸びして顎上げても無理だ。でも先輩の方からキスしてくれた。もう溶けちゃいそう。気持ちが抑えきれなくて泣いちゃった。

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