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第30話 ポーションの寄付と、不細工なカバ

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 部屋の買い手がひとり来た。
 相手は足を手術すると言っていた少年。

「初めまして片倉かたくらです。ポーションありがとうございました。おかげで手術なしで歩けるようになりました」
「手術なしで治って、良かったな」

「はい、お医者さんからは上級ポーションは賭けだと言われました。僕は運が良かったみたいです」
「こう言ってはなんだが、分譲ダンジョンをよく買う気になったな。お金大変だったんじゃないか」
「それが、僕の手術は海外で受ける予定だったので、寄付を集めたんですが、それが5000万円以上ありました」
「寄付が余ってしまったというわけか」
「はい、それで僕みたいに上級ポーションを飲めば治りそうな患者さんに、買った部屋から出たポーションを送りたいと思います」
「偉いな」
「いいえ、善意のおすそ分けをしなさいと両親に言われたので、そう考えました。僕だけなら5000万円は返還して終わったと思います」

「記念に部屋に一泊していくと良い。スキルが芽生えるから」
「はい、そうします」

 なんか清々しい気持ちで仕事ができそうだ。
 いつものように待機する部屋に行く。

「先輩、なんか良いことありました?」
「ああ、あったよ」

 俺は片倉かたくら少年の話をした。

「良かったですね。あの後どうなったか気になっていたんです。ポーションで治ったんですね。なら最初からポーションで治ると言えば良かったのに」
「ポーションでどれぐらい治るかは賭けだからな。医者も500万を賭けろとは言いづらいのだろう。俺も治るとは思わなかったよ」
「じつは私の部屋にポーションが湧いたんです。先輩にあげようかと思いましたが、ポーションを欲しがっている人に渡したいと思います」
「患者を探す必要があるな」
「それを考えると難しいですね」
香川かがわさんに相談してみようか」
「ですね。人脈が広そうですから」

 待ち時間の間に、香川かがわさんにメールを送った。
 すぐに返事が返ってきた。

「救命センターに勤めている人が上級ポーションを使いたいそうだ。定期的に供給があると嬉しいと書いてある」
「先輩さえ良ければこれからも送りたいと思います」
「俺も空き部屋から出た上級ポーションの1割は贈りたい」

 いま毎日ひとつは上級ポーションが出ている。
 毎日10個湧いて出るようになったらいいな。

 そう遠くない未来に叶うだろう。
 ただ、部屋は遊ばせて置くのではなくて、分譲または賃貸したい。

 部屋を貸した人にもポーション湧きの恩恵は与えたい。
 でないとスタンピードのデメリットを背負ってもらうだけになるからだ。
 そんなの不公平だ。

「そろそろ職人が来る頃だ。リフォームしている部屋にいるから」
「私も行きます。リフォームの記録映像を残しておかないと」
「あんなののどこが面白いんだか」
「物ができ上がっていく工程って面白くないですか。今は早回しにしてアップしてます」
「じゃあ、合間に見てみるよ」

 職人さんが来た。

「おはようございます」
「おはようさん。じゃあやるか。ダンジョンの加工はお願いするぜ」
「任せて下さい」

 俺のやることはほとんど一瞬だ。
 くぼみを作ったり、穴を開けたり配線を埋め込んだりだ。

 合間に藤沢ふじさわがアップした動画を見る。
 ちょこまかと俺達が蟻のように動き、部屋ができ上がっていく。

 ダンジョンの中だという感じがない。
 普通の部屋のリフォームと変わりがないからな。
 これでは流行らないだろう。

 かと言って、リフォーム中にモンスターに襲い掛かられたら大惨事だ。
 討伐の映像から一続きで撮ればいいのか。
 だが、討伐の現場は命がけだ。
 変なことで気を逸らせたりしたくない。

 おお、良いことを考えた。
 部屋の自動片付けを撮ろう。

 俺は自分の部屋を適当に散らかしてカメラを設置した。
 一時間後に戻って映像を確認する。
 おお、片付ける時に魔法陣が出ている。
 こんなことになっているのか。
 でも意外に面白くない。
 バズる動画は難しいな。

 アップはするけどね。
 再生数を同時期にアップした動画と比べてみる。
 くそう、子猫の動画の10000分の1かよ。

 こうなりゃ意地だ。
 色々と撮ってやる。
 待機時間、宝箱をリフォームして家具を作る様子を撮影する。
 今度の動画はどうだ。

 見てみたが、まるっきりCGだな。
 たぶんスキルだとは分からないだろう。
 この動画も駄目だ。

 お子様向けアニメの電気ネズミのキャラクターをリフォームで作るぞ。
 だめだ。
 立ち上がった不細工なカバが出来た。
 やけくそに画像をアップする。

 そうしたら、大受けした。
 面白過ぎというコメントで溢れかえった。
 笑いたければ笑え。
 所詮、俺のスキルじゃこんな物しか作れない。

「味がありますね。もらっていいですか」

 藤沢ふじさわが貰ってくれるらしい。

「持ってって。もう作らないから。俺の最後の作品だ」
「上手く作ろうとか考えない方がいいですよ。この像は実に人が良さそうじゃないですか。先輩の人間性が伝わって来るようです」
「無理に褒めなくていいから」
「本音なのに」
「分かったよ。これからもリフォームスキルで何か作る」

 とりあえず俺の作品のファンがひとりいることだけは確かだ。
 二足歩行のカバは藤沢ふじさわの部屋の前でも表札をぶら下げて佇んでいる。
 そういう用途ならありかもな。
 何となく歓迎している雰囲気がある。
 リクエストがあったら他の人にも作ってあげよう。
――――――――――――――――――――――――
俺の収支メモ
              支出       収入       収支
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
繰り越し               11,321万円
分譲販売                5,000万円
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計               0円 16,321万円 16,321万円

相続税        2,000万円

遺産(不動産)         0円
ダンジョン        -88億円

 もう、とうざの金の心配は要らない。
 スタンピードさえ起きなければ問題はないようだ。
 無事、軌道に乗ったと言える。

 こうなったら、大金持ちか。
 はたまた破産か。

 大博打を打ってやる。
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