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chapter17 この世とあの世の境界線

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竜馬は文也の家のキッチンに置いてある
気味の悪い琥珀色のカプセルが瓶にびっしり
詰められているのをマジマジと見ていた




「これは何だ? 」




顔をしかめて文也に尋ねる




「凝固したオイルの塊みたいだ」




文也がキッチンに入ってきて竜馬に答える





「そいつは凝固したオイルの塊だな
韓国のビタミン剤だよ
一つのカプセルに400ミリの
ビタミンEが入っている
肌や爪や髪の毛にいいらしいよ
竜ちゃんがメシを食わないって言ったら母さんが
俺達に心配して持って来たんだ 」





竜馬は文也の言葉を聞きながら
ぶよぶよしたカプセルをつまんで
部屋のライトにかざした




「これを飲むより腹が減ったな・・・・
文也なんか作ってくれ 」
   



リビングで宗一郎がゲームコントローラーを
放り投げてキッチンにやってきた





「珍しいなぁ~
お前いつも一日1食なのに!
文也!俺!Udonうどんがいい!
Udonうどん作って! 」





そして例の文也ママからの
ビタミン剤の一錠をつまんだ
こっちのカプセルは蛍光黄色だ




「こいつは小便がまっ黄色になるヤツだ!」





文也がちらりと薬に目をやる




「それはビタミン複合体ってヤツだよ
良いサプリらしいぜ  」




「ウサギの餌に見える
それに馬糞の匂いがする 」





竜馬がくんくん匂いを嗅いでぼやく





「どうして俺らにこんなものを飲ませたがるんだ」




と宗一郎




「それが母親ってもんさ
僕達の体を気遣ってあれやこれや持ってくるんだ
飲むか飲まないかは僕たちが決めればいいじゃないか
んで?竜ちゃんは?
何食べる?」



「何か腹に溜まるものがいい」




自分達を心配する文也の母親の気持ちを汲んで
竜馬と宗一郎はひどい匂いのするサプリを
口に含んで水で飲み干した





「うえーーーっ!」


「くそっ!舌が黄色くなったぞ!」



「大げさなんだよ!
せいぜい苦しめ!」





たかが健康サプリ程度で大騒ぎしながら
くだらない茶化しあいをしている二人を
後目に文也が冷蔵庫からTボーンステーキを
取り出してフライパンで焼き出した



文也の料理の腕前がプロ並みなのはありがたかった

塩コショウと専用おろし器で擦ったニンニクを刷り込み
表面を焦げ付かせるとアルミホイルで包み
あとは余熱で中に火を通す
専用の温度器を肉にぶっ刺し菌が滅死する
75度以上になったのを確認する
本格的だ



竜馬はミディアムが好きなのを知っているので
文也は焼きを浅めにした




「おお~~!! 」
「おお~~!! 」




斜めにカットするとちょうどよい赤さの
血が滴るようなミディアムステーキが現れた
フライパンに残った肉汁と赤ワインでソースを作り
ちょうどよい加減でステーキに垂らす





「宗一郎はなべ焼きうどんな! 」


(裏声)
「素敵!文也君!今夜アタシを抱いて!
ドーテーでもOKよ!」





ワニの顔の鍋つかみを手でパクパクさせながら
からかう宗一郎を無視して
文也が大きなキッチンカウンターテーブルに
大皿に盛ったTボーンステーキと
なべ焼きうどんを置く




この短時間でTボーンステーキには
付け合わせのキャロットバターソテーに
大盛りのライスまでついていた




「竜ちゃんにはタンパク質が必要だよ」





それに異論はなかった
竜馬は熱心に見つめる二人の観客を無視して
ステーキにかぶりついた

数分後すっかり綺麗になった皿を見て
文也が感動して言った




「竜ちゃん!やっとまともに食事を
してくれるようになって嬉しいよ
どういう心境の変化?  」



「そりゃアレだろうよ」





キヒヒと宗一郎がいやらしく笑う




実際竜馬自身も驚いていた
本当に彼女に会うまでは一日めんどくさかったら
平気で食事をとらない日もあった
今は腹が減ってメシを食うと旨く感じられた





「ごっそさん
今度は僕がカレーを作るよ 」




二人は心底驚いた顔を竜馬に見せた
特に宗一郎は竜馬が料理が出来るなんて
長い付き合いの中で生まれて初めて聞いたからだ





「といってもカレーしか作れないけどな」





宗一郎と文也がゲームをしないかと竜馬に尋ねたが
竜馬はハナの世話があると文也の家を後にした





竜馬はエレベーターに乗って
ゆっくり息を吐き出した




なんだか酷く落ち着かない
大勢の人に囲まれていても
なぜか一人でいるような気分だった




たぶんあの自立した
一人の気の強い女性のせいだ




彼女をつけまわして煩わせる理由などないのに

一郎さんの会社を守れたのだから
社長の自分は一歩引いて見守っていればいいのに





そして無意識に21階のボタンを押す
 


今や日課だ




21階のフロアに降り立つ
どうしてここに足が向かうんだろう?


そして見つけた奥のジェニのデスクの
スペースの蛍光灯だけ煌々と明かりがついている






今は夜の8時過ぎ・・・
なんと彼女はまだオフィスで仕事をしていた




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