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第11章 貴族のドラゴン

第66話 ミニア排斥の企み

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 今日も貴族会議。
 議題は昨日に引き続いて、トナークとの交渉をどうするかだ。

「議長、少し説明をしてもらいたい。平民がなぜこの会議に出席しているのですかな」

 貴族の一人がそんな事を言い始めた。

「それは、陛下がお決めになられた事です。ドラゴンが出席できないので代理では」
「それはおかしい。不在の貴族に代理が認められた前例などありません」

 獣臭くてかなわんとの野次が飛ぶ。
 議長が王様に何か耳打ちした。
 王様が何か呟いたようだ。

「えー、隷属主のみ代理を認めると」
「なるほど貴族を隷属させた者がいれば代理に出来ると。通りですね。隷属させたのなら意見を強制的に言わせる事もできる」
「納得いただけましたか」
「いえ、まだあります。その駄竜はなんですか」
「そ、それは」

 またも議長が王様にお伺いを立てる。

「みなさん、武器をお持ちです。テイマーにとっての武器とは魔獣である」

 議長が言い放った。

「なるほど」

 なんか雲行きが怪しいな。
 しかし、俺をミニアが隷属させてないのがばれると不味いな。
 俺が暴れないから疑いもしないってところなんだろうが。
 非常に不味い。
 なんでこんなにミニアに対して風当たりが強いんだ。

「では昨日に引き続き、トナークとの交渉の件です。ドラゴンとドラゴンテイマーの追放は譲れないとの返答がありました」

 何かが、おかしい。
 何かは分からないが。

「いっその事。ドラゴンとドラゴンテイマーを処刑されては」

 おい、おい、暴論だろう。
 ミニアに伝言を送る。

「処刑の罪は?」

 ミニアが発言した。

「では魔道具一万個が作れなかった場合に、その罪という事でどうでしょう」

 俺はミニアに伝言を送った。

「材料さえあれば。作れる。約束する」
「会議での発言は重いですぞ。もう覆せません。みなさんも聞きましたよね」

 半分の貴族から拍手が起こる。

「いったん、休憩とします」

 そう議長が言った。
 休憩が終わって再び会議となった。

「トナークとの要求を断固、跳ね除けるです。どうです皆さん」

 満場一致の拍手が起こる。
 茶番だな。

「この件は決まった様なので本日は終了いたします」

 議長の声が空々しく聞こえた。
 魔道具を納品できないミニアを追い込んで何かしたいのだろうが。
 そうは行かない。
 その足で魔道具一万個分の材料を手に入れた。
 もう大丈夫だ。
 普通の妨害なら、平気だろう。

 だが、気がかりが出来た。
 どうやら後をつけてくる者がいるようだ。
 巧妙に人ごみに隠れているがドラゴンは誤魔化せない。
 飛ぶと着陸地点にも待ち構えている。
 どんだけ人を動員したんだ。
 貴族、一人だけの仕業じゃないな。

 草原に居る見張りは穴を掘って隠れているようだった。
 執念深い事だ。

 俺は街道脇の草原に許可なく豆腐ハウスを作った。
 ミニアを宿に泊めると安全が保てないからだ。
 それに魔道具を作る現場を見せないためだ。
 魔道具は今夜一晩で完成できるだろう。
 しかし、早々に提出しては後からどんな無理難題を言われるか分からない。
 一ヶ月の期間のぎりぎりまで提出しないつもりだ。

 許可なく豆腐ハウスを建てたのを咎められたら、俺がぶっ壊して知らん振りを決め込むつもりだ。
 さて、トナークの秘密を暴く算段をつけないとな。
 どうもそこが根っこのように思える。

 翌日になった。
 今日は登城の日ではなかったので、俺とミニアは国境の街まで飛んだ。
 まさかここまで見張りは居ないだろうと思ったら。
 居る。
 居やがる。
 それも一人ではない十人は居る。
 動員の数は凄いが奇妙な事がある。
 認識阻害を誰も使っていないのだ。

 どういう事かな。
 まあ良いや。
 情報収集だ。
 前線に向かって飛ぶ。
 前線にはもう兵士はほとんど居なかった。
 俺達が来るのが分かると喝采が起こる。

 ミニアが鞍から飛び降りて兵士に聞き込みを開始する。

「トナークはどう?」
「やつらは大人しいもんです。気味が悪いぐらいです。巡回もほとんどありません」
「そう」

 どう考えたらいいのだろうか。
 戦争を継続する意思はない様だ。
 ならさっさと賠償金を払えと思わなくもない。
 理由、理由っと。
 リトワースの残党がごっそり居なくなったとか。
 でもユフィレーヌは生き残りは少ないって言ってなかったか。
 待てよ、ブライシー騎士団にいるリトワースの人間がもう居ないのであって、他の人間は居るかも。
 でもそれならリトワースの残党を探すよな。
 場合によっては探し出して始末する。

 うん分からん。
 プログラマーは探偵じゃない。

 国境の街で聞き込みするか。
 屋台で食べ歩きしながらミニアが会話する。

「戦争が。終わってから。おかしな事ない」
「ないな。戦争前なら、トナークから逃げ出した奴らが沢山いたな。大方トナークが負けると踏んだんだろうさ」
「逆に攻め込まれる?」
「その通りだ。俺ならトナークが負けるとなりゃ。トナーク側に住んでいたら逃げ出すさ」
「難民はどこへ?」
「そういえば、いつの間にか居なくなったな。トナークには帰りづらいからこの国に散っていったんじゃないのか」
「ありがと。串焼き。追加で百」
「まいど」

 ユフィレーヌは戦争に勝つつもりだったはずだ。
 ならリトワースの人間を前もってこの国に定住させるぐらいやりそうだな。
 でも今、トナークが混乱している理由が分からない。
 時限爆弾でも仕掛けておいたのか。
 ありえるな。
 戦争に勝ってもトナークがユフィレーヌとの約束を守る可能性は低い。
 俺がユフィレーヌなら時限爆弾を仕掛けて置く。

 それがミニアの排斥にどう繋がるかだ。
 俺がこの国の王なら、トナークをドラゴンで滅ぼせぐらいミニアに命令する。
 失敗しても別に困らないからな。
 考えても分からん。
 王都に帰ってから相手の出方をみよう。
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