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第12章 受験生のドラゴン

第69話 魔法都市、到着

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 眼下に堀に囲まれた円形の都市が見える。
 あれが魔法都市か。
 あの中央に塔が乱立している所が魔法学園だろう。

 俺は都市の手前に降りた。

「どうですか、みなさん。旅を成功させたお祝いなどしませんか」
「いいね。久しぶりにパーッと飲みたいぜ」
「グバートは飲みすぎよ。でも良いわね。ミニアちゃんは」
「参加する」
「ではロラシーもご一緒させて頂きなさい」
「はい、旦那様」

 ちくしょう俺は留守番かよ。
 ピッパが居なくなったのは痛いな。
 ミニアと感覚共有するのは気が引ける。
 なんといっても女の子だ。
 がさつな雄ドラゴンとは違う。
 よし、従魔を作ろう。
 なんにするかな。
 物語の使い魔の定番だと猫だけど、犬も捨てがたい。
 その他だと兎、狼、虎、鹿この辺りが無難か。
 猪と蛇はないな。

 ミニアと一緒に魔法学園に入れるのなら、猫、犬、兎、狼か。
 頭の良さで選ぶなら狼か。
 忠誠心で選ぶなら犬か。
 可愛らしさで選ぶなら兎と猫だろう。
 一緒に飛ぶという事を考えると鳥も選択肢に入るな。

 あーでない、こうでもないと考える事、二時間。
 ミニアが旅の打ち上げから戻ってきた。

「従魔を作ろうと思う。何が良い。猫が可愛いと思うんだが」

 俺は文字を出した。

「世話の楽なの。じゃないと」

 世話の楽な奴か。
 それは考えなかったな。
 前世の同僚が嘆いていた。
 ペットがすぐ体調を壊すと。

「魔獣はかなりタフだと思うがどうだろう」
「ポーチで。持ち運べるの。推薦」

 それだとネズミ一択だな。
 それだと攻撃力が皆無だ。
 攻撃力がなくて良いならリスなんてのも良いな。
 ただ、小動物はじっとしてないんだよ。
 そこが難点だ。
 じっとしていて、世話が掛からなくて、ポーチに収まる。
 そんな奴がいたな。
 スライムだ。
 十センチぐらいしか大きさがない。
 条件にも当てはまる。
 いいのかそれで。

 やってみて駄目なら森に返そう。

「スライムって答えが出たんだが」
「それで良い」

 俺は森でスライムを探した。
 すぐに見つかったのは良いが、臭い。
 残飯が腐った臭いだ。

 前世の同僚が言った言葉を思い出す。
 鮭ってなオキアミを食うから赤いんだぜ。
 河豚もウニみたいな毒のある餌を食うから毒が溜まるんだ。
 うん、スライムが臭いのは残飯みたいな物を食っているからに違いない。
 香水を食わせりゃ良いのか。
 よし、隷属しよう。

 スライムは隷属魔法に応じた。
 低温ブレスで水分を飛ばす。
 半分ほどの大きさになった時に水を掛けた。
 スライムは水を吸収。
 それを何度も繰り返すと臭いは殆んどしなくなった。
 香水はスライムにとって毒かもしれないので、良い匂いがする茶葉を食わせる。
 スライムは爽やかなお茶の香りの生き物になった。
 色は綺麗な琥珀色だ。

 伝言魔法の指示も簡単な物なら受け付ける。
 じっとしていろと食えを覚えさせた。

 感覚共有するとスライムの視界は独特なのが分かる。
 360度の物事を把握している。
 目で見るというより肌で感じているの方が近い。
 これは嬉しい誤算だ。
 ミニアの周りを警戒する時に死角が出来にくい。
 殺さないようにそっと口に咥えて、ミニアの待つ街に急いだ。
 街の前でスライムをそっと降ろす。

「良い匂い。私が好きな。お茶の匂い」

 そりゃ、ミニアが好きなのでアイテムボックスに沢山いれてある茶葉を使ったんだから。

「変な物を食わすなよ。臭くなる」
「分かった。お前はティ」

 お茶かまんまだな。

「ティを持って魔法都市を散策してくれ」
「うん」

 俺が感覚共有をティに掛けると、肩にティを乗せてさっそく魔法都市に入って行った。
 門は普通だな。
 だが石畳の道が違う。
 魔法で出した石材で作られているようだ。
 測ったようにみんな同じ大きさに見える。

「この石畳。作るのに百年」

 ミニアがガイドする。
 きっとタルコットの受け売りだな。

 ミニアの足は塔の方に向いた。

「賢者の塔。選ばれた魔法使い。しか入れない。塔によって。専門が違う」

 なるほど大学だと研究室ってところか。

 次に塀に囲まれた馬鹿でかい建物の側にやってきた。

「魔法学園」

 ここが魔法学園か。

「あなたも下見」

 十四歳ぐらいの女の子がミニアに話し掛けてきた。
 栗色の髪でくりっとした緑の目で可愛い子だ。
 黒系のロングスカートにクリーム色の七分丈のシャツを着ている。
 手には腕輪が嵌っていた。
 ミニアのがさつさが際立つ。
 並ぶとおしゃれな姉に腕白な弟という感じだ。

「そう」
「私、セラリーナよ。よろしく」
「ミニア。テイマー」

「スライムが従魔なんて、変わっているのね。変な意味じゃないわ。良い意味でよ」
「気にしない」
「入学試験に自信はある?」
「魔法なら。ばっちり」
「まだ試験には間があるわ。苦手な教科を教え合わない」
「やる」
「約束よ」

 ミニアはセラリーナと連絡先を交換して別れた。
 さっそく、友達も出来たみたいだし、ミニアにとっても留学の話は良かったのかもしれない。

 最後にミニアが泊まる宿に入る。
 部屋に行くとリタリーが居てスライムをみるなり嬌声をあげた。

「可愛い。これが新しい従魔。くんくん、あれ良い匂い」
「お茶。食わせた」
「なるほどね。確かにお茶の色だわ。どんな事ができるの」
「周囲の警戒だけ」
「凄腕テイマーは違うわね。知能がないようなスライムに警戒を覚えさせるなんて」
「ドラゴン的。調教」
「はいはい、人間を越えないと駄目って事ね」

 ところでリタリーは魔法都市で何をするつもりなんだろう。
 魔法使いとしてはそこそこ成功している部類だと思うんだが。
 生徒として魔法学園に入るのかな。

 魔法学園に受講生の制度があるかは分からないが。
 案外、受講生かもな。
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