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第二部

5.知らない誰か

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 青い石を握って眠ると、同じ人の夢を見る。
 男の人の夢、だと思う。けれど、誰の夢を見ているのか分からない。
 わたしに話しかけるその声も、その顔も、名前も、霞の向こうの出来事のように、思い出せない。

 ただ、青い瞳がわたしを見ている。その瞳があまりにも美しくて、目を逸らせない。
 深い海の底のような青だと思った。

 その時々で、夢の内容は違う。
 ただ、夢の最後ではわたしはいつも泣いていて、彼の大きな手が頬を拭ってくれる。その手がとてもあたたかい。

「……っ」
 いつもここで目が覚める。
 目覚めると、その手はない。涙は枕に吸い込まれていって、冷たくなっていた。

 窓の外には、ぽかりと半分の、上弦の月が浮かんでいる。

 わたしは覚えていないのに、体は覚えていた。
 どんな風にその手が触れたか、撫でたか、弄ったか。
 変だ。こんなの絶対おかしい。こんなことをしてはいけない。
 今まで触ったこともないはずの場所が熱い。ひくひくと、何かを求めて蠢いている。

「……ん…はぁ……あっ」

 恐る恐る触れてみたら、ぬるりと指が滑った。溝を縦になぞると、腰が跳ねる。けれど、何かが違う。
 ああ、こんな手じゃなかった。もっと大きくて、長い指で。もっと上手く、導いてくれた。
 水底に炎が燃えるような青い目。囁かれた、少し掠れた声。
 なんて言っていただろう。思い出せない。ただ、その声に跳ねたことを心臓は覚えている。

 何も得られないと分かっているのに、指を動かすのを止められない。
「あっ……ああぁ……」
 水音がどんどん大きくなる。ぬちゃりぬちゃりと指を動かす度に響く。
 つぷり、と中指を挿れてみる。ざらつくところを擦り上げると、自分のだとは信じたくないような高い声が漏れた。

「ゃ…ああっ……ん……っ」
 駆け上がっていくような感覚を逃そうとしても、足に力が入っていく。
 反対の手を、胸元に伸ばした。そこはもう、待ちわびていたかのように硬くしこっていて、触れたら不思議とお腹がきゅっとなった。

 熱い舌が、この胸を這っていったことを思い出す。もっと強く吸ってほしい。
 大して育っていない胸を、捏ねるように揉む。立ち上がった頂きを、ぎゅっと摘まむ。痛みよりも、快感が勝った。触っているのは胸なのに、腹の奥が燻っていく。もっと決定的な何かがほしい。

 届かない。わたしの指じゃ、届かない。

 もっと、奥の奥。そこが求めているのに。
 敏感な尖りは親指で押すようにして、中指を抜き差しする。じゅぷじゅぶとした音で、溢れ出した蜜が吐き出されていく。

「んぁ……ン……っあ……あああああっ」
 呼吸が速くなる。背中が弓なりに反っていって、爪先が空を蹴った。
 わたしは知らない誰かの指と舌と声の中で、一人果てた。

 夢で彼が言っていた通りだ。
 本物が傍にいてくれるのなら、夢で逢う必要なんてない。

「はぁ……はぁ…」
 自分のものが浸みて冷たくなったシーツに体が沈んでいく。
 月の光に照らされたわたしの指は、てらてらと濡れていて糸を引いた。吐き気がしそうなほどの罪悪感だった。
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