38 / 68
第二部
5.知らない誰か
しおりを挟む
青い石を握って眠ると、同じ人の夢を見る。
男の人の夢、だと思う。けれど、誰の夢を見ているのか分からない。
わたしに話しかけるその声も、その顔も、名前も、霞の向こうの出来事のように、思い出せない。
ただ、青い瞳がわたしを見ている。その瞳があまりにも美しくて、目を逸らせない。
深い海の底のような青だと思った。
その時々で、夢の内容は違う。
ただ、夢の最後ではわたしはいつも泣いていて、彼の大きな手が頬を拭ってくれる。その手がとてもあたたかい。
「……っ」
いつもここで目が覚める。
目覚めると、その手はない。涙は枕に吸い込まれていって、冷たくなっていた。
窓の外には、ぽかりと半分の、上弦の月が浮かんでいる。
わたしは覚えていないのに、体は覚えていた。
どんな風にその手が触れたか、撫でたか、弄ったか。
変だ。こんなの絶対おかしい。こんなことをしてはいけない。
今まで触ったこともないはずの場所が熱い。ひくひくと、何かを求めて蠢いている。
「……ん…はぁ……あっ」
恐る恐る触れてみたら、ぬるりと指が滑った。溝を縦になぞると、腰が跳ねる。けれど、何かが違う。
ああ、こんな手じゃなかった。もっと大きくて、長い指で。もっと上手く、導いてくれた。
水底に炎が燃えるような青い目。囁かれた、少し掠れた声。
なんて言っていただろう。思い出せない。ただ、その声に跳ねたことを心臓は覚えている。
何も得られないと分かっているのに、指を動かすのを止められない。
「あっ……ああぁ……」
水音がどんどん大きくなる。ぬちゃりぬちゃりと指を動かす度に響く。
つぷり、と中指を挿れてみる。ざらつくところを擦り上げると、自分のだとは信じたくないような高い声が漏れた。
「ゃ…ああっ……ん……っ」
駆け上がっていくような感覚を逃そうとしても、足に力が入っていく。
反対の手を、胸元に伸ばした。そこはもう、待ちわびていたかのように硬くしこっていて、触れたら不思議とお腹がきゅっとなった。
熱い舌が、この胸を這っていったことを思い出す。もっと強く吸ってほしい。
大して育っていない胸を、捏ねるように揉む。立ち上がった頂きを、ぎゅっと摘まむ。痛みよりも、快感が勝った。触っているのは胸なのに、腹の奥が燻っていく。もっと決定的な何かがほしい。
届かない。わたしの指じゃ、届かない。
もっと、奥の奥。そこが求めているのに。
敏感な尖りは親指で押すようにして、中指を抜き差しする。じゅぷじゅぶとした音で、溢れ出した蜜が吐き出されていく。
「んぁ……ン……っあ……あああああっ」
呼吸が速くなる。背中が弓なりに反っていって、爪先が空を蹴った。
わたしは知らない誰かの指と舌と声の中で、一人果てた。
夢で彼が言っていた通りだ。
本物が傍にいてくれるのなら、夢で逢う必要なんてない。
「はぁ……はぁ…」
自分のものが浸みて冷たくなったシーツに体が沈んでいく。
月の光に照らされたわたしの指は、てらてらと濡れていて糸を引いた。吐き気がしそうなほどの罪悪感だった。
男の人の夢、だと思う。けれど、誰の夢を見ているのか分からない。
わたしに話しかけるその声も、その顔も、名前も、霞の向こうの出来事のように、思い出せない。
ただ、青い瞳がわたしを見ている。その瞳があまりにも美しくて、目を逸らせない。
深い海の底のような青だと思った。
その時々で、夢の内容は違う。
ただ、夢の最後ではわたしはいつも泣いていて、彼の大きな手が頬を拭ってくれる。その手がとてもあたたかい。
「……っ」
いつもここで目が覚める。
目覚めると、その手はない。涙は枕に吸い込まれていって、冷たくなっていた。
窓の外には、ぽかりと半分の、上弦の月が浮かんでいる。
わたしは覚えていないのに、体は覚えていた。
どんな風にその手が触れたか、撫でたか、弄ったか。
変だ。こんなの絶対おかしい。こんなことをしてはいけない。
今まで触ったこともないはずの場所が熱い。ひくひくと、何かを求めて蠢いている。
「……ん…はぁ……あっ」
恐る恐る触れてみたら、ぬるりと指が滑った。溝を縦になぞると、腰が跳ねる。けれど、何かが違う。
ああ、こんな手じゃなかった。もっと大きくて、長い指で。もっと上手く、導いてくれた。
水底に炎が燃えるような青い目。囁かれた、少し掠れた声。
なんて言っていただろう。思い出せない。ただ、その声に跳ねたことを心臓は覚えている。
何も得られないと分かっているのに、指を動かすのを止められない。
「あっ……ああぁ……」
水音がどんどん大きくなる。ぬちゃりぬちゃりと指を動かす度に響く。
つぷり、と中指を挿れてみる。ざらつくところを擦り上げると、自分のだとは信じたくないような高い声が漏れた。
「ゃ…ああっ……ん……っ」
駆け上がっていくような感覚を逃そうとしても、足に力が入っていく。
反対の手を、胸元に伸ばした。そこはもう、待ちわびていたかのように硬くしこっていて、触れたら不思議とお腹がきゅっとなった。
熱い舌が、この胸を這っていったことを思い出す。もっと強く吸ってほしい。
大して育っていない胸を、捏ねるように揉む。立ち上がった頂きを、ぎゅっと摘まむ。痛みよりも、快感が勝った。触っているのは胸なのに、腹の奥が燻っていく。もっと決定的な何かがほしい。
届かない。わたしの指じゃ、届かない。
もっと、奥の奥。そこが求めているのに。
敏感な尖りは親指で押すようにして、中指を抜き差しする。じゅぷじゅぶとした音で、溢れ出した蜜が吐き出されていく。
「んぁ……ン……っあ……あああああっ」
呼吸が速くなる。背中が弓なりに反っていって、爪先が空を蹴った。
わたしは知らない誰かの指と舌と声の中で、一人果てた。
夢で彼が言っていた通りだ。
本物が傍にいてくれるのなら、夢で逢う必要なんてない。
「はぁ……はぁ…」
自分のものが浸みて冷たくなったシーツに体が沈んでいく。
月の光に照らされたわたしの指は、てらてらと濡れていて糸を引いた。吐き気がしそうなほどの罪悪感だった。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】出来損ないの魔女なので殿下の溺愛はお断りしたいのですが!? 気づいたら女子力高めな俺様王子の寵姫の座に収まっていました
深石千尋
恋愛
バーベナはエアネルス王国の三大公爵グロー家の娘にもかかわらず、生まれながらに魔女としての資質が低く、家族や使用人たちから『出来損ない』と呼ばれ虐げられる毎日を送っていた。
そんな中成人を迎えたある日、王族に匹敵するほどの魔力が覚醒してしまう。
今さらみんなから認められたいと思わないバーベナは、自由な外国暮らしを夢見て能力を隠すことを決意する。
ところが、ひょんなことから立太子を間近に控えたディアルムド王子にその力がバレて――
「手短に言いましょう。俺の妃になってください」
なんと求婚される事態に発展!! 断っても断ってもディアルムドのアタックは止まらない。
おまけに偉そうな王子様の、なぜか女子力高めなアプローチにバーベナのドキドキも止まらない!?
やむにやまれぬ事情から条件つきで求婚を受け入れるバーベナだが、結婚は形だけにとどまらず――!?
ただの契約妃のつもりでいた、自分に自信のないチートな女の子 × ハナから別れるつもりなんてない、女子力高めな俺様王子
────────────────────
○Rシーンには※マークあり
○他サイトでも公開中
────────────────────
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる