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36.役に立ちたい
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本当に何もさせてもらえなかった。
熱が下がってからは自分の部屋に戻ることを許されたが、結局一週間も寝台の上でごろごろと寝転ぶばかりで過ごした。
そろそろ皿の一つでも洗いに行こうかと思うと、
「お嬢様、まだ旦那様のお許しは出ておりません」
悪魔の使いたるロイクに止められる。この人は本当に穏やかな執事なのだが、どうしてだがこう、有無を言わせない強さがある。微笑みながら寝台の上に戻されるのである。
シャルル本人は、朝と夜にアネットの様子を見にやってくる。かといって、大した会話をするわけでもない。「具合は」とか「食事は取ったか」とか短く聞かれる。
あとは、大体カウチに座っているだけだ。そして、しばらくするとロイクが呼びに来て、自室に戻っていく。
「あの」
違和感というほどではない。
「なんだ」
鋭い紫の目が、アネットを見つめる。
今日も彼は眩しいほどに輝いているし、立ち振る舞いに一分の隙もない。どこからどう見ても完璧なお貴族様である。
けれど、どうしてだろう。なんだか少し、
「お疲れ、ですか?」
訊ねれば、不愉快極まりないというようにぐっと眉間に皺が寄った。
「……お前が考えるようなことじゃない」
シャルルの返事は素っ気ない。すっくと立ちあがった彼はそのまま、アネットの部屋を出て行こうとする。
よくない。全然よくない。何より、これでは何の回答にもなっていないではないか。
「どうして、ですか?」
その手を掴もうとして、触れられるのが嫌だと聞いたことを思い出す。躊躇った手は結局そのシャツを引っ張るような形になる。
「他にもっと考えることがあるだろう。その頭の中には藁でも詰まっているのか」
「散々人にゆっくりしろとか、自分のことを考えろとか言ったくせに!」
「お前のような間抜けとは違って、私は自己管理ができているからな。何の問題もない」
それは、確かにそうなのだろう。返す言葉を失って、恨みがましく金色の頭を見上げることしかできなくなる。
「何か、わたしにできることはありますか」
ぎゅっとそのシャツを握り締める。誰かが丁寧にアイロンをかけたそれに皺が寄って、影が落ちる。
働きもせず、授業も受けず。いつか売り飛ばされる予定だとはいえ、今の自分は奴隷として何の役目も果たせていない。それでもこの屋敷にのうのうと居ていいのか、アネットには分からなった。
「旦那様のお役に、立ちたいです」
そう言うと、シャルルの顔がますます険しくなった。
「お前は、言葉の意味を分かって言っているのか」
「えっ」
当然、その通りの意味だけれど。
熱が下がってからは自分の部屋に戻ることを許されたが、結局一週間も寝台の上でごろごろと寝転ぶばかりで過ごした。
そろそろ皿の一つでも洗いに行こうかと思うと、
「お嬢様、まだ旦那様のお許しは出ておりません」
悪魔の使いたるロイクに止められる。この人は本当に穏やかな執事なのだが、どうしてだがこう、有無を言わせない強さがある。微笑みながら寝台の上に戻されるのである。
シャルル本人は、朝と夜にアネットの様子を見にやってくる。かといって、大した会話をするわけでもない。「具合は」とか「食事は取ったか」とか短く聞かれる。
あとは、大体カウチに座っているだけだ。そして、しばらくするとロイクが呼びに来て、自室に戻っていく。
「あの」
違和感というほどではない。
「なんだ」
鋭い紫の目が、アネットを見つめる。
今日も彼は眩しいほどに輝いているし、立ち振る舞いに一分の隙もない。どこからどう見ても完璧なお貴族様である。
けれど、どうしてだろう。なんだか少し、
「お疲れ、ですか?」
訊ねれば、不愉快極まりないというようにぐっと眉間に皺が寄った。
「……お前が考えるようなことじゃない」
シャルルの返事は素っ気ない。すっくと立ちあがった彼はそのまま、アネットの部屋を出て行こうとする。
よくない。全然よくない。何より、これでは何の回答にもなっていないではないか。
「どうして、ですか?」
その手を掴もうとして、触れられるのが嫌だと聞いたことを思い出す。躊躇った手は結局そのシャツを引っ張るような形になる。
「他にもっと考えることがあるだろう。その頭の中には藁でも詰まっているのか」
「散々人にゆっくりしろとか、自分のことを考えろとか言ったくせに!」
「お前のような間抜けとは違って、私は自己管理ができているからな。何の問題もない」
それは、確かにそうなのだろう。返す言葉を失って、恨みがましく金色の頭を見上げることしかできなくなる。
「何か、わたしにできることはありますか」
ぎゅっとそのシャツを握り締める。誰かが丁寧にアイロンをかけたそれに皺が寄って、影が落ちる。
働きもせず、授業も受けず。いつか売り飛ばされる予定だとはいえ、今の自分は奴隷として何の役目も果たせていない。それでもこの屋敷にのうのうと居ていいのか、アネットには分からなった。
「旦那様のお役に、立ちたいです」
そう言うと、シャルルの顔がますます険しくなった。
「お前は、言葉の意味を分かって言っているのか」
「えっ」
当然、その通りの意味だけれど。
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