愛するということ

緒方宗谷

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25.加奈子の告白

2.受け止め方

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 あれはそういう意味だったのだろうか。確かに加奈子は後輩の女子にとても人気があるし、ラブレターをもらうことだって度々ある。学校中の男子だって、加奈子と格好良さを比べたら、勝てる人はほとんどいないだろう。
 この日、有紀子は部活には出なかった。加奈子の告白のことを考えずにはいられない。家につくとそのまま自室にこもって、ベッドの上で加奈子を想う。
 有紀子も加奈子が大好きだった。他の女子友達とだいぶ違う意味での好きであったが、それでも他の女子への気持ちの延長線上にあるものだ。大大大の大親友。特別の存在。でもそれは、加奈子が寄せてくれていた想いとは異質なものである、と有紀子には分かる。
 加奈子は自分のことが好きである、と有紀子は確信を持っていたが、自分と同じ気持ちであると思っていた。どう返答してよいか分からずに思わず口をついて出てしまった言葉は、本当に彼女を傷つけてしまったのだと思う。 
 10年ぶりに再会した陸君に言われた言葉。「誰だっけ?」の一言は、本当に胸が引き裂かれるような思いがした。突然の拒絶。あれとおんなじだ。加奈子の胸を引き裂いたのは私だ。
 もっと何か気の利いたような言葉を発することが出来たなら、と有紀子は後悔した。加奈子はいつから自分のことが好きだったのだろう。どんな気持ちで、加奈子は告白してきたのだろう。
 中学2年生の時に2人は友達になって、同じ年の夏休み頃には、有紀子は自分が陸という幼馴染を今も想っているということを話していた。陸が東京に戻ってきてからも、有紀子はいつも陸のことを相談していたし、加奈子は嫌な顔一つせず相談に乗ってくれていた。それを思い返して有紀子は悶絶した。
 ずっと気持ちを心に秘めて、加奈子は私の相談に乗っていたのだろうか。何ヵ月もの間ずっと大親友を傷つけ続けていたと思うと、申し訳なくて耐えられない。
 会って謝りたかったが、どう謝れば良いのか、どう接すればいのか、以前のような関係に戻れるのか、有紀子はとても不安でならない。
 同姓を好きになるってどんな気持ちだろう。テレビでそういうタレントを見たことはあるが、言動や雰囲気を売りにした芸人としての側面しか見たことがいない。自己の性について語る、そういう性を持つ人の話を聞いたことが無い。
 性について勉強しなければならない、と有紀子は思った。
 大好きな加奈子を理解したいのだ。今まで誰にも打ち明けられずに、1人で過ごしてきたのだろう。友達は多い。だが、彼女を知っているのは自分だけだ。自分が知ってあげなければ、加奈子は本当に独りになってしまう。
 急に彼女が自分から遠く離れてしまう不安を感じた有紀子は、急く気持ちを抑えてリビングへ行きテレビをつけて、電子番組表を検索した。公共放送なら、そういうドキュメンタリーや教育番組があるかもしれない、と思ったからだ。
 しかし、運悪く今週そういう番組は無かった。イジメや心の悩みなどを相談する番組が目に留まる。こういう番組があるのなら、そのうち性の悩みに関する番組もやるだろう。
「私も大好き(友達として)だよ」、と言うべきか。「気にしないよ」、と言うべきか。「差別しないよ」、と言うべきか。「私は異性愛者だよ」、と言うべきか。40インチのテレビの前に佇んで有紀子は悩む。どれも無神経に感じ、顔が歪む。
 どういう顔で加奈子に会えばよいのか有紀子には分からなかった。

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