上 下
16 / 30

第十六話

しおりを挟む
 邪魔をしないよう、ミナミの腕は両手首それぞれに布が巻かれ、ベッドの策に縛り付けられている。
 手首だけだったのが、先ほど足を閉じようとしたことによって足首まで固定された。
 男が本気で結んだそれは、結構固くてずり落ちない。
 
  文字通り「先っぽだけ」挿れたあと、一気に奥まで突き刺す。
 
「ーーーっ!!」
 
「B地点到達、子宮口確認、排出道温度正常、内部凹凸波状、10、長さ15.7○、入り口4」
 
「はい」
 
「ただいまより抽送を開始する」
 
 フェリックスの合図と共に、奥まで埋められた彼のモノが、テンポよく動き出す。
 久しぶりの内側への刺激に、ミナミの身体は強く反応してしまう。
 
「うっ……、あ、あぁ……っ!」
 
「痛みは?」
 
「な……ない……っ、です……!」
 
 最初のときから無かったのだが、実際ある人の方が多いのだろう。
 こんな質問をしてくるくらいだから、どこの世界も初めてのセックスは痛いらしい。
 "性行為のときの痛みを取り除く"が自分に与えられたチートスキルだったとしたら残念過ぎる。
 できれば他のにしてほしいところだ。
 ミナミは下腹部に伝わる衝撃に声を漏らしながら、震動の合間合間にそんなことを思い浮かべた。
 
 抜き差しを続けていくと、結合部分で響く音が変化してくる。
 蛇口から垂れる水滴くらいだった水分量が、水たまりになって、お風呂に浸かっているようになる。
 それをオノマトペで時間経過と男側の進行度、女側の感度と合わせて記入していく。
 
「……そろそろ出す、用意」
 
「はい」
 
 計測係の男は、壁のフックにかけてある機械式のアナログなストップウォッチを手に、一層真剣に二人を見つめる。
 書記の男も一時的にこちらのサポートに周り、彼は少し離れた位置から様子を伺う。
 
「オレは女をみる。そっちはフェリックスな」
 
「了解」
 
 何が嬉しくて自分が気持ちよくさせられてる様を多くの人に見られなきゃいけないんだ。
 しかも何度も何度も。
 ミナミは恥ずかしさからフェリックスに涙目で訴える。
 多少慣れたとはいえ、嫌なものはやっぱり嫌だ。
 ミナミの世界なら普通は、誰にも見せず二人だけの世界で抱き合うものなのだ。
 
「フェリックスさん……」
 
「なんだ……?」
 
「……ミナミのこと独り占めしたい、って思ったりしますか?」
 
「独り占め……?」
 
 この国は基本的には平和だ。
 繁殖主義の副産物とも言えると思うが、浮気という概念がない。
 結婚に替わるような、異性や同性が二人きりで住んだりすることはあるらしいが、他の人とセックスすることも基本的にはOKだ。
 というか、それが当然として育ってきたから、若い子には「俺の女に手を出すな」とか独占欲のようなものを感じることはないと、以前看守のおじさんが言っていた。
 誰とでもヤれるから、恋愛では仲間内で揉めることもないし、ケンカして別れて居づらくなることもない。
 
 でもそれが、ミナミにはちょっと寂しくもある。
 好きな人が愛しそうに笑いかけてくれるのは、自分だけであって欲しい。
 ミナミはルームメイトや補講の女の子たちの抱かれた回数には全く足元にも及ばないのだ。
 
 (あの子たちはもっと色んな彼を知っている。
 抱き方の癖だったり、好きな体位だったり、フェチなパーツだったり、ミナミより何倍も詳しい。
 彼のこと一番知りたいって思ってるのはミナミなのに、なんで好きでも何でもないあの子たちが知ってるんだろう。
 やだよ、そんなの。
  フェリックスさんのこと、一番好きなのはミナミなのに……)
 
 
 ふと、ミナミは目を見張った。
 
「……そっか、ミナミはフェリックスさんのこと……」
 
「どうした?」
 
「いいえ」
 
 ミナミはクスッと笑った。
 あまりに単純で、チョロい自分に。
 一番近くにいて、優しくしてもらったから簡単に恋に落ちるなんて、恋愛初心者あるある過ぎる。
 
 でもこれが別の人だったらそう思えるかと言ったらたぶん違うのだ。
 
 
 
 ミナミは前世「一匹狼」だった。
 自分のことを「ミナミ」と名前で呼ぶ癖が、どうしても抜けなかったのだ。
 小学校は良かったが、だんだんと皆、名前呼びは卒業していき、気付けば圧倒的少数派となった。
 可愛らしい女の子はそれでも似合っていた。
 ぶりっ子だったけど、ぶりっ子と呼ばれてもものともせず、ずっとそのキャラを貫き通していた。
 しかしミナミは違う。
 そんな風に強くなれなかった。
 勉強も外見も、特出した何かがあるわけでもなかったミナミは、酷いイジメとは言えないが、でも確実に対象者の心を痛める、「ひそひそ話」の格好の餌食となった。
 
 
 もしもこの一連の関わりが、以前のクラスメイトのような、人のことをすぐ馬鹿にするような男の人だったら心を許したりしないだろう。
 この国は"みんなと同じ"や"マナー"を過度に求めないから、その点に関してはミナミも自由に発することができている。
 だけど、他の点……例えばこの国基準だと"剥けてない"とか、そういうのを嘲笑うような人であったなら、きっとミナミは好きになってはいない。
 優しいフェリックスだから、好きになったのだ。
 
「それでさっきの続きだが……そういうこともあるかもな。知らないが」
 
「知らないって、なんでですか」
 
 ミナミの問いに、フェリックスは腰の動きを止めた。
 
「おい、勝手に造精やめるな」
 
「あぁ、悪い、だってそうだろう? ミナミ」
 
 再び動き出したときには、腰を打ち付ける速さが増していた。
 肌が重なる乾いた音と、性器同士が絡み合うちゃぷちゃぷした音が、競い合うように部屋に響き渡る。
 
「独り占めしたい、じゃなくて俺が現状独り占めしてるじゃないか」
 
「えっ……」
 
 ミナミは顔が真っ赤に染まる。
 思い返せば、確かにそうだ。
 オーラルセックスも多々あるこの国で、挿入の面では意識したことがなかった。 
 
「他の男とヤったところを見たことがないから、見たことがないものを想像しろと言われても……うーん……想像したくないというか……」
 
「……!」
 
 想像したくない、その言葉だけで十分だった。
 
「あぁでも、後々近いうちそういうことにはなるんだよな。んー……嫌かも知れないけど、そういうものだと割り切ってるし……って、ミナミ!? ミナミ何泣いてるんだ!? 」
 
 好きな人に必要としてもえたことは初めてだった。
 こんなに、こんなに嬉しいなんて。
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希
恋愛
※加筆修正しました (2024.6.18) 『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。  三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。  雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。  今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?  ◇◇◆◇◇ イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。 タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新) ※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。 それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。 ※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【R18】異世界で公爵家の教育係となりました〜え?教育って性教育の方ですか?〜

星型のスイカ
恋愛
特に人に誇れる才能もないけど、道を踏み外した経験もない。 平凡が一番よねって思って生きてきた、冬馬ゆき、二十二歳。 会社帰りに突然異世界転移してしまい、しかもそこは平民が性に奔放すぎるとんでも異世界だった。 助けてもらった老紳士の紹介で逃げるように公爵家の教育係の面接に向かうと、そこにはとんでもない美形兄弟がいた。 私って運が良いなぁなんて喜んでいたら、え?教育係といっても、そっちの教育ですか? 思ってた仕事じゃなかった! 絶対に無理です、だって私……処女なのに! 問題児とされる公爵家の兄弟四人に、あれよあれよと性教育をすること(されること)になるお話です。 ※魔法のあるふんわり異世界です。 ※性癖色々です。細かいことは気にしない、何でもアリな人向けです。 ※男性キャラの主人公以外との性行為描写があります。 ※主人公だいぶ天然な子です。 ※更新不定期です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...