7 / 192
2.有紀子と加奈子
5.変われない自分
しおりを挟む
だが、結局同じことを繰り返す。
自宅からほど近い小さな公園には、ブランコと砂場と鉄棒があった。それ以外には植え込みがあるだけの何の変哲もない公園だ。
夢の中で幾度も再現される出来事。何度見ても何を話していたか全く覚えていない。それでも悲しい夢であることは間違いない。目が覚めると、有紀子は大抵涙を流していた。
見ている夢の中でも、有紀子と陸はいつも涙を浮かべていた。現実をトレースした夢であるが、結構いろんなことが省かれている。なんか、つらい想いをするために編集されているようだ。
陸が引っ越すことを告げてから、実際引っ越すまでそれなりの時間があった。しかし、夢はその間の思い出を全てすっ飛ばして、急に引っ越し当日を迎える。
肩に手を置いた父親に連れられていく陸は、寂しげに有紀子を見つめていた。最後は有紀子が何かを叫んで目が覚める。
今日の朝は、一つ思い出したことがあった。
「なぁ! 待ってろよ‼ 絶対戻って会いに来るからな‼」
確かに陸はそう言った。起き上がった有紀子は、しばらくそのまま座っていた。目を閉じて、叫ぶ陸を何度も思い出す。軽く深呼吸して目を開けた有紀子は、少し笑みを浮かべた。
考え方を変えたせいか、今日の夢はいつもより優しかった。でも、ますます好きになってしまった。陸のことは忘れて恋を探そう、と思ってはみたものの、心の深層はそれを拒んでいるのだと思う。
朝起きた時は気分が良かったが、朝ご飯を食べ終わって家を出る頃には、少しムッとしていた。「いつか会いに来るから」か。……いったいいつ会いに来るのだろう。あんたホントに会いに来る気あるのか? と心でつっこむ。
女心は複雑で、ムカつきながらも気分は良かった。でも空は曇っていた。ちょっとだけ気持ち良かったから、この際晴れてほしかった。そんな気分で、有紀子は学校へと向かう。
「何やってるの⁉ 早くしないと遅刻しちゃうよ‼」
有紀子が国分寺駅の改札階に上がると、突然響いた加奈子の声に、有紀子は我に返った。
「あ~~‼ 起きてる⁉」加奈子大音量で叫ぶ。しかも耳元で。
「そんな大声出さなくても、ちゃんと起きてるよ」笑顔だった。
「?」
息を整える加奈子は、微かな様子の変化に気が付いて言う。
「今日は機嫌がいいじゃん⁉」
「あっ、分かる?」
そう有紀子が言った瞬間、学校のチャイムが鳴り響いた。
「でも完璧遅刻だね、学校は目の前なのに」
笑顔の有紀子に、加奈子は一言返した。
「話が見えない」、、、と。
自宅からほど近い小さな公園には、ブランコと砂場と鉄棒があった。それ以外には植え込みがあるだけの何の変哲もない公園だ。
夢の中で幾度も再現される出来事。何度見ても何を話していたか全く覚えていない。それでも悲しい夢であることは間違いない。目が覚めると、有紀子は大抵涙を流していた。
見ている夢の中でも、有紀子と陸はいつも涙を浮かべていた。現実をトレースした夢であるが、結構いろんなことが省かれている。なんか、つらい想いをするために編集されているようだ。
陸が引っ越すことを告げてから、実際引っ越すまでそれなりの時間があった。しかし、夢はその間の思い出を全てすっ飛ばして、急に引っ越し当日を迎える。
肩に手を置いた父親に連れられていく陸は、寂しげに有紀子を見つめていた。最後は有紀子が何かを叫んで目が覚める。
今日の朝は、一つ思い出したことがあった。
「なぁ! 待ってろよ‼ 絶対戻って会いに来るからな‼」
確かに陸はそう言った。起き上がった有紀子は、しばらくそのまま座っていた。目を閉じて、叫ぶ陸を何度も思い出す。軽く深呼吸して目を開けた有紀子は、少し笑みを浮かべた。
考え方を変えたせいか、今日の夢はいつもより優しかった。でも、ますます好きになってしまった。陸のことは忘れて恋を探そう、と思ってはみたものの、心の深層はそれを拒んでいるのだと思う。
朝起きた時は気分が良かったが、朝ご飯を食べ終わって家を出る頃には、少しムッとしていた。「いつか会いに来るから」か。……いったいいつ会いに来るのだろう。あんたホントに会いに来る気あるのか? と心でつっこむ。
女心は複雑で、ムカつきながらも気分は良かった。でも空は曇っていた。ちょっとだけ気持ち良かったから、この際晴れてほしかった。そんな気分で、有紀子は学校へと向かう。
「何やってるの⁉ 早くしないと遅刻しちゃうよ‼」
有紀子が国分寺駅の改札階に上がると、突然響いた加奈子の声に、有紀子は我に返った。
「あ~~‼ 起きてる⁉」加奈子大音量で叫ぶ。しかも耳元で。
「そんな大声出さなくても、ちゃんと起きてるよ」笑顔だった。
「?」
息を整える加奈子は、微かな様子の変化に気が付いて言う。
「今日は機嫌がいいじゃん⁉」
「あっ、分かる?」
そう有紀子が言った瞬間、学校のチャイムが鳴り響いた。
「でも完璧遅刻だね、学校は目の前なのに」
笑顔の有紀子に、加奈子は一言返した。
「話が見えない」、、、と。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる