愛するということ

緒方宗谷

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14.旅行

1.提案と熟考

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「そうだ、有紀子、陸君のこと旅行に誘っちゃえば?」突拍子もなく加奈子が言った。
「は? いきなり何てこと言うの? 無理に決まってるじゃん」
 下校の道すがら加奈子が言った一言に、有紀子はビックリした。
「どうして? もう17なんだし、早い子なら、お泊りデートくらいしている年頃でしょ?」
 加奈子にそう言われて、有紀子は呆れた。
「私は加奈子じゃないんですからね。加奈子は大学生の彼氏がいるから、然も同然って顔で話せるんだろうけど、普通はそんなことないわよ」
「そうかな、隣のクラスの佐々木さんとか松村さんとか……」
 2人共あからさまな不良少女だ。変な噂は無いが、明らかにヤンキー風の彼氏がいる。今は死語か。
 それでも23区外に出れば、未だに夜バイクに乗って走り回っているグループ(昔風に言えば暴走族)がいる。国分寺は23区外にあって、少し電車に乗ればのどかな田舎町だ。田舎といっては大げさかもしれないが、都心の閑静な住宅街とはやっぱり違う。
 有紀子をナッジする加奈子は、噂では処女ではない。大学生くらいの男性とデートをしているところを何度も目撃されていたからだ。
 その男性が、加奈子の家庭教師であることを、有紀子は知っている。中学の時から勉強を教えてもらっていて、今通う高校にもその先生のおかげで合格できた、と加奈子から聞いていた。
 確かに加奈子は、他の女子と比べて大人っぽいところがある。既に経験済みであるせいなのだろうか。性に関して言えば、有紀子はかなりの奥手だ。普段考えないわけでも無いが、恥ずかしげもなく異性のことを話す加奈子に、有紀子は少しついていけない時もあった。
 有紀子自身、加奈子が彼氏と一緒に歩いているところを見たことがある。もともと男友達も多い彼女であるが、クラスの男子とおしゃべりしている時の雰囲気とはどこかが違った。
 髪が短いせいでボーイッシュに見えるが、大人の男性といると、とても美人であることが良く分かる。その時、有紀子は、加奈子が自分とは違う世界にいるように感じられた。
 考え込む有紀子の顔を、加奈子が覗き込む。
「でも幼馴染みなんだし、別に一緒に旅行したっておかしくないでしょ?」
「おかしいわよ」
「記憶喪失なんだし、記憶を取り戻す旅なんて――なんちって。
 家族旅行ならいいんじゃない? 二家族一緒に旅行するの」
 確かにそれなら陸と旅行ができる、と有紀子は思った。観光中、何度も2人きりになる機会はあるだろう。記憶は戻らなくても、新しい思い出の1ページを紡ぐことは出来る。このまま記憶が戻らなくても、2人の関係は進展するかもしれない。
 急に脇腹がゾクゾクして、有紀子の顔が真剣そうにこわばる。ちょっとエッチな(エッチといっても、不意にキスを連想させる雰囲気が2人の間に出たところを垣間見ただけだが)ことを妄想してしまって、心拍が上がる。
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