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第18章 課外授業のドラゴン

第104話 出発

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 帰った豆腐ハウスの前にはミニアとセラリーナの姿があった。

「こんちは」
「ウィ、違った。ホムン、昨日ぶり」
「ホムンさん。お邪魔してます」

「二人ともどうしたんだ」
「課外授業があるんで、ホムンに知らせに来た」

「そうか、ミニアはウィザを連れて行くのか」
「そのつもり」
「ドラゴンが居れば敵なしね」

「ゴーレムの出番は?」
「ない」
「せっかく作ったのに」
「ホムンさんのゴーレムも連れて行ってあげたら」
「アイテムボックスに入れていく」

「まあ、それならな。所で課外授業はどこに行くんだ」
「古代遺跡群に行く予定」
「なんとなくそそるな。新しい魔法とかがあったりして」
「ホムンさんの期待に水を差すみたいですけど。発掘は終了していて、新しい発見はないと思います」
「そうか、それは残念だ」

 二人が帰ってから、準備を始めた。
 まずはバリヤ魔法だ。
 俺の本体であるドラゴンの背中についている座席を覆うように展開してみた。
 透明なバリヤに囲まれた座席は戦闘機のコックピットみたいだ。
 これなら少し乱暴に飛んでも座席から転がり落ちる心配もない。
 命綱は念のためしてもらうがな。

 複合魔道具は圧縮魔石で作っておいた。
 百分の一に圧縮した魔石は元の赤色から黄金色になっている。
 魔石だと分からないのは都合が良い。
 ミニアに持たせておこう。
 さてと、今日はこんな事でいいか。

 翌朝。
 俺の背中にミニアとセラリーナが乗り込んだ。
 ティはミニアの背負い鞄の中に入っている。
 ゆくゆくはティが居なくもゴーレムの視界を確保したいな。

 合流場所の門の所に行くと馬車が何台も連なって停車していた。

「ロッカルダ教授、ただいま到着しました」

 ミニアが座席に乗ったまま声を張り上げた。

「待ちわびたわよ。じゃあ出発」

 セラリーナの号令で馬車の列は動き始めた。
 俺は馬車の列の最後尾について行く。
 馬を怯えさせないためだ。

 道はしばらく森の中を通っていたが、森は唐突に途切れてその先には荒野があった。

「ミニア、知ってる。遺跡群のある荒野は古代王国が滅びる時に魔法で出来たんだって」
「うん、知ってる。講義で聞いた」
「所々に砂漠のオアシスみたいに森があるんだって」
「そのオアシスで野営するって聞いた」

 ミニアとセラリーナが話をしている間に今日の野営地である森に到達した。
 その時、前方から重たい足音が聞こえてくる。
 木をかき分け出てきたのは3メートルほどのオーガだった。

「戦闘準備」

 馬車から飛び出したロッカルダの緊迫した声が飛ぶ。
 生徒はオーガの大きさにびびったのか誰も降りてこない。
 ミニアに攻撃魔道具の機能一番だと伝言を送った。

 俺がバリヤを解除するとミニアは複合魔道具を起動して、特大のファイヤーボールを撃ち出した。
 ファイヤーボールは弧を描いてオーガに向って飛んだ。
 オーガはかわそうとしたが、誘導されているので避けられず上半身を炭化させる。
 一発魔力コスト1000の威力はどうだ。

「なんだよ、俺の見せ場がなくなったじゃないか」

 馬車から遅れて飛び出したライナルドが古代魔道具を握り締め文句を言った。

「早い者勝ち」
「くそう、いつかお前に勝ってやる」

「ちゅうもーく。荒野に点在する森は魔獣の楽園です。油断しないように」

 ロッカルダがそう言い、生徒達は馬車から降りて体をほぐし始めた。
 俺は念のためレーダー魔法を発動した。
 この付近に魔獣は存在しないみたいだ。
 おそらくオーガの縄張りだったのだろう。
 俺の巨体で上から見回しても魔獣は居なかった。

「オーガなんて初めて見た」
「Bランク魔獣だからな。そこらに居たら冒険者パーティなんか全滅だ」
「運が良いのか悪いのか」
「運が良かったんじゃね。すぐに退治されたし」
「俺は教授の勇姿が見たかったな」
「そうだな。噂ではAランク魔獣をソロで狩ったとも聞いた」

「なんで課外授業なんてのがあるんだ。試験に関係ないだろ」
「しょうがない必修なんだから、これも試験のうちの一つさ」
「これの成績が悪いと卒業の認可が下りないらしい」
「えっ、成績悪かったらどうしよう」
「一週間後にまた開催されるから、その時に及第点を取ればいい」

 生徒達が雑談しているのをドラゴンの耳が捉えた。
 ミニアは今、オーガから魔石を採取している。
 俺はミニアが魔石を取り終わったので、オーガに喰らいついた。
 うん、焦げて苦い。
 ちょっと大人の味だな。
 というより生焼けであまり美味しくない。
 オーガ自体すじが多いから、元から美味しい肉じゃないからな。
 ドラゴンなら噛み切れるけど。

 生徒は俺が食事を始めると話すのをぴたりと辞めた。
 嫌だな。
 人間は食わないよ。
 服とかが不味そうなんだもの。
 ここで吠えたらびびるのだろうな。
 そんな事はしないけれど。

「はい、とっとと野営の準備を始める。男子はテントの設営。女子は料理」

 ロッカルダが手を叩きながら言った。
 だが視線は生徒の方を見ていない。
 俺の一挙手一投足に注目している。
 嫌だな、俺はやさしいドラゴンだよ。
 俺が立っているとみんながくつろげないらしい。
 俺は腹ばいになって、尻尾を丸めた。
 そして、目を瞑る。
 みなが活発に動く足音がする。
 そうだ、ゴーレムを出そう。
 俺はアイテムボックスからゴーレムを取り出して動かし始めた。
 ティよ、合体だ。
 ミニアに伝言魔法を送るとゴーレムの兜の中にティを入れた。
 ゴーレムには新機能を付けた。
 舌魔法の魔道具だ。

 女子が料理した鍋を覗き込み魔道具で味見した。
 何か変な感じだ。
 味がイメージとして俺に伝わる。
 料理を絵として味わう感覚だな。
 面白いが食った気がしない。
 失敗なのか成功なのか微妙な所だ。

 赤外線の目が俺の前に立つミニアを捉えた。
 目を開けるとミニアが持った小さな鍋にシチューが入っているのが見える。
 俺が口を開けるとミニアは舌の上にシチューを撒いた。
 量的には食った気はしないが、舌に料理の味が感じられたので満足。
 やっぱり食うのはこうじゃないとな。
 ゴーレムもまだまだ改造の余地があるって事だろう。
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