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本編

私ではない私

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長期休暇も終わって、一年の後期が始まった。

ケリーは私に会いに来なくなっていた。私も会いに行かなかった。落ち着いたんだ、そう思っていた。


だけど、私はまた違和感を感じるようになった。

クラスメイトがたまに、私の知らない話をするからだ。

「これ、この前話していたお母様が送ってくれたお菓子よ。持って来たから後で食べましょう?」

「あ、あの人この間噂してた先輩だよ。やっぱり格好良い人ね」


スティーブンさえも私の知らない話をした。

「この間バネッサが言ってた小説を読んでみたんだ」

「昨日は楽しかったよ。今日も昼食一緒に食べよう?」

(私じゃないわよね…?最初は忘れていただけなのかと思ったけれど、昨日はお友達と昼食を食べたし…きっと、ケリーよね。どういう事なの…?)


私はケリーと話そうと思ってケリーの教室に行ったのだけれど、ケリーはいなかった。

諦めて帰ろうと教室に向かっていると、私のお友達に囲まれた、黒髪の女生徒を見つけた。

(え…?あそこにいるのは、私…?ううん、何考えてるの。私はここにいるじゃない。あそこに居るのは…もしかしてケリー…?顔が以前と全然違う…お化粧で顔を似せてるの…?)

私から見ても、遠目から見て自分に似ているケリーを見て、とても怖くなった。


・・・・・


「あれ…?なんか今日雰囲気違うね。調子でも悪いの…?この前はあんなに笑って話してたのに、今日はなんか静かだね」

スティーブンと昼食の時間に言われた。

「なんかバネッサって会う毎に雰囲気が変わるよね。明るかったり、落ち着いていたり。結構気分屋だったんだね」

「そうね…ねぇ、今の私とこの前の私、どっちがいい?」

私は少し気になってしまって、スティーブンに聞いてみた。

「どっちもバネッサじゃないか。もちろんどっちも好きだよ」

「どっちのバネッサが好きなの…?」

「うーん。この前かな…?話も盛り上がったし、楽しかった。なんか可愛いっていうかさ。あ、でも、今日みたいなバネッサも好きだよ?」

スティーブンはそう答えた。

(そう。スティーブンはそっちのバネッサを選ぶのね…。私ではないバネッサを…)


それから私に会うスティーブンは、不満を言うようになっていった。

「この前のバネッサは可愛かったのに…」

「この前のバネッサは甘えてくれた」

「この前みたいにして欲しい」


(バネッサは私なのに、私ではないバネッサを、私に求めるのね…)


・・・・・


一学年が終わり、二度目の長期休暇に入った。

私はこの時を待っていた。

家に着いて挨拶してすぐにお父様に頼んだ。

「お父様、お願いがあります。スティーブンとの婚約を白紙に戻してください」

「何があったんだい…?」

私は両親に、ケリーが私になりすましている事、誰もそれに気付かない事、スティーブンがケリーのバネッサと居る方が楽しいと言った事を話した。

「そうか…私に全て任せなさい」

父は静かに手を握りしめて、怒っていた。

「なんていう事なの…?婚約者がわからないなんて…ケリーは異常よ。ブラウン夫妻もよ。娘がバネッサみたいに変わってしまって、何故何も言わないの?」

お母様も怒って「もうブラウン家とは一切関わらない!」と言っていた。


私はお父様はすぐにリード子爵に手紙を送ると思ったけれど、長期休暇の最終日になっても何もしていなかった。

心配になって聞いたら、何かを考えているようだった。

「私に考えがある。任せて置きなさい。バネッサは何もしなくていい。ただ、婚約破棄する事はまだ言わないで欲しい。できるかい?」

「わかりました。お父様を信じています」


そうして二年目の学院が始まった。


・・・・・


二年目が始まって、私はスティーブンとは滅多に会わなくなった。

クラスメイトの話を聞く限りでは、よくバネッサとスティーブンは一緒にいるらしい。「仲が良くて羨ましい」と言われた。

裏庭で口づけもしていたも聞いた。
スティーブンが私ではない、バネッサと…
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