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7.陸と里美の出会い
3.合意形成
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ある日の帰り道、里美は陸に呟いた。
「日本の男の子って、主体性が無いから少しつまらないのよね。その点、陸君は自分があるっていうかさ、少し大人な気がする」
「そんなことないよ、自分はあまり意見言わないと思うよ」
里美はこれに関しても意外に思った。クラスが違うからあまり話を聞く機会は無いけれど、大抵“僕は~だと思う”と自分の意見を述べているように記憶している。里美は、陸のそういうところは長所だと褒めた。
陸は、少し照れて言う。
「そうかな、言わなきゃよかったなって思う時もあるけど。
もしかしたら、篠原さんが帰国子女だから、そう評価してくれるのかも。僕としては、本当はあまり意見を言わないほうかな」
「どうして? 言った方がいいよ、我慢せずに」
「日本にはほとんど日本人しか住んでいないから、みんな多かれ少なかれ同じような考えを持っているでしょ? だから、違う意見を持つと目立つんだと思う。
違う意見を持つってことは、悪い言い方をすれば輪を乱すってことでしょ? まとまっているんだから、敢えて意見を言わなくてもいいかなって思うよ」
「でも、言わないと嫌な方向に行くでしょ?」
「聞ける範囲で聞いて、聞けない部分にはちゃんと言うよ、篠原さんは僕のそこを見て評価してくれているんだと思う。
篠原さんがいたのって、アメリカだっけ? 授業で勉強した範囲で言うと、むこうは日本と違って自由や権利を民衆の力で勝ち取ってきたじゃない? 意識の差もあるんじゃないかな。良い面でも悪い面でも、日本人は与えられてきたから」
確かにそうだ。明治維新の時だって、革命が起きて幕府が倒れたのではない。新旧の政治体制がぶつかるような形で討幕がなされた。武士同士の権力争いだ。
一呼吸おいて、陸が続ける。
「それに、アメリカは雑多な民族が住んでいるから、黙っていたら権利が浸食されちゃうのかも。しかも個人主義だから、自分が言わなきゃ周りは何もしてくれなさそう」
「そういうの、平和ボケってやつだね」里美は笑った。
「そうだね、ボケてる僕達から日本を見ると何とも思わないけど、篠原さんから見ると、とても不思議に映るかもね」
「本当だよ、ゾワゾワする感じ。身がよじれちゃうよ」
可笑しくって、声をあげて里美が笑うと、つられた陸も笑う。
「言えなくて言わないのはどうかと思うけど、言えるけど敢えて言わないって選択もあるんだよ。
相手の意見を受け入れた上で、おかしいと思うところを途中途中で軌道修正していくの。
真っ向から対立しなくても、そういう話し合いで事を進められるのもいい文化だと思うよ」
陸は、自分は意見を言わない方だと言いながらも、人間関係に関するちゃんとした意見を持っていた。
里美は、アメリカ的に討論を重ねて正しいことを決めて行う方が良い、と思っている。対して、陸は違う意見を受け入れて、軌道修正を重ねながら関係を築く方が良い、と言う。
2人の意見は平行線であったが、里美は不快感をいだかなかった。自分のストレートな意見を聞き入れてくれていたからだ。その上で、他にも意見の言い方はある、といった風に、対立構造を作らない意見の言い方を提案してくれた。
里美には、付き合っている人はいない。少しだけ特別仲の良い男子はいたが、自然と彼への興味は薄れていった。
「日本の男の子って、主体性が無いから少しつまらないのよね。その点、陸君は自分があるっていうかさ、少し大人な気がする」
「そんなことないよ、自分はあまり意見言わないと思うよ」
里美はこれに関しても意外に思った。クラスが違うからあまり話を聞く機会は無いけれど、大抵“僕は~だと思う”と自分の意見を述べているように記憶している。里美は、陸のそういうところは長所だと褒めた。
陸は、少し照れて言う。
「そうかな、言わなきゃよかったなって思う時もあるけど。
もしかしたら、篠原さんが帰国子女だから、そう評価してくれるのかも。僕としては、本当はあまり意見を言わないほうかな」
「どうして? 言った方がいいよ、我慢せずに」
「日本にはほとんど日本人しか住んでいないから、みんな多かれ少なかれ同じような考えを持っているでしょ? だから、違う意見を持つと目立つんだと思う。
違う意見を持つってことは、悪い言い方をすれば輪を乱すってことでしょ? まとまっているんだから、敢えて意見を言わなくてもいいかなって思うよ」
「でも、言わないと嫌な方向に行くでしょ?」
「聞ける範囲で聞いて、聞けない部分にはちゃんと言うよ、篠原さんは僕のそこを見て評価してくれているんだと思う。
篠原さんがいたのって、アメリカだっけ? 授業で勉強した範囲で言うと、むこうは日本と違って自由や権利を民衆の力で勝ち取ってきたじゃない? 意識の差もあるんじゃないかな。良い面でも悪い面でも、日本人は与えられてきたから」
確かにそうだ。明治維新の時だって、革命が起きて幕府が倒れたのではない。新旧の政治体制がぶつかるような形で討幕がなされた。武士同士の権力争いだ。
一呼吸おいて、陸が続ける。
「それに、アメリカは雑多な民族が住んでいるから、黙っていたら権利が浸食されちゃうのかも。しかも個人主義だから、自分が言わなきゃ周りは何もしてくれなさそう」
「そういうの、平和ボケってやつだね」里美は笑った。
「そうだね、ボケてる僕達から日本を見ると何とも思わないけど、篠原さんから見ると、とても不思議に映るかもね」
「本当だよ、ゾワゾワする感じ。身がよじれちゃうよ」
可笑しくって、声をあげて里美が笑うと、つられた陸も笑う。
「言えなくて言わないのはどうかと思うけど、言えるけど敢えて言わないって選択もあるんだよ。
相手の意見を受け入れた上で、おかしいと思うところを途中途中で軌道修正していくの。
真っ向から対立しなくても、そういう話し合いで事を進められるのもいい文化だと思うよ」
陸は、自分は意見を言わない方だと言いながらも、人間関係に関するちゃんとした意見を持っていた。
里美は、アメリカ的に討論を重ねて正しいことを決めて行う方が良い、と思っている。対して、陸は違う意見を受け入れて、軌道修正を重ねながら関係を築く方が良い、と言う。
2人の意見は平行線であったが、里美は不快感をいだかなかった。自分のストレートな意見を聞き入れてくれていたからだ。その上で、他にも意見の言い方はある、といった風に、対立構造を作らない意見の言い方を提案してくれた。
里美には、付き合っている人はいない。少しだけ特別仲の良い男子はいたが、自然と彼への興味は薄れていった。
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