上 下
64 / 164
第11章 貴族のドラゴン

第64話 リトワース宰相

しおりを挟む
 城の前庭で俺は叙勲されるために座っていた。
 ぞろぞろと貴族らしき人達が見物にくる。
 そして、ラッパが吹き鳴らされた。

 護衛の一団を引き連れて王様らしき人が来て言った。

「男爵に叙する。励む様に」
「ガォ」

 俺は一応、応えてやった。
 王様も茶番だと思っているのだろうな。
 にこりともしなければ憤慨した様子でもない。
 ひたすら面倒臭い、そういう表情だ。
 さて叙勲の儀式は終わりみたいだから、お暇するとしよう。
 俺は戦争の功績を以って貴族になった。
 名前もウィザード・シーラングウェイジに。
 
 ミニアが鞍によじ登って席に着いたのを確認してから飛び立った。

 街道脇の何時もの定位置に寝そべる。
 リタリーに預けていたピッパは俺の横で丸まって寝ていた。
 暢気な奴だな。
 野に放った方が良いのだろうか。
 俺は本気で検討し始めた。

 すると老人が一人、息を切らしてやって来る。

「やっぱりだ。その剣はシャイニングブルグ。どうかその剣をそれがしに返して下され。それはリトワース王の象徴ですぞ」
「嫌だと。言ったら」
「あなた様の平穏は金輪際やってこないでしょう。常に刺客に襲われると覚悟してもらいたい」

 ところでこいつ誰。
 リトワースの残党だと分かってはいるけど誰なのよ。
 ミニアに誰だと尋ねろと伝言魔法を送った。

「あなた、誰」
「リトワース宰相、ホレイルですぞ」

 リトワースの宰相が生き残っていた。
 そんな事はないだろう。
 国がなくなった後にユフィレーヌが任命したんじゃなかろうか。
 そんな事よりどうするかだ。
 大人しく国宝の剣を返すのが正解なような気もする。
 俺はミニアに剣を返すように伝言した。

「嫌、剣は返さない」
「リトワースの再興を目指すものが黙ってはおりませんぞ」

 ミニアは剣を返す気はないようだ。
 仕方ない。
 ユフィレーヌからミニア・リトワースを名乗る許可を得たと言ってみろと伝言した。

「ミニア・リトワース。名乗る許可を得た」
「それは誰からですかな。返答によっては、ただでは置きませんぞ」
「ユフィレーヌ」
「なんと、ユフィレーヌ様が。信じられませんな。真偽鑑定魔法を掛けてもよろしいか」
「良い。魔法名はモニミニチ」

「念のため。ヒラニシ・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・
カイリ・けカセレ・
カセほカラセイミゆふモニミニチふよレ・
カセスニミカハゆカセネチスキヒガヌムよレ・
カソリラトイゆカセよレ・む。
わしは何と伝言した?」

 ミニアに何か伝言したみたいだ。
 魔法名が正しいのか確認したのだろう。
 用心深い事だ。

「リトワースに栄光あれ」
「正解じゃ。では真偽鑑定を掛けますぞ。
ソクチス・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・
カイリ・けカセレ・
ソクチス・トガフエオムレ・
カセほカラセイミゆふモニミニチルトラナリふよレ・
テクニリイゆカキイカトゆトネフエオネカセよぬほミナリリよが・
ニハゆリニチスろソクイソノゆトネチスキヒガヌムよほほやミやよ・スイカナスミゆやミやよレ・む・
カソリラトイゆカセよレ・
スイカナスミゆやンやよレ・む。
むむむ、なんと名を許しただと。だが、ユフィレーヌ様を殺害した事をどう説明する」

 ふむ、それはなぁ。
 理由をミニアに伝言した。

「ユフィレーヌは間違った。無辜の民への。犠牲を強いてまで。建国を急ぐのは。間違っている」
「それは……。確かにそれは認める。だが……」

 もう一押しか。
 ある秘策を伝言した。

「人は生垣。人は城。情けは味方。仇は敵」
「なんと思慮深いお言葉。感動しましたぞ。それで国宝の剣をどうなさるおつもりか」
「建国する」
「なんと建国するのですか」
「そう。迷惑が掛からない。場所で」
「して、その方法は」

 うーん、なんて答えるべきか。
 アドリブで行くか。
 ミニアに答えを伝言し始めた。

「どこの国にも。属さない秘境に。建国する」
「遂にリトワースの旗が再び舞うのですな」
「違う。ミレニアム王国」
「どういう事ですか」
「格好いいから。もとい。血塗られた。名前は捨てる」
「確かにリトワースの名前で沢山の人が亡くなりましたな」
「その通り」
「で何時、建国して下さるのですか」
「気が向いたら。違った。今は。力を蓄える。時」
「そうですか。しばし待つとしましょう。ところでどのような経緯でリトワースの名を継いだのですか。もしや、ユフィレーヌ様の忘れ形見」
「気まぐれ。違う。こころざしを継いだ」
「養子という訳ですな」
「とにかく。こころざしを継いだ」
「皆にわしから説明して置きましょう。ユフィレーヌ様と意見の隔たりがあったのは悲劇ですが。殺さなければ止まらなかったのも事実。確かにユフィレーヌ様にはついて行けないと感じる事もありました」
「分かったなら良い」
「近々リトワースの者が尋ねてくると思います。その者が大いに助けになるでしょう」
「要らない」
「そんな事、言わずに」
「成人するまで。待つ」
「約束ですぞ」
「約束」

 なんとか収まったのかこれ。
 余計な火種を抱え込んだ気がしなくもない。
 ミニアが成人するまでに建国の準備が出来るかな。
 ミニアが国を作ると行った時に冗談だと思っていたが本気のようだな。
 及ばずながら手を貸すとしよう。
 まずは手始めに人集めだな。
 冒険者仲間の伝手はあてにならないだろう。
 リトワースの残党だけだと暴走する危険性が高いな。
 ミニア成人の時までになんとか集めるとするか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...