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第一部

12.水底の炎

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 もはや意味を成していない下穿きを取り去って、指が秘裂をなぞる。響き始めた水音が、滑るその指が、わたしが濡れていると教えてくれる。溢れ出る蜜を掬っては擦り付けるように指が動いて、時折、敏感な尖りを掠める。

 その度に、電流が走るほどの刺激がくる。わたしの意思と関係なく体がびくびくと震え始めた。
「ああっ……はーでぃ……だめ……」
「ここは、一番感じるところだから」
 上げる声はもう言葉にならなくて、わたしはただもうされるがまま、喘いでいるだけだった。

「だめなことなんかなにもないさ」
 ちゅっと音を立てて、ハーディが強く胸を吸った。胸からきたはずの刺激が、ずんと腹の奥に溜まる。同時に、ハーディは強く狙いすましたかのように、的確にその場所を――わたしが最も喘いでしまう場所を弾いた。

「ああああ、あああああっ」

 目の前が真っ白になり、光がちかちかとした。腰が抜けてしまいそうな浮遊感がまた襲ってきて、ハーディの首に縋りつくことしかできない。

「ほら、ちゃんとできた」
 次第に青い光が収束して、これで終わりとばかりに、ハーディがぽんぽんと頭を叩く。

「これ、なに……」
 呪いが解ける時だけこうなるのだろうかと思ったけれど、二つ目の呪いは下腹部にまだあった。

「ああ、これは『達する』っていって、まあ色んな言い方があるんだけど。身体が快感を拾えてるってこと。君の場合は、一つ目の呪いがちゃんと解けてるって証拠でもあるね」

 見たことなかったの、とハーディは尋ねる。確かに、こんな風になっている人を淫夢で見たことがあった気がする。そういう風に言うとは、知らなかったし、自分の身に起きることも考えたことがなかったけれど。

 みんなこんな刺激を味わっているものなのかしら。
 衣擦れの音がして、ハーディが離れていくんだと思った。

「……ぃ…ゃ…」
 咄嗟に、わたしは長いローブを掴んでいた。
 乱れた息のまま、ハーディを見上げる。

 すると、整いきったハーディの顔が歪んで、青い目がわたしの見たことのない色を見せた。水底に炎を宿したような、昏い色に揺れている。

「……っ」
 ちりっ、と焼けるような痛みが一瞬走る。
 首筋の薄い皮膚にキスされたと気づくまで、少しかかった。噛みつくようなキス。今までハーディにこんなことをされたことはなかった。

「ごめん。治癒すから」
「いい。治さなくて、いい」
 ハーディから痕を隠すように、手で押さえてわたしは言った。消えてほしくなかったから。

 するとハーディが前髪をかき上げて天を仰いだ。
「おれももういい歳なんだけどなあ」
「ハーディっていくつなの?」
 噂だと五百歳を超えたとか。とてもそんな風には見えないのだけど。
「……三百を超えたあたりから数えるのをやめたな」
「嘘言わないで」
「おれは嘘は吐かないよ」

 一度肩を落として溜息をついて、わたしを見遣る。その時にはもう、いつものハーディだった。

「呪いより君のほうがよっぽど厄介だよ」

 澄んだ湖面のように、静かな瞳で。
 あの目がもう一度見たい。そう思った。
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