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第146話 毒事件

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 今日は冒険者バトルの日。
 もうランクアップはほとんど諦めている。
 まあ別に良いんだ。

「大変だ。参加選手の数多くが倒れた。さっき選手が食べた弁当が原因らしい」

 それは俺も食べた。
 別に何でもないな。
 無事な選手が集められた。

「この中に犯人がいる」

 何やら頭が良さそうな男が現れてそう言った。

「何でだよ。弁当を食わなければ犯人かよ。俺は帰らせてもらう。冒険者バトルはキャンセルだ」

 そう言って男が出て行く。

「彼は犯人ではないでしょう。動機はランクアップ戦です。これに勝ちたいがために卑怯な手を使ったのです」
「俺も冒険者バトルはキャンセルだ」

 同じような事を言って次々に出て行く。
 残ったのは数人。

「俺もキャンセルだ」
「俺も」
「残ったら不味いから、俺も」

 ついに俺だけになった。

「ずばりあなたが犯人です」

 えー、俺は悪党だけど、今回はやってない。
 だが、このムーブに乗るべし。

「ふふふ、分かってしまったら仕方ない」
「あなたも違いますね」

【どういうこと?】
【おっさんは悪党だがこういうことはしない】
【分からんぞ。毎回反則負けだから、こういう手を使ったのかも】

「俺がやったんだよ」
「では何の毒を使ったのか言ってみなさい」
「それは、ええと、新種の毒だ。俺のダンジョンで採れるんだよ」
「では違いますね。使われた毒はダンジョン産ですが、あなたのダンジョンのではない」
「くっ、俺はゆうじつだ」

【ゆうじつなんて言葉は初めて聞いたな】
【作ったんだろ】
【有責が正しい】

「お帰り下さい。冒険者バトルはキャンセルしてくれますね」
「キャンセルすれば俺の仕業だと分かってもらえるか」
「ええ」
「キャンセルする」
「ほら、あなたじゃない」

【いやおっさんは共犯でという線もあるぞ】
【だよな】

「共犯なんだよ。俺は毒を盛って失格する。ある奴がランクアップするという仕組みだ」
「あなたに冒険者の仲間がいないことは把握してます。私の頭の中にはそのデータが入っているのです。記憶系スキルを舐めてもらっては困ります。どうしてもというなら毒の種類を言ってみて下さい」
「くっ」

【おっさんの旗色が悪い】
【まあそうなるよな。証拠が全てだからな】
【ここに集めたのは、可能性の排除のため?】
【そうだろうな。犯人だとうっかり口を滑らせたりするものだ】

「覚えてろよ」

【意味不明な捨て台詞】
【なんか三下が自分を大きく見せようとして失敗したって感じか】
【指摘するなよ。おっさん泣いちゃうぞ】

 ここからはイッツ、ア、ファントムタイム。
 俺は会場から離れると全速力で駆けこんだ。

「ファントムさん、冒険者バトルは中断されました」
「ふむ、聞いている。毒が仕込まれたのだな」
「ええ」
「ファントムアイ」

 俺はそれらしき言葉を吐いた。
 毒の追跡はモチがしてる。
 モチは救護室で呻いている男を指差した。
 俺はその男に殴りかかった。
 男は避けた。

「元気だな。毒の影響はどうした」
「なぜ分かった」
「ファントムアイには全てお見通しだ」

「先を越されましたか。さすがファントムさんですね」

 さっきの偉そうな奴が来てそう言った。
 出し抜けたようで少し満足だ。

「ファントム、解毒」

 解毒魔法は寄生スキルでゲットしてある。
 何十倍もの強さの解毒の波動が吹き荒れた。

「これで一件落着だ」
「申し訳ないのですが、ファントム戦は中止です。ランクアップ戦を優先せよとのお達しなので」
「ふむ。それならエキシ何だっけをAランク1級とやってみたい」
「エキシビションですか」
「それだ」
「分かりました。図ってみます」

 エキシビションをやることにした。
 そして出番が来た。

「この試合に俺はファントムの称号を賭ける。死ぬ気で掛かって来い」
「やってやるぜ。Sランクがなんぼのもんよ」

「では構えて。始め」

 俺は素早く近寄ると両手を打ち合わせた。
 轟音がして風が吹き荒れた。
 対戦相手は無様にごろごろと転がって場外に落ちた。

「77の必殺技のうちのひとつキャットトリック」

「ファントム!」
「ファントム最強!」
「ファントム万歳!」

 口笛や歓声で会場が満たされる。

澄水とうすいの勝ち」

 Aランク1級でこれなのか。
 ちょっと弱すぎ。
 猫騙しから、ジャブ連打の、最後はアッパーで決めるつもりだったのに。
 キャットトリックコンボが、ただのキャットトリックになってしまった。
 まあいいか。
 観客は楽しんだようだ。
 俺は片手を上げて歓声に応えた。
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