愛するということ

緒方宗谷

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4.アタック大作戦 

4.笑ったら可哀想

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 有紀子と陸は陸の部屋で、有紀子が持ってきた2人の思い出が詰まった懐かしのアルバムを開いていた。
「あ、この写真」と有紀子が指差す。「町内会の旅行で埼玉にキャンプをしに行ったやつ。陸君、飯盒に入れたお米を研ぎに行って、いつまでたっても戻って来ないから、みんな心配になって、私見に行ったのよ」
「ああ、川の上にかかった吊り橋から川に飛び込んで遊んだやつだろ?」
 有紀子はビックリして、陸の顔を覗き込む。
「覚えているの?」
「いや、これに似た風景の写真が家にもあって、お母さんから聞いた。
 一緒に来ていた友達が飛び込んだ時に足折ったんだよ。車に乗せられて病院に行ったらしい。しかも同じ日の夜、花火をしたんだけど大惨事だって」
 有紀子は覚えていた。色々な打ち上げ花火や噴射花火を楽しんだ後、ロケット花火を打ち上げて遊んでいた。その時運悪く、花火を立てていたコーラの空き瓶が倒れて、発射されたロケット花火が、昼間足を折ってギブスをつけて松葉杖を突く男子の左目に直撃したのだ。
 2人は思い出して、身の毛もよだつような思いでゾワゾワとした。自分がそんな目に遭ったところを想像して、気持ち悪くなったのだ。とても可哀想な出来事だった。でも申し訳ないが、2人してゲラゲラ笑ってしまった。自分の身に起こったら、と思って沸き起こる気持ち悪さが可笑しかった。
 陸は、自分も橋の上から飛び込んだのだと思っていた。有紀子から飛び込んでないと聞いて、とても残念そうだ。吊り橋は4、5メートルの高さにあった、と有紀子は記憶している。とでもじゃないが小学校1年生の陸には飛び込めない。高学年でも飛び込むのを躊躇するほどだろう。
 実際、写真の橋をみると、みんなよく飛び込んで遊べたものだと感心する。川の深さは覚えていない。だが、写真を見る限り、けが人が出てもおかしくない。2人で何度も写真にツッコミを入れる。
 意外に思い出話に花が咲いた。有紀子は、一方的に2人の思い出を教えてあげる気でいたが、陸には後付けの記憶が植えられていて、楽しく会話することが出来た。おばさんには感謝だと有紀子は思う。
 思い出は、仄かな光の中で輪郭が淡い霞の如く溶けて、温かみを帯びている。無音だった。代わりに今この瞬間の陸の笑い声が、有紀子の全身に響いていた。

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