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本編
付き合い始めた私達
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私には付き合ってる彼がいる。
彼の名前はスコット。私の名前はサラ。
二人とも名字のない平民だ。
スコットとは同じ孤児院で育った。孤児院の院長が親代わりに私達を育ててくれて、孤児院の子供たちが兄弟姉妹のような、そんな大きな家庭で育った。
泣き虫だったスコットと、負けん気の強い私はよく一緒にいた。歳が同じだったこともあるけど、泣きながら私の後をついてくる彼を放っておけなかったんだ。
小さい頃はスコットは私よりも背が低かった。なのに、どんどんと大きくなっていって、私の背を一気に越していった。
気が付けば私の後ろではなくて、横を歩くようになっていた。
体を鍛え始めて、横にも縦にも大きくなっていったスコットの鍛えられた体には、思わず見惚れてしまうほどだった。
いつしかスコットは私の前を歩くようになっていった。前はオドオドしていて耳を澄まさないと声も聞こえなかったのに、今ではハキハキと大きな声で喋る。
私たちの孤児院は16歳になったら出て行かなければいけない。
私は手伝いをしている食堂の給仕にそのままなる予定だ。お店の女将さんも住み込みで働かせてくれると言ってくれたし、常連さんとも仲良くなっていたので、お言葉に甘えさせて貰うことにした。
スコットはどうするんだろう?
給仕の手伝いが終わって孤児院に戻ると、スコットが大きな木剣を振り回していた。
私に気付いてスコットは手を止めた。
「おかえり、仕事お疲れ様」
「ただいま。木剣なんて振り回して、何やってるの?」
「特訓だよ。鍛えてるんだ。俺、ここを出たら騎士になりたいんだ」
そう言ってスコットは特訓を再開した。
額に汗を流し、只管に剣を振る姿は男の人なのにとても綺麗で、凄く格好良かった。
(スコットなんかに何ドキドキしてるんだろう?泣き虫スコットなんかに…)
私はドキドキと高鳴る鼓動に気付かない振りをした。
(あと一年で孤児院を出なくちゃいけない。そうしたら、院長とも、みんなとも、スコットともお別れなんだ。院長とみんなにはいつでも会えるけど…でも、スコットが騎士になるなら王都に行ったりして、遠くに行っちゃうんだよね…)
私達の住む村は王都から馬車で一ヶ月もかかる辺境にあって、駐在の騎士達はいるけど騎士団はない。騎士になるためには王都に行かなければいけないから、スコットはこの村から出ていくんだろう。
私はスコットとの別れを考えないようにしながら過ごしていた。
あっという間に一年が経って、孤児院を出る日になってしまった。
「院長にみんな、今までありがとう。私は変わらず食堂で働くから、偶に会いに来るね。みんなも食べに来てね」
私はみんなに最後ではないけど、孤児院を出ていく挨拶をした。
「院長にみんな、今までありがとう。俺は王都に行って騎士になってくる。暫くは会えないと思うけど、また顔見せに来るから。みんなも頑張って」
スコットはそう言って素っ気なく孤児院を出ていった。
(あ…私に何も言わないで行っちゃった…)
私はもう一度みんなに挨拶をしてから慌ててスコットを追いかけた。
暫く歩くとスコットが木に寄りかかって、私を待っていたみたいだった。
「サラ、お前に話があるんだ」
いつになく真剣な顔をしてスコットが言った。
「な、なに…?急にどうしたの?」
私はスコットが少し怖く感じた。
「俺、サラのこと好きだ。王都に行って絶対に騎士になって帰ってくる。だから、俺のこと待ってて欲しい」
縋るような顔で見てくるスコット。泣きそうな顔が、幼い頃の泣き顔に見えた。
私は彼の気持ちが嬉しくて、
「仕方ないなぁ。泣き虫スコットには私がついてないとね。待ってるよ。だから、頑張って騎士になって帰って来て?」
そう言った私をスコットは優しく抱きしめて、初めてのキスをした。
「手紙書くから」
そう言って彼は王都へ旅立って行った。
彼の名前はスコット。私の名前はサラ。
二人とも名字のない平民だ。
スコットとは同じ孤児院で育った。孤児院の院長が親代わりに私達を育ててくれて、孤児院の子供たちが兄弟姉妹のような、そんな大きな家庭で育った。
泣き虫だったスコットと、負けん気の強い私はよく一緒にいた。歳が同じだったこともあるけど、泣きながら私の後をついてくる彼を放っておけなかったんだ。
小さい頃はスコットは私よりも背が低かった。なのに、どんどんと大きくなっていって、私の背を一気に越していった。
気が付けば私の後ろではなくて、横を歩くようになっていた。
体を鍛え始めて、横にも縦にも大きくなっていったスコットの鍛えられた体には、思わず見惚れてしまうほどだった。
いつしかスコットは私の前を歩くようになっていった。前はオドオドしていて耳を澄まさないと声も聞こえなかったのに、今ではハキハキと大きな声で喋る。
私たちの孤児院は16歳になったら出て行かなければいけない。
私は手伝いをしている食堂の給仕にそのままなる予定だ。お店の女将さんも住み込みで働かせてくれると言ってくれたし、常連さんとも仲良くなっていたので、お言葉に甘えさせて貰うことにした。
スコットはどうするんだろう?
給仕の手伝いが終わって孤児院に戻ると、スコットが大きな木剣を振り回していた。
私に気付いてスコットは手を止めた。
「おかえり、仕事お疲れ様」
「ただいま。木剣なんて振り回して、何やってるの?」
「特訓だよ。鍛えてるんだ。俺、ここを出たら騎士になりたいんだ」
そう言ってスコットは特訓を再開した。
額に汗を流し、只管に剣を振る姿は男の人なのにとても綺麗で、凄く格好良かった。
(スコットなんかに何ドキドキしてるんだろう?泣き虫スコットなんかに…)
私はドキドキと高鳴る鼓動に気付かない振りをした。
(あと一年で孤児院を出なくちゃいけない。そうしたら、院長とも、みんなとも、スコットともお別れなんだ。院長とみんなにはいつでも会えるけど…でも、スコットが騎士になるなら王都に行ったりして、遠くに行っちゃうんだよね…)
私達の住む村は王都から馬車で一ヶ月もかかる辺境にあって、駐在の騎士達はいるけど騎士団はない。騎士になるためには王都に行かなければいけないから、スコットはこの村から出ていくんだろう。
私はスコットとの別れを考えないようにしながら過ごしていた。
あっという間に一年が経って、孤児院を出る日になってしまった。
「院長にみんな、今までありがとう。私は変わらず食堂で働くから、偶に会いに来るね。みんなも食べに来てね」
私はみんなに最後ではないけど、孤児院を出ていく挨拶をした。
「院長にみんな、今までありがとう。俺は王都に行って騎士になってくる。暫くは会えないと思うけど、また顔見せに来るから。みんなも頑張って」
スコットはそう言って素っ気なく孤児院を出ていった。
(あ…私に何も言わないで行っちゃった…)
私はもう一度みんなに挨拶をしてから慌ててスコットを追いかけた。
暫く歩くとスコットが木に寄りかかって、私を待っていたみたいだった。
「サラ、お前に話があるんだ」
いつになく真剣な顔をしてスコットが言った。
「な、なに…?急にどうしたの?」
私はスコットが少し怖く感じた。
「俺、サラのこと好きだ。王都に行って絶対に騎士になって帰ってくる。だから、俺のこと待ってて欲しい」
縋るような顔で見てくるスコット。泣きそうな顔が、幼い頃の泣き顔に見えた。
私は彼の気持ちが嬉しくて、
「仕方ないなぁ。泣き虫スコットには私がついてないとね。待ってるよ。だから、頑張って騎士になって帰って来て?」
そう言った私をスコットは優しく抱きしめて、初めてのキスをした。
「手紙書くから」
そう言って彼は王都へ旅立って行った。
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