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9.資料館
2.アンネ・フランク
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ヨーロッパの、しかもドイツでこんな事が起きるのか。当時だってドイツは先進国のはずだ。里美は、第一次世界大戦の事を知らない。ここで展示された資料にベルサイユ条約に関する記述を見つけて、戦争に突入せざるを得なかった理由をかろうじて知ることができた。
フランスやイタリアに埋もれて華やかさが無いように思っていたが、よくよく考えるとベートーベンを生んだ音楽大国だ。文化レベルや教育レベルが低いわけがない。それでもなおここまで過激な、人の所業とは思えない暴挙が出来てしまうと思うと、集団心理は恐ろしい、と思った。
このような状況の中で、みんなは間違っている、と言えるだろうか。里美は自分だったら言えない、と思った。未曾有の大災難に見舞われて絶望するユダヤ人を救ったドイツ人も多くいることを知ったが、それも隠れて行うしかなかったようだ。公然と行えば、殺されてしまうかもしれない。
更に驚いたのは、強制収容所に収監されたのは、ユダヤ人だけではないらしい。多くの異民族が収監された。そればかりか、同じドイツ人でも、高齢者や障害者も対象になったらしい。最初に収監されたのは、同性愛者だったという。
地域によっては、平然と兵士(親衛隊)によって銃殺が行われている。まさにこの世の地獄としか言いようがない。
収容所では、すぐに命の選別が行われた。身長や年齢が規定に達していないと、即処刑対象になる。処刑にならなくても、死体の処理を担わされる。
満足な食事も与えられず、虱が頭や衣服にわく中、おふろにも入れない。トイレも短い時間で済ませなければならず、不衛生な環境で多くの者がチフスにかかって死んだという。
少しでも兵士(親衛隊)の気に触れようものなら、体罰を受けたり、牢屋に入れられた。ガス室の存在は知っていたが、他にも餓死室や立ち牢など、虐待を行う部屋もあったらしい。
「これって、ドイツだからあったことなの?」
里美は震える声で、そばにいたスタッフに訊ねるように呟いた。
「そんなことありませんよ、いつの時代もどこの国でもあり得ることです」
確かにそうだとひいちゃんが言った。ニュースを見ると、外国で過激な思想を掲げる政党が出現したり、それを支持する人々が闊歩している。ひいちゃんはそれを憂いだ。
日本でもこんなことがあり得るのだろうか。平和な日本では、全く想像ができない。こんなことは無いと願いたい。こんな目に遭いたくないのは当然だが、こんなことをしたくもない。最初に見たレンガの家に移動する道すがら、里美はそう思った。
この建物は、アンネの生きた証を展示していた。中に入った里美は、真っ先に一番奥まで行く。そしてすぐに、角に展示されていたアンネについての記述に目が留まった。
――アンネリース・マリー・フランク――アンネの本名、初めて知った。写真を見渡して振り返って、模型の前に歩み寄る。展示されているアンネの隠れ家のなんて小さいことか。こんな小さな中で8人が何年も住んでいたのだ。一歩も外に出られずに、支援者が持ってくる食べ物だけが頼りの中。
里美は想像した。もし自分がアンネだったら、と。今自分が享受している全ての喜びや楽しみ、美味しい食事やファッション、遊ぶことも何もかも奪われてしまったら、一体どうなってしまうのだろう。もし自分の身に降りかかったらと思うと、慄然するしかない。
思い出すアンネの文章は凛としていて、何ものにも負けない精神の気高さを感じる。ちょうど私と同じ年頃だと思うと、他人事ではない。そして、もしアンネが生きていれば、ひいちゃんよりも年下なのだ。
この現実は、今まで生きてきた人生(高校生になった現在においても)の中で、一番の衝撃だった。アンネ・フランクは、歴史上の人物ではない。今まさに生きているかもしれなかった同じ時代の女性なのだ。
フランスやイタリアに埋もれて華やかさが無いように思っていたが、よくよく考えるとベートーベンを生んだ音楽大国だ。文化レベルや教育レベルが低いわけがない。それでもなおここまで過激な、人の所業とは思えない暴挙が出来てしまうと思うと、集団心理は恐ろしい、と思った。
このような状況の中で、みんなは間違っている、と言えるだろうか。里美は自分だったら言えない、と思った。未曾有の大災難に見舞われて絶望するユダヤ人を救ったドイツ人も多くいることを知ったが、それも隠れて行うしかなかったようだ。公然と行えば、殺されてしまうかもしれない。
更に驚いたのは、強制収容所に収監されたのは、ユダヤ人だけではないらしい。多くの異民族が収監された。そればかりか、同じドイツ人でも、高齢者や障害者も対象になったらしい。最初に収監されたのは、同性愛者だったという。
地域によっては、平然と兵士(親衛隊)によって銃殺が行われている。まさにこの世の地獄としか言いようがない。
収容所では、すぐに命の選別が行われた。身長や年齢が規定に達していないと、即処刑対象になる。処刑にならなくても、死体の処理を担わされる。
満足な食事も与えられず、虱が頭や衣服にわく中、おふろにも入れない。トイレも短い時間で済ませなければならず、不衛生な環境で多くの者がチフスにかかって死んだという。
少しでも兵士(親衛隊)の気に触れようものなら、体罰を受けたり、牢屋に入れられた。ガス室の存在は知っていたが、他にも餓死室や立ち牢など、虐待を行う部屋もあったらしい。
「これって、ドイツだからあったことなの?」
里美は震える声で、そばにいたスタッフに訊ねるように呟いた。
「そんなことありませんよ、いつの時代もどこの国でもあり得ることです」
確かにそうだとひいちゃんが言った。ニュースを見ると、外国で過激な思想を掲げる政党が出現したり、それを支持する人々が闊歩している。ひいちゃんはそれを憂いだ。
日本でもこんなことがあり得るのだろうか。平和な日本では、全く想像ができない。こんなことは無いと願いたい。こんな目に遭いたくないのは当然だが、こんなことをしたくもない。最初に見たレンガの家に移動する道すがら、里美はそう思った。
この建物は、アンネの生きた証を展示していた。中に入った里美は、真っ先に一番奥まで行く。そしてすぐに、角に展示されていたアンネについての記述に目が留まった。
――アンネリース・マリー・フランク――アンネの本名、初めて知った。写真を見渡して振り返って、模型の前に歩み寄る。展示されているアンネの隠れ家のなんて小さいことか。こんな小さな中で8人が何年も住んでいたのだ。一歩も外に出られずに、支援者が持ってくる食べ物だけが頼りの中。
里美は想像した。もし自分がアンネだったら、と。今自分が享受している全ての喜びや楽しみ、美味しい食事やファッション、遊ぶことも何もかも奪われてしまったら、一体どうなってしまうのだろう。もし自分の身に降りかかったらと思うと、慄然するしかない。
思い出すアンネの文章は凛としていて、何ものにも負けない精神の気高さを感じる。ちょうど私と同じ年頃だと思うと、他人事ではない。そして、もしアンネが生きていれば、ひいちゃんよりも年下なのだ。
この現実は、今まで生きてきた人生(高校生になった現在においても)の中で、一番の衝撃だった。アンネ・フランクは、歴史上の人物ではない。今まさに生きているかもしれなかった同じ時代の女性なのだ。
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