上 下
31 / 164
第5章 教習生のドラゴン

第31話 新人研修

しおりを挟む
 今日の課題は新人教育。
 ミニアに一番向かない課題ではないだろうか。
 教官の言葉では人を育てられて一人前。
 中級冒険者にふさわしいと言えるだってさ。
 『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』だったっけ誰か偉い人の言葉だった気がする。
 前世の課長から聞いたもんで誰だったかは忘れた。
 ドラゴンの抜群に良い記憶力も前世には及ばない。

 とにかくミニアにそれを伝えた。
 俺も新人教育はやったが、会社だとマニュアルみたいな物がある。
 それに従ってトラブルが起きた時だけアドバイスしていた。
 俺の前世のスキルなんてそんな物だ。

 ギルド二階にある食堂のテラス席で顔合わせが行われていた。
 ミニアの前には生意気そうな少年と気の弱そうな女の子がいた。

「ミニア、Dクラス。テイマー。よろしく」
「俺がなんで年下のこいつに教わらないといけない」
「フリオン不味いよ。先輩冒険者だよ」

 教官は笑ってミニアを見ている。
 口は出さない。

「力比べ。敗者。従う」
「おう、やってやる」

 ミニアとフリオンは腕相撲を始めた。
 俺はもちろん筋力二倍の魔法を掛けた。
 二人は組み合ったまま動かない。

「くそ、びくともしねぇ。何が起こっているんだ。俺は負けねぇ」
「口だけ」

 少しずつミニアの手が相手の負ける方向に倒されていった。
 最後に手の甲がテーブルに押し付けられた。

「約束」
「ちきしょう。なんで勝てない」
「や・く・そ・く」
「フリオンだ」
「フリオンです。よろしく。お願いします。と言え」
「納得いかねぇ。フリオンです。よろしくお願いします」
「リヴィーです。よろしくお願いします」

 その後二人共、戦闘方法などの自己紹介が終わり、薬草採取に出発となった。
 依頼は例のヒール草だ
 森までは俺の背中に乗って飛ぶ事になった。
 木がなくて開けた小さい草原に皆を降ろした。
 楽しすぎだろう。

「おい、お前ら。これが普通だと思うなよ。普通だと森までは歩いて半日だ」

 教官が流石に口を出した。

「「はい」」

 流石に歴戦の戦士である教官に口答えはしない。

「乾燥させたら不味い薬草はどうするんですか」

 女の子が尋ねた。
 教官がミニアを見た。

「本当は。自分で。調べる。アイテムボックス。駆け足。馬。鉢植え」
「分かりました。今度から自分で調べます」

「ドラゴンに乗るって気持ちいいな。俺ドラゴンにまた乗れるのなら、ミニアの事を師匠って呼んでもいいぜ」

 フリオンが能天気な事を言った。
 咎めるような目つきでリヴィーがフリオンを見る。
 苦労しているなリヴィー。

 同行者をヒール草が沢山あるスポットに案内する。
 もちろん魔法を使ってヒール草の数は確かめた。

 慣れない手つきで中腰になりながら薬草を探す二人。
 一時間程探すと腰をさすりながらフリオンが文句を垂れ始める。

「何だよ。沢山あるんじゃないのかよ」
「薬草が分かりません」
「予習大事。ヒール草。これ」

 ミニアが冊子出して言った。

「何だよ。あるんだったら最初から出せよ」
「お借りします」

 二人は食い入る様に冊子を見て薬草を探し始めるが、結果は惨敗。
 それどころか間違った草を採る始末。
 まずは物品鑑定の魔法から教える。
 魔法のイメージはこれだ。

void main(int argc,char *argv[])
{
 printf("%s",goods_judgement(argv[1])); /*外部入力した目標を鑑定して表示*/
}

 ミニアが詠唱を教える。

「物品鑑定魔法。ヒラニシ・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・
セスニミカハゆふえトふネキララシトマナシキイモイミカゆチスキヒガヌムよよレ・む」

 ミニアの前に二人が採った雑草の情報が文字として表示された。

「頑張って。覚える」
「俺覚えられそうにないや。パス」

 ミニアの言葉を無視して、フリオンは速攻で諦めた。
 リヴィーはメモを出すと一句毎、ミニアに確認しながら書き取る。
 勘だがリヴィーはたぶん生き残るな。
 フリオンは駄目だろう。

 メモを見ながらリヴィーが詠唱する。
 失敗なく魔法は発動して雑草の情報が表示される。

「あんなに苦労したのに、また雑草かよ」
「コツを教えて下さい。いえ、帰ったら自分で調べます」
「特別。魔道具あげる」

 さっきの物品鑑定魔法の魔道具をミニアはリヴィーに渡した。
 魔道具のほうは情報が五分表示される様に改造してある。
 三秒じゃ品名ぐらいしか読めないからな。

「俺にはないのかよ」
「努力。しない人。渡さない」
「やりゃいいんだろ」
「物品鑑定の呪文から教えろ。教えて下さい」

 ミニアはフリオンにつき合って詠唱を教えた。
 その間にリヴィーは冊子を見ながら薬草を探し、物品鑑定の魔道具を使い一本目の薬草を採る事に成功したようだ。

「やった。薬草採った」
「ちくしょう。リヴィーに先を越された。村では一度も先を越された事はなかったのに」



 薬草採取は続き魔力が切れそうになるまで続けられた。
 引き上げようとした時にゴブリンの一団が現れた。
 ゴブリンって馬鹿すぎてドラゴンがいてもお構いなしなんだよな。
 ウルフ辺りだと逃げられないと悟ってから攻撃に移るんだけどな。
 当然逃げる隙が出来れば逃げる。

 ミニアに筋力強化の魔法を掛ける。
 瞬く間に緑の血で大地は染まった。

「最後。二人で。討伐」

 一匹残されたゴブリンをミニアは二人に片付けさせようと考えたらしい。
 二人はナイフを構え慎重にゴブリンに近づく。
 ゴブリンは棍棒を振り下ろす。
 先頭にいたフリオンは手を打たれナイフを落としてしまった。
 ゴブリンは思いっきり振り切ったので、棍棒は音を立てて地面を叩く。
 その隙を見てリヴィーがゴブリンの腹にふかぶかとナイフを突き立てた。
 痛みに呻くゴブリン。
 フリオンがナイフを拾い止めを刺した。

「武器。絶対。離さない。予備の武器。切り札。前もって。準備」
「へい」
「はい」

 来る時と同じ様に俺の背中に乗って飛んで帰る。
 ギルドの前で教官が二人とミニアを立たせた。
 最後に教官が締めくくるようだ。

「お疲れ。新人はまだまだだな。ゴブリンとの戦いでも分かるように実力が圧倒的に足りてない。努力しろ。ミニアは及第点だな。フリオンにこんなのじゃ駄目だと悟らせるようにしないとな。リヴィーは言わなくても伸びそうだから、長所を伸ばすように指導できれば満点だ」
「「「はい」」」

 希望しない限り教習は今日で終わりだ。
 ミニアにCランク試験を受けるよう勧めるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...