上 下
4 / 76

第4話 鉄鉱石、1キロ10円

しおりを挟む
 家に帰ってからまずしたのはヤエちゃんに電話したことだ。

「もしもし、スマホの音が止まらない。助けて」
『はいはい、どんな馬鹿をやったの』
「ええとガラスのドラゴンが現れたから、ぶっ叩いて粉々にした」
『弁償を要求されているとか』
「それはないはず。貸し一つで手を打ってもらった」
『書面を取られたの』
「いいや」
『なら大丈夫。で音が鳴りやまないんだって』
「うん、チャンネル登録者数が増えているらしいんだけど」
『分かった。手順をメールで送るから。それに学校も終わりだから、家に行くわ』

 しばらく経ってヤエちゃんが現れた。
 彼女は指扇さしおうぎ弥衣やえ
 ぴちぴちの女子高生だ。

 出会いは3年前の路地裏だった。
 彼女が不良に絡まれていたので助けたのが、切っ掛け。
 こんなおっさんに良くしてくれるのは嬉しいけど、畏れ多い気もする。

「いらっしゃい。大変なんだよ」
「いま見るから。登録者数が10278人。たいへん。広告収入登録しないと」

 色々な手続きを彼女がしてくれた。

「これ今日のカメラのデータ」
「さてさて、どんなことをやらかしたのか」

 動画を見るヤエちゃんの表情が真剣な物に変わった。
 そしてなぜか笠幡かさはたさんの出現で彼女の顔は一層険しくなった。

「連絡先交換したのよね。さあ彼女に電話掛けて」

 俺が電話を掛けたところ奪うようにスマホを取られた。

「もしもし、わたくし埼京さいきょうの交渉役の指扇さしおうぎと申します。今後は埼京さいきょうとの話は全部私を通して下さい。後程私の電話番号をメールで送ります。では失礼します」

「交渉役やってくれるの助かったよ。俺馬鹿だから騙されたりするかもって不安だった」
「これから彼女との交渉は私がするから、心配しないで。あなたからは絶対に電話しないこと。ややこしそうな話だったら私に振っていいから」

 これで安心して鉄鉱石掘りができる。
 俺は庭に出てダンジョンに入った。
 スライムがうようよいるのが見て取れた。
 配信スタート。
 カメラのスイッチを入れる。

「前回はイレギュラーハウンドだったけど今日はいつものように配信するよ」
【イレギュラーハウンド? もしかしてバウンド】
【イレギュラーな犬強そう】
【おっさんギャグだぁ】
【しょうもないギャグ言うなや。寒いんや。さぶイボ立ってきたやん】

 しょうもない言い間違いが受けてる。

「まずはスライムを倒すよ」

 俺はスライムに近寄ると持ってきた鉄パイプで滅多打ちにした。
 1000回ぐらい叩くとスライムドロリと溶けて死んだ。

【おっさん、よわっ。はっきりわかった。ドラゴンはまぐれ】
【かもね。石の壊れるポイント説採用】
【でもあれでだいぶレベルは上がったはず】
【レベルが上がってもこれなら、絶望的。才能がない】
【失望しました】
【スライムに30回攻撃はないな】

 30回?
 連打の打ち下ろしがとらえきれなかったのか。
 スマホでライブ配信の映像を出して、少し過去に戻す。
 ああ、たしかに30回しか打ってないな。

 何のせいだろうか。
 だが、別に良いや。
 支障はない。

 スライムの魔石と核は粉々になっている。
 いつものことだ。

 採取ポイントに到着。
 鉄ノミとハンマーで鉄鉱石を掘り出す。
 鉄鉱石をずた袋に入れた。
 大体10キロぐらいかな。
 一回の採取でこれは十分だ。
 これを1日に20回やるのが日課だ。

 採取ポイントは不思議なことに時間が経つと復活する。
 何か意味があるのかも知れないが、俺には関係ないさ。

 冒険者協会に行こう。
 自転車のかごに鉄鉱石を入れて漕ぎ出す。

 協会には10分ほどで着いた。

 窓口に行き、いつものように鉄鉱石をカウンターに載せる。

「換金を頼む」
「いつもの奴ですね。ええと今日のレートはキロ10.1円で、98円になります」
「ありがと」

【一回の上りが98円かよ。とんだ底辺だな】
【ていへんだ、ていへんだ、親分底辺だ】
【これはない。前回の討伐はなんだったのか】
【フロックっというやつだよ。ビギナーズラックとも言う】

 チャンネルを見ると登録者数が5千人台にまで落ち込んでいた。
 平常運転に戻るのだろうな。
 生きる希望が減っていく気がする。
 やっと目立ったのに。
 鉄鉱石掘りをなんども繰り返す。

 チャンネル登録者数が3千人台にまで落ち込んでいた。
 こういうのを一発屋というのだろうか。
 さらに落ち込む。

「今回のライブ配信は終り」
【ここまで酷い討伐映像があっただろうか】
【ないと思う】
【これは逆に新しい】

 失望のコメントで埋め尽くされた。
 やっぱり俺は駄目なんだ。

 もともと配信を始めたのはリサイクルショップで100円の中古カメラが売られてたからだ。
 それが哀愁を誘うというか、バイトを首になった俺と重なった。
 なので配信を始めた。

 配信を始めるまでの事を簡単に話すと、中学生の時に両親が交通事故で死んだ。
 保険金は1000万あったが、こんなのでは足りない。
 バイトしながら、学校に通ったが。
 寝てばかりいたので、頭は良くなかったのがさらに悪くなった。

 高校を卒業してバイトしていたら、庭にダンジョンができた。
 そして、バイトを首になったので、冒険者になることにした。
 うちのダンジョンは鉄鉱石がよく採れる。
 というかそれ以外採れない。
 キロ10円の稼ぎで今まで生きてきた。
 そして現在に至るというわけだ。

 鉄鉱石を掘る毎日は張り合いもなく生きる希望も湧かない。
 せめてCランクモンスターのオークが倒せればな。
 俺には無理な話だ。
 詰まらない話だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件

羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...