4 / 7
本編
私はバネッサ
しおりを挟む
「バネッサ!どういう事…?」
暫く経ったある日、スティーブンが教室までやって来た。
(今日は私のところに来たのね…)
「スティーブン、どうしたの…?」
「家から手紙が届いたんだよ。僕達の婚約が破棄されたって。しかも、僕の不貞が原因だって。勘当するって書いてあったんだ!どういう事か知ってる…?」
聞き耳を立てていたクラスメイトがざわついた。
(こんな人前で言わなくてもいいのに…馬鹿な人…)
「そのままの意味よ?この婚約は、あなたの不貞で、破棄されたの」
「毎日のように一緒にいたじゃないか!みんなだって知ってる!僕に不貞できる時間すらない事を、君自身が知ってるじゃないか!」
スティーブンが大きな声で叫んだ。
「それは本当に私なの…?」
「え…?何を言ってるの?当たり前じゃないか。君以外に誰がいるって言うんだよ…?」
(スティーブン、あなたは知ってるはずだわ。ケリーを見て、よく見ないと間違うって言っていたもの)
「いえ、止めましょう。私達の婚約は既に破棄されているの。話す事もないわ。授業が始まるから、教室に戻って」
「……授業が終わったら来るから」
昼食の時間になってもスティーブンは来なかった。
(ケリーのバネッサにでも会ってるんでしょうね。クラスメイトならまだしも、何年も一緒にいるスティーブンがわからないなんて…。傷付くわよね…)
翌日の朝、またスティーブンが教室に来た。
「バネッサ、どういう事?君は昨日の朝、婚約は破棄されたと冷たく言ったよね。でも、昼食の時間は今まで通りの可愛い君だった。僕は混乱してるよ…」
「そうね…今日の昼食は何処で食べるのかしら?そこで証明するわ」
「昨日約束しただろう?中庭のベンチだよ」
「わかったわ。では、その時に」
そして昼食の時間が始まって少ししてから、私は中庭に向かった。
そこには仲良く昼食を食べるスティーブンとバネッサ…いえ、ケリーの姿があった。
私は近くまで歩いて行き、声をかけた。
「スティーブン…」
「え…?うゎ!なんで…?なんでバネッサが二人…?」
私の声で顔を見上げたスティーブンが、驚いて飛び上がった。
「そういう事よ。その子はケリー。ねぇ、そうでしょう?」
ケリーは何も答えなかった。
「スティーブン、あなたが今年に入ってからずっとご飯を一緒に食べていたのはその子。放課後に会っていたのもその子」
固まったまま動かないスティーブンを一瞥して、私は続けた。
「去年に楽しく話していたのもその子。口づけをしたのもその子。私じゃないの。ねぇ、これでも不貞してないって言える…?」
「そんな!僕はこの女に騙されただけじゃないか!気付いたのなら、教えてくれれば良かっただろう?それなのに僕だけを責められても、納得がいかないよ!」
スティーブンは私に反論した。
「そうよね…私も最初は気付かなかったの。ただ、私の知らない話をしてるなって違和感があっただけ。でもね、スティーブン。あなたのお父様は気付いてくれたわ」
「どういう事…?」
「不貞の証拠がないもの。私のお父様が、あなたのお父様と一緒に学園を覗きに来たのよ。あなたのお父様は、私とケリーの違いに気付いてくれたし、どちらが私かも気付いてくれたの。あなたの方が私と一緒にいた時間が長いのにね…」
「そんな…」「でも…」と、言葉を探しているスティーブンに私は言った。
「そんな事はどうでもいいの。私はね、あなたがケリーと私を間違えても、許せたの。でもね、あなたがケリーと一緒にいる方が楽しいって言った事が悲しくて、あなたが私にケリーを求めた事が許せなかったの。それならケリーと婚約すれば良いじゃないって、そう思ってしまったのよ」
「待ってくれ!僕はこんな女よりもバネッサが好きなんだ!」
スティーブンの言葉に、今まで黙っていたケリーが反論した。
「ちょっと!どういう事よ!いつものバネッサよりも私の方が良いって、何回も言ってたじゃない!私の事可愛いねって言って、キスしてくれたじゃない!」
「あれは君がバネッサだと思ったからだよ。君に言ったわけじゃない」
「信じられない!私の初めてだってあげたのに!」
(!!!)
みんな聞き耳を立てていたのだろう。一瞬ざわついたが、すぐに静かになり、誰もが次の発言を待っていた。
「はぁ…スティーブン、あなたがその子を選んだの。あなたも言っていたでしょう?性格が違うって…違う人なんだもの、同じはずないじゃない。でも、あなたがケリーを選んだのよ。私にもケリーのようになれって、そう求めたの…」
顔を青くして崩れ落ちたスティーブンにそう言って、私は教室に戻った。
それからスティーブンとケリーは学院を辞めた。
スティーブンは勘当はされなかったけれど、学院中の噂になってしまったので学院を去った。
日雇いの仕事をしているとか、リード家で下働きをしているとか、色々な噂があるけど、本当のところはわからない。
ケリーは現実世界では生きていけない人達が入る施設へと送られた。二度と出てくる事は無い。
退学して暫くはブラウン家にいたのだけれど、ミラー家に忍び込んで、私の両親を「お父様!お母様!」と呼んで、ミラー家でも私になろうとしたらしい。
「ケリーが楽しそうにしていたから、注意できなかったんだ。すまなかった…」
そう言って謝罪をするブラウン男爵にお父様が激怒して、不貞の慰謝料請求に加えて、保護責任能力を追求する賠償金を請求した。
そしてブラウン家は隣町に帰っていった。
お父様が代理で治めるこの街に居辛く、また、男爵家の財産も使い切ってしまったんだろう。
ケリーは、私の真似をしているつもりはないと思っていた。
「ブレスレットは自分で選んだ」
そう言ったケリーの目は嘘をついているようには見えなかった。
だけど、学園では私に成り切っていた。ケリーは自分をバネッサと呼ばれて、どう思ったのだろう。何がしたかったのだろう。
幼い頃から、私を姉のように慕ってくれていたケリー。
もしかしたら、私に憧れてくれて、私になりたかったのかもしれない。
考えたって、もう終わった事。
バネッサは私しかいない。
私は私を求めてくれる人と夫婦になりたい。
誰からも私ではない私を求められたくない。
他の誰でもない私でいたい。
私はバネッサなんだから…
暫く経ったある日、スティーブンが教室までやって来た。
(今日は私のところに来たのね…)
「スティーブン、どうしたの…?」
「家から手紙が届いたんだよ。僕達の婚約が破棄されたって。しかも、僕の不貞が原因だって。勘当するって書いてあったんだ!どういう事か知ってる…?」
聞き耳を立てていたクラスメイトがざわついた。
(こんな人前で言わなくてもいいのに…馬鹿な人…)
「そのままの意味よ?この婚約は、あなたの不貞で、破棄されたの」
「毎日のように一緒にいたじゃないか!みんなだって知ってる!僕に不貞できる時間すらない事を、君自身が知ってるじゃないか!」
スティーブンが大きな声で叫んだ。
「それは本当に私なの…?」
「え…?何を言ってるの?当たり前じゃないか。君以外に誰がいるって言うんだよ…?」
(スティーブン、あなたは知ってるはずだわ。ケリーを見て、よく見ないと間違うって言っていたもの)
「いえ、止めましょう。私達の婚約は既に破棄されているの。話す事もないわ。授業が始まるから、教室に戻って」
「……授業が終わったら来るから」
昼食の時間になってもスティーブンは来なかった。
(ケリーのバネッサにでも会ってるんでしょうね。クラスメイトならまだしも、何年も一緒にいるスティーブンがわからないなんて…。傷付くわよね…)
翌日の朝、またスティーブンが教室に来た。
「バネッサ、どういう事?君は昨日の朝、婚約は破棄されたと冷たく言ったよね。でも、昼食の時間は今まで通りの可愛い君だった。僕は混乱してるよ…」
「そうね…今日の昼食は何処で食べるのかしら?そこで証明するわ」
「昨日約束しただろう?中庭のベンチだよ」
「わかったわ。では、その時に」
そして昼食の時間が始まって少ししてから、私は中庭に向かった。
そこには仲良く昼食を食べるスティーブンとバネッサ…いえ、ケリーの姿があった。
私は近くまで歩いて行き、声をかけた。
「スティーブン…」
「え…?うゎ!なんで…?なんでバネッサが二人…?」
私の声で顔を見上げたスティーブンが、驚いて飛び上がった。
「そういう事よ。その子はケリー。ねぇ、そうでしょう?」
ケリーは何も答えなかった。
「スティーブン、あなたが今年に入ってからずっとご飯を一緒に食べていたのはその子。放課後に会っていたのもその子」
固まったまま動かないスティーブンを一瞥して、私は続けた。
「去年に楽しく話していたのもその子。口づけをしたのもその子。私じゃないの。ねぇ、これでも不貞してないって言える…?」
「そんな!僕はこの女に騙されただけじゃないか!気付いたのなら、教えてくれれば良かっただろう?それなのに僕だけを責められても、納得がいかないよ!」
スティーブンは私に反論した。
「そうよね…私も最初は気付かなかったの。ただ、私の知らない話をしてるなって違和感があっただけ。でもね、スティーブン。あなたのお父様は気付いてくれたわ」
「どういう事…?」
「不貞の証拠がないもの。私のお父様が、あなたのお父様と一緒に学園を覗きに来たのよ。あなたのお父様は、私とケリーの違いに気付いてくれたし、どちらが私かも気付いてくれたの。あなたの方が私と一緒にいた時間が長いのにね…」
「そんな…」「でも…」と、言葉を探しているスティーブンに私は言った。
「そんな事はどうでもいいの。私はね、あなたがケリーと私を間違えても、許せたの。でもね、あなたがケリーと一緒にいる方が楽しいって言った事が悲しくて、あなたが私にケリーを求めた事が許せなかったの。それならケリーと婚約すれば良いじゃないって、そう思ってしまったのよ」
「待ってくれ!僕はこんな女よりもバネッサが好きなんだ!」
スティーブンの言葉に、今まで黙っていたケリーが反論した。
「ちょっと!どういう事よ!いつものバネッサよりも私の方が良いって、何回も言ってたじゃない!私の事可愛いねって言って、キスしてくれたじゃない!」
「あれは君がバネッサだと思ったからだよ。君に言ったわけじゃない」
「信じられない!私の初めてだってあげたのに!」
(!!!)
みんな聞き耳を立てていたのだろう。一瞬ざわついたが、すぐに静かになり、誰もが次の発言を待っていた。
「はぁ…スティーブン、あなたがその子を選んだの。あなたも言っていたでしょう?性格が違うって…違う人なんだもの、同じはずないじゃない。でも、あなたがケリーを選んだのよ。私にもケリーのようになれって、そう求めたの…」
顔を青くして崩れ落ちたスティーブンにそう言って、私は教室に戻った。
それからスティーブンとケリーは学院を辞めた。
スティーブンは勘当はされなかったけれど、学院中の噂になってしまったので学院を去った。
日雇いの仕事をしているとか、リード家で下働きをしているとか、色々な噂があるけど、本当のところはわからない。
ケリーは現実世界では生きていけない人達が入る施設へと送られた。二度と出てくる事は無い。
退学して暫くはブラウン家にいたのだけれど、ミラー家に忍び込んで、私の両親を「お父様!お母様!」と呼んで、ミラー家でも私になろうとしたらしい。
「ケリーが楽しそうにしていたから、注意できなかったんだ。すまなかった…」
そう言って謝罪をするブラウン男爵にお父様が激怒して、不貞の慰謝料請求に加えて、保護責任能力を追求する賠償金を請求した。
そしてブラウン家は隣町に帰っていった。
お父様が代理で治めるこの街に居辛く、また、男爵家の財産も使い切ってしまったんだろう。
ケリーは、私の真似をしているつもりはないと思っていた。
「ブレスレットは自分で選んだ」
そう言ったケリーの目は嘘をついているようには見えなかった。
だけど、学園では私に成り切っていた。ケリーは自分をバネッサと呼ばれて、どう思ったのだろう。何がしたかったのだろう。
幼い頃から、私を姉のように慕ってくれていたケリー。
もしかしたら、私に憧れてくれて、私になりたかったのかもしれない。
考えたって、もう終わった事。
バネッサは私しかいない。
私は私を求めてくれる人と夫婦になりたい。
誰からも私ではない私を求められたくない。
他の誰でもない私でいたい。
私はバネッサなんだから…
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
学祭で女装してたら一目惚れされた。
ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
蒔島家の事情
JUN
BL
蒔島柊弥はこの春高校生になった。彼女なんかも欲しいところだが、問題がある。それは、蒔島家は昔からゲイの家系であり、当然長男の柊弥も男のパートナーを作ると信じているのだ。ゲイのサラブレッド?なんだそれは。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
残影の艦隊~蝦夷共和国の理想と銀の道
谷鋭二
歴史・時代
この物語の舞台は主に幕末・維新の頃の日本です。物語の主人公榎本武揚は、幕末動乱のさなかにはるばるオランダに渡り、最高の技術、最高のスキル、最高の知識を手にいれ日本に戻ってきます。
しかし榎本がオランダにいる間に幕府の権威は完全に失墜し、やがて大政奉還、鳥羽・伏見の戦いをへて幕府は瓦解します。自然幕臣榎本武揚は行き場を失い、未来は絶望的となります。
榎本は新たな己の居場所を蝦夷(北海道)に見出し、同じく行き場を失った多くの幕臣とともに、蝦夷を開拓し新たなフロンティアを築くという壮大な夢を描きます。しかしやがてはその蝦夷にも薩長の魔の手がのびてくるわけです。
この物語では榎本武揚なる人物が最北に地にいかなる夢を見たか追いかけると同時に、世に言う箱館戦争の後、罪を許された榎本のその後の人生にも光を当ててみたいと思っている次第であります。
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる