パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
12 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

忘れてた感情は恐怖ですか?

しおりを挟む
 時は少しだけ遡る。

 ハルトたちは爆発音が聞こえた場所にたどり着き、その惨劇を目の当たりにした。最初に目に入ったのは一面の血だまり。そして横たわる三人の冒険者。内二人は原型をとどめていなかった。残りの一人もおそらく息を引き取っているだろう。

「ひっ……!」

 マナツが小さな悲鳴をあげる。ハルトとユキオも思わず口に手を当てて目をそらす。鉄のような血なまぐさい臭いと、爆発による焦げ臭さがあたりを充満している。
 冒険者が死ぬことは日常茶飯事だ。四人も実際にディザスター内で息を引き取っている冒険者には多く出会った。しかし、この惨劇は流石に慣れているとはいえ、気分が良いものではない。

「あ、あれ……!」

 マナツの声に引き寄せられるように顔をあげる。

 思わず息を飲んだ。冒険者なら誰もが知っている災厄の魔物。
 漆黒のローブを身に纏い、骨のむき出しになった手に握られる大きな鎌。そして、深淵のように深い暗闇に包まれた顔。

「デ、デッドリーパー……!?」

 過去にこんな事件があった。一匹の宙に浮く死神がとある国に侵入し、数多の冒険者、そして市民を大きな鎌の餌食として、わずか一晩で国一つを崩壊させた。その後、名の知れた冒険者が棲み処を特定し、厳重に封印魔法を重ねて事はひとまず片付いた。討伐は不可能だと考えられたからだ。
 もはやおとぎ話のような昔の話ではあるが、冒険者ならば最初に通う養成学校で散々聞かされる話だ。

「な、なんで……。こいつは確かAランクの魔物……」

 デッドリーパーは大きな鎌を頭上高く掲げ、うずくまる一人の冒険者に手をかけようとしている。ハルトは動くことができなかった。

 負の感情が一気に押し寄せ、危うく胃から込み上げるものを吐きそうになる。

 膝を尽き掛けるハルトを突き飛ばし、ユキオが目にも留まらぬ速度で走り出す。剣を低く構え、振り下ろされるデッドリーパーの鎌を下から叩く。

 耳をつんざく金属音があたりを反響する。その音で我に返ったハルトは目に光を取り戻した。
 竦む両足に鞭を打って地を蹴る。ぎこちない走りで、何度もこけそうになって前方につんのめりながら剣を構える。

「モミジとマナツは魔法の準備!」

 モミジとマナツは顔面を蒼白させながらも、両者距離をとって魔法の詠唱を始めた。その様子を走りながらちらりと確認する。

 ハルトはデッドリーパーの側面に入り込み、がら空きの横っ腹に剣を突き立てる。肉を断つ感触はない。ダメージが入っているかも不明だが、デッドリーパーは鍔迫り合いをしていたユキオの剣を軽々とあしらうと、ハルトに向けて大鎌を振り抜いた。

 迫り来る巨大な鎌に一瞬、身がすくむ。歯をギリっと食いしばり、ハルトはスキルを発動する。

 ――ツイスト!

 心の中で叫ぶと、体が半自動的に動き出す。身をよじり、迫り来る鎌を空中で避けると、右手に握られた剣で鎌を持つ手を叩き斬る。
 またしても骨を打つ感覚のみが剣を伝い、体に響く。まるで鋼鉄を叩いているみたいだ。

 デッドリーパーは底なしの闇のような顔面に、不気味に光る深紫こきむらさきの瞳を浮かび上がらせる。
 その瞬間、ハルトの全身が硬直する。足は制御を失って震え、額には脂汗が滲む。呼吸は荒くなり、視界がぐにゃりと歪んだ。

 単純な恐怖などではない。これは幻惑魔法だ。

「ハルト!」

 ユキオは大きな体で力任せにデッドリーパーを吹き飛ばす。
 後方の大木に叩きつけられたデッドリーパーに鋭利な氷結の矢が無数に突き刺さる。次いで、光の球体がデッドリーパーを飲み込むように包み込み、その場で爆散した。

「――ハルト!」

 ユキオに頬を何度か叩かれ、ハルトは意識を覚醒させる。過呼吸寸前に陥っていたハルトは地面に手をついて、激しく咳き込む。

「くそっ! サンキュー、ユキオ」

 デッドリーパーは動く気配を見せない。しかし、よく見ると全身を薄緑のオーラが包み込んでいる。おそらく回復魔法だ。
 その様子を見て、軽く絶望するが、すぐさま切り替える。思考を止めている時間なんか一秒たりとも存在しない。

「おい、あんた! 街に行って助けを呼んでくれ!」

 ハルトは地面にうずくまり、小刻みに震える冒険者に声をかける。冒険者は恐る恐る顔をあげ、デッドリーパーが動かない状態であるのを見てゆっくりと立ち上がる。

「た、助かった……」

「バカ! まだ終わってない! 私たちが食い止めるから、早く助けを呼んで来て!」

 マナツが強引に冒険者の背中を押す。

「で、でも、あなたたちはどうするんですか!? あいてはあのデッドリーパーですよ。……死んじゃいますって!」

「こいつを止めておかないと、私たちの街が壊される……と思う」

 ハルトは剣を杖代わりにして立ち上がり、汗を拭う。
 正直、これだけの魔法とスキルを当てても、回復魔法によってほぼ満タンまで回復されているのであろう。

 自分たちが急激に強くなって、軽口を叩いていたが、実際にAランクの魔物と対面すると、正直勝てる気が一切しない。むしろ、次の瞬間にはあの大きな鎌に首をちょん切られる可能性も大いにある。

 ――怖い。

 いつしか忘れていた感覚だ。冒険者は常に死と隣り合わせで魔物と対峙する。このパーティーになって忘れていた感情だ。

「やるしかない……。それに、俺たちは四人いなくちゃ本気出せないんだ……!」

 冒険者はキョトンとした目でこちらを見るが、四人の覚悟を感じ取ったのか、一度大きく頷くと街に向けて走り出した。

 デッドリーパーは立ち上がり、何事もなかったかのように宙をゆらゆらと漂う。しかし、先ほどとは違い、体を赤いオーラが包み込んでいる。

 ハルトは剣を構える。

「さぁ、第二ラウンドだ!」
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

処理中です...