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第十三話

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 フェリックスは目を見開いた。
 
「何を言ってるんですか!」
 
 男は淡々と話続ける。
 
「ノルダール君は気にならないか? この不思議な髪色を持つ女がどんな子を排出するのか。私は過去何人も産ませたけど、皆似たような青や赤、たまに紫が混ざるくらいで、さほど代わり映えしなかった。排出で排出口から青い髪の毛が見えたとき、またかという気分だったのだよ」
 
 フェリックスは困惑したような顔で聞いていた。
 もっともだろう、彼には子を宿し、出産に関わった経験がないのだから。
 ミナミは彼を不安げに見つめてフェリックスのロングスカートの裾を握りしめた。
 
「次は何らかの個性を持った子孫がいいとずっと思ってたんだ。いやぁ、嬉しいよ。こんなに綺麗で、さらに胸も大きい女なんてね」
 
 ミナミは男と目が合った。
 日焼けした肌にゴージャスな貴金属を身につけた男は、まさに資産家という装いだ。
 ギラギラした眼差しは獲物を狙う鷹のようで、フェリックスのそれとは全く違う。
 ミナミは身の危険を感じて、裾を握る手に力が増す。
 
「……ですから、学生は外部との繁殖は禁止されています。同年代と番になる方がより優れた子孫を残せると、これは国の決定事項です」
 
 フェリックスが間を遮って止めに入る。
 男は動揺する様子もなく、フェリックスに余裕たっぷりの顔で向き直す。
 
「君次第なんだよ、ノルダール君」
 
「……どういうことです?」
 
 フェリックスが聞き返すと、待ってましたとばかりにほくそ笑んだ。
 
「だからね、今ここで交尾するんだよ。普段から牢に出入りしているノルダール君は、おそらく暗黙の了解で牢の女を孕ますのを許されていると思うんだよね。君がそうしないだけで。
 だから、ノルダール君が孕ませたってことにすればWin-Winじゃないか? ーーまぁおおよそ、女が口を滑らせて種は君じゃないってことを暴露しちゃうと思うけど。でも相手が誰かなんて知りようがないし。私は太客だ。私の名前を出したところで、捕まえられたりすることはないのだよ」
 
 男は意気揚々と語り、「あっ」と思いついたように付け加えた。
 
「そうだ、させてくれたら、君を性奴隷ではなく執事として雇うことを約束しよう。どうだ? これは種無しの君にとってこれ以上ない厚待遇じゃないか?」
 
「それはっ……」
 
 フェリックスの男を咎める手が緩んだ。
 フェリックスは入牢の許可はあるが、件の事件以降管理が厳しくなり鍵を開けて中に入ることはできなくなった。
 
「ここで、貴方とミナミが柵越しに交尾するのを、俺が見張ってろってことですか……?」
 
「話が早くて助かるな! そうだ。だから早くそこをどけノルダール君」
 
 フェリックスは言われた通りに道を開けた。
 フェリックスが素直に従うと思っていなかったミナミは息を飲んだ。
 
「フェリックスさん……?」
 
「……ミナミにとってもその方がいいかも知れないよ。ミナミの国では親が子を育てるんだろう? 多くの人が排出した子に興味がない中、この人はあるんだ。いずれ国に引き渡す命でも、この人はずっと覚えていてくれる。それって有り難いことじゃないか……?」
 
 男はミナミの手を掴んで側に寄せ、ワンピースをたくし上げ履いているショーツの紐を解いた。
 薄い布はヒラリと簡単に床に落ちた。
 
「きゃあっ!」
 
 ミナミは隠す物がなくなった秘所を慌てて手で覆う。
 その反応に、男は興奮して声を荒げた。
 
「これだよこれ! 繁殖主義になってからめっきり見られなくなっちまった。女はこれじゃないとなぁ! 勃つモンも勃たなくなるっつう話だわ」
 
 舌なめずりして、男はミナミの手をどかす。
 大きく開かされた両脚の間には、熟れて真っ赤な小さい花びらが実っていた。
 
「「うまそう……」」
 
 真っ白でなめらかな肢体を彩る鮮やかな花弁に、高揚したのは男だけではなかった。
 見れば、フェリックスの股間もいつのまにか昂っていた。
 綺麗に折り目がついたスカートのプリーツが一部だけ盛り上がり、交尾を今かと待っている。 
 フェリックスの脳内にミナミと性行為したときの記憶が、次々と呼び戻されてしまった。
 
「そうだろう? やはり美味しそうだろうノルダール君。だが私のだ。君はだまって見ておれ」
 
「う……っ」
 
 フェリックスはたじろいたが、ミナミから目を離すことはできなかった。
 およそ三十分前に補講と称する性行為を行ってきたというのに、股間に熱が集まる。
 フェリックスは絶倫とは呼ばれたことはない。
 いつもはもっと間を空けないと勃起できないのに、ミナミの裸を目にしたとき、ムクムクと欲望が沸き上がって中に挿れたくて堪らなくなった。
 こんなことは初めてだった。
 
「クソッ……、落ち着け股間……」
 
 それをミナミに見られたのが恥ずかしくて必死に他のことを想像したが、太くなった陰茎は鎮まってはくれなかった。
 興奮するよう強制された訳じゃないのに興奮してしまった自分が、子種は無いのに必死に子を欲しがって燃えているように思えて、みっともなくて顔を赤くした。
 
「フェリックスさん……! 嫌だ、ミナミはフェリックスさんの方がいいです……っ!」
 
 男は遠慮なく秘部に指を入れ、受け入れる準備をさせる。
 クチュクチュ湧いてくる水音が、石造りの牢の中で響き渡る。
 
「ミナミ……。ごめん、だが俺は……」
 
 フェリックスはミナミと彼女を弄ぶ男を前に、どうすることもできずに開襟シャツの胸元をただグッと握りしめた。
 
「……奴隷になるのが、怖い……」
 
 ほんの少しでも避けられる可能性があるなら、そこに賭けたい彼の気持ちは分からないでもない。
 
 でもミナミだって言い分がある。
 この際、この学園の誰とヤッたって不思議じゃないし、スカトロとか変なの要求されなければ誰だっていい。
 妊娠するのは別として。
 ただ、ただ……だ。
 十八歳のミナミとしては、これ・・だけは許されない地雷である。
 
 煮え切らないフェリックスに、ミナミは鉄柵をドンッと蹴って揺さぶった。
 
「フェリックスさん! 助けてってば!! 聞いてんですか!? 異世界から来たか弱い女の子をほっといていいんですか!? おじさんは嫌です…おじさんは嫌なんです!!若い人がいいですー!!」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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