上 下
2 / 10
本編

優しいお姉さんとの出会い

しおりを挟む
「ちょっとあんた!早く退きなさい!みんなを待たせて迷惑なのよ!」

気が付いた時に、またお母さんの怒鳴り声がした。私の腕を無理矢理引っ張って立たせた。

(なんで…?もう嫌だよ!)

私はお母さんの手を振り払って、会場を出た。走れる所まで走った。


気付いたら近所の商店街にいた。

(私に何回も辛い思いをさせるおばあちゃんなんて嫌い!)

そう思って、お葬式会場にも家にも戻りたくなくて、私は一人で商店街を歩いていた。

その時にふと店に貼ってあるポスターが目に入った。

― 明日はきっと、今日より可愛い -

(そんなこと言ったって、可愛い子がお化粧するから可愛いだけじゃん。ブスはブスのままだよ…)

私はそのまま歩こうとしたけど、もう一回ポスターを見てしまった。

(私も…頑張れば可愛くなれるのかな…?)


思い立った私は、家に帰って勉強机からお菓子の空き缶を取り出した。中にはおばあちゃんから貰ったお小遣いが入っている。

『これで欲しい物を買いなさい』そう言っておばあちゃんはいつもお金をくれたけど、一回も使わないで大事にとっていたもの。

(おばあちゃん、使わせて貰うね)

私はお金を手にとって、商店街に戻った。


ポスターの貼ってあるお店に入って、化粧品コーナーまで行ったけど、たくさんあり過ぎて、どれを買えばいいのかわからなくなってしまった。

ジロジロと遠くからみんなが私を観察していた。私は恥ずかしくなって、店を出ようとした。その時、店員のお姉さんが私に話し掛けてくれたんだ。

「お化粧に興味があるの?」

私は黙って頷いた。

「そうなんだね。でも、お化粧はちょっと早いかもね。これを使ってみたらどうかな?」

お姉さんは私に子供でも使える化粧水を差し出してくれた。

「先ずはお肌を綺麗に整えてあげようね」

お姉さんはそう言って、私に化粧水の使い方を優しく教えてくれた。私は言われるがままに、それを買って家に帰った。

その日の夜、私は買った化粧水を顔に付けた。ニキビだらけの顔に少し滲みたけど、なんだか嬉しい痛みだった。


私は毎日走り続けて、毎晩化粧水を使った。どんどん肌のブツブツが無くなっていって、すごく嬉しかった。

化粧水が無くなって、私はまたお店に買いに行った。お姉さんが私に気が付いて、手招きして私を呼んだ。

「これ、来たときに渡そうと思っていたの。古い雑誌なんだけど、お化粧のことも載ってるから参考になるかなって思って」

そう言ってお姉さんは一冊の雑誌を私にくれた。

「高校生になったら、アイメイクくらいだったらしてもいいかなって思うよ。家に帰ったら読んでみてね」

「あの…ありがとうございます」

私は雑誌を抱き締めて帰った。


家に帰ってお姉さんから貰った雑誌を読んだ。どれも可愛くて、キラキラして見えた。

(私もこんな風にお化粧してみたいな)

次に化粧水を買いに行った時に、私は勇気を振り絞ってお姉さんに聞いてみることにした。

「あ、あの!雑誌ありがとうございました。この写真みたいにお化粧してみたいんですけど、どれを使えば良いんですか?」

「あぁ、この色可愛いよね。ちょっと待っててね」

お姉さんはそう言って何処かに行って、すぐにまた戻って来た。

「これがお勧めだよ。アイメイク用のリムーバーもちゃんと使ってね」

私はお姉さんのお勧めするアイシャドウとリムーバーを買って帰った。家に帰って付けて見ても、写真みたいにならなかった。


何回も練習をして、なんとか上手くできるようになったから、化粧水を買う時にお姉さんに見てもらおうと思って、アイシャドウを付けてからお店に向かった。

「あ、こんにちは。今日も化粧水を買いに来ました」

「あれ?アイメイクしたの?可愛いね。よく似合ってるよ」

お姉さんは私のアイメイクにも気が付いてくれて、褒めてくれた。


三回目の入学式…

私は高校の新しい制服を着て、練習したアイメイクもして部屋を出た。お母さんは何も言ってくれなかった。

(お母さん、私痩せたんだよ。肌も綺麗になったの。優しいお姉さんにも会えたんだよ)

お母さんは私を見ることもなく、私は一人で高校に行った。


「よろしくお願いします」

前回みたいに心無い中傷の言葉は聞こえなかった。

(『チビでブス』から抜け出せたんだ!)

私は安堵した。

(おばあちゃん、私は変われたんだよ!)

嬉しくなった私は、勇気を出してクラスメイトに話し掛けてみた。


「あ、あの!よろしくね!」

私は女の子達に声を掛けた。前回の時にいつも話を聞いていた二人組、鈴木マミさんと木之下エミさんだった。


それから私達は一緒にお昼ご飯を食べるようになった。初めての友達。初めての友達との教室移動。一人じゃない事が嬉しかった。

「杉下さんって、私達のこと前から知っているみたいだよね」

(本当は前回の時にずっと会話を聞いていたんだけどね…)

そんな事を言えるはずもなかった。


ある日、クラスで席替えがあった。

新しく隣になった山本君はよく忘れ物をする男の子で、私は毎回教科書を見せたり、ノートを見せたりしていた。人に頼られるのが嬉しくて、いつも貸していた。

何日か経った頃、お昼休みになったから二人と一緒にご飯を食べようと思って声をかけた。でも、聞こえてなかったみたいで、二人は教室の外に行ってしまった。


私は慌てて追いかけた。

「ま、待って!一緒にご飯食べよう?」

二人は立ち止まって、私に振り向いた。そして木之下さんが言ったんだ。

「杉下さんさ、マミが山本の事を好きなの知ってるんでしょ?それなのにあんな風にしてさ、マミが可哀想だと思わないの?」

(知らない。鈴木さんが山本君のことが好きだなんて、前回の時には言ってなかった…)

「そ、そうだったんだね。ごめんね、知らなかったの。もう山本君とは話さないよ」

私は慌てて二人に謝った。

「そういう事じゃないんだよね。もうさ、うちら杉下さんと一緒にいるの止めるから。他の人と一緒にいなよ」

鈴木さんはそう言って、二人して歩きだしてしまった。

私は教室に戻って一人でパンを食べた。二人としかいなかったから、他の友達はいなかったんだ。


一人になってしまったからなのか、私は虐めのターゲットにされてしまった。

鈴木さんも木之下さんも、山本くんも、虐められる私を見て笑っていた。仲良くなれたと思っていたのは、私だけだったんだ。


ある日、トイレに入ったら上からバケツの水をかけられた。

(なんで…?こんなに頑張ったのに、友達も出来たと思ったのに…誰も私を助けてくれない…)

私は泣いた。


(おばあちゃん、私頑張ったんだよ。でも、やっぱり無理なんだよ…)

そう思った瞬間、私は再び白い光に包まれた。

(おばあちゃん、もう止めてよ…)

そして、私は意識を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

J1チームを追放されたおっさん監督は、女子マネと一緒に3部リーグで無双することにしました

寝る犬
ライト文芸
 ある地方の解散された企業サッカー部。  その元選手たちと、熱狂的なファンたちが作る「俺達のサッカークラブ」  沢山の人の努力と、絆、そして少しの幸運で紡ぎだされる、夢の様な物語。 (※ベガルタ仙台のクラブの歴史にインスパイアされて書いています)

先生は、かわいくない

市來茉莉(茉莉恵)
ライト文芸
【出会った彼は『人殺し』? 離島に赴任した女医が惹かれた島の青年は…】 突然、離島の診療所に行けと言われ、女医の美湖は指導医だった先輩がいる瀬戸内の島へ。 人は『島流し』と噂する。でも美湖の離島生活は淡々と穏やかに馴染んでいく。 ただ『センセは、かわいくない』とかいう生意気な大家の青年(年下)が来ることを除いては……。 いちいち世話やきに来る年下の大家の男、彼のかわいいお母さん、そして瀬戸内の情景。 都会ではクールに徹していた美湖を包みこんでくれる。 だが彼にも噂があった。『人殺し』という噂が……。 瀬戸内海、忽那諸島。蜜柑の花が咲く島のおはなし。 ★第四回ライト文芸大賞 『奨励賞』をいただきました★ ※他投稿サイトにも掲載ありますが、アルファポリス版はライト文芸大賞用に改稿しています

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】『悪役令嬢の母親もまた、悪行三昧!』と記事に書かれる事になりました。

BBやっこ
恋愛
娘の婚約がなされてからすぐ、新聞は悪役令嬢と言葉を打ってきた。 そんな世俗に塗れた言葉を使って、娘を貶めようというの? 権力や新たな方策に思うところもあるだろう。だけど…。 『悪役令嬢と言われた娘、その母親も悪役令嬢だった!』と書かれた新聞が出て!? そう、民に知らしめる脅された母親の行動。

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

パラレルライン─「後悔」発、「もしも」行き─

石田空
ライト文芸
バイト先のリニューアル工事で、突然収入源を絶たれてしまった苦学生のフク。 困り果てていたところで【パラレルライン売店店員募集】という怪しいチラシが降ってきた。背に腹は変えられないと行きついた先には、後悔を抱えた人しか入ることのできない路線、パラレルラインの駅だった。駅長の晴曰く、この路線は「もしも」の世界へと行くことができるという。 こうしてフクはアルバイトに励みながら、後悔を抱えてもしもの世界に移り住むことを希望する人たちを見送ることとなる。やがてフクや晴にも、後悔と向き合うときが訪れる……。 「もしもあのとき、こうすればよかった」を本当に行えるとしたら、未来は変えられますか? サイトより転載となります。

【消えたい君と】

一ノ瀬 瞬
ライト文芸
【消えたい君と】 死にたいと消えたいは違う そうですね。 君は助けを求めに来たんでしょう? なら少しだけ話してみませんか? 貴方の辛く苦しいその気持ちを

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

処理中です...