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街道を行く

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「せっかく2日も待ったのに買い取ってもらえなくて残念だったな」

 町を出て街道を走っていると、声を出して話せるようになったノアがそう話しかけてくる。

「確かにそうだけど観光も楽しかったからいいわ」

 こんな機会がないと国外追放の身で観光なんてできないものね。
 それにノアが初めて人の生活を見てはしゃいでいたとか言っていたが、実は私もずっと公爵令嬢として生きてきたのであんな風に町を観光したのは初めてだったのだ。

 家族に会えないのは寂しいけれど、冒険者になったり、自分で作った出来立ての料理を食べたり、町をぶらぶら歩いたり、こんな自由な生活も良いものだわ。

 そんなことを考えながら爆走していると探知魔法に反応が出る。

「ノア、探知に反応があるわ。魔物が来るわよ!」

「私に任せとけ!」

 意気揚々と肩から飛び立ったノアは、街道横の林に向かって飛んで行き街道から見えなくなったところでグリフォンの姿に戻る。

 人間が1人で走っていると思って襲いに来た魔物たちは、今頃何故か突然現れて攻撃してくるグリフォンに驚いていることだろう。

 いや、ノアが相手なら驚く時間もないか。

 ノアが狩りに行っている間もそのまま街道を走って先に進んでいると、ほんの2~3分で周りに人がいないかキョロキョロ確認しながら嘴と爪に魔物をぶら下げたノアが戻ってきた。

嘴と爪に引っ掛けていた魔物を私の目の前に下ろし、「どうだ! 急所を一撃だ!」と誇らしげに見せてくるノアがかわいい。

 前にクローグリズリーをズタズタにしてしまい値段がつかなかったことを引きずっているのか、あれからずっと小さな傷で一撃で急所を仕留めることにかなり拘っているようだ。

 ノアが狩ってきたのはルートホーンディアと言う木の根のような大きな角が特徴の鹿型の魔物で、鑑定をかけてみると肉が美味しいと書いてある。
 この魔物は強くて長生きなほど角が成長して立派になるらしい。
 角を見るとノアがとってきた個体は2匹ともものすごく太くて大きな角をしている。

「ありがとう。ルートホーンディアという魔物ね。角が立派なほど強い個体らしいわよ。この角の大きさだと2匹ともかなり上位の個体のようね。2匹もいるしお肉が美味しいみたいだから今夜にでもちょっと食べてみましょう」

 そう言うと2匹とも上位の個体だったというのがかなり嬉しかったのか「私にかかれば強い個体も一撃だ!」なんて喜んでいる。

 喜んでいるノアからルートホーンディアを受け取りアイテムボックスに入れると、鳥の姿に変化して肩に乗ったノアに「次もよろしくね」と声をかけてまた街道を走り出した。










「なんだと!? アーモス、もう一度言ってみろ!」

「荷物の買取は買取額の折り合いがつかず……。申し訳ございません」

  冒険者のリアという女を町から出した後アーモスはその足で領主邸へと向かった。
 片膝をつき頭を下げながら買取がうまくいかなかったことを伝えると、予想通りデブブ伯爵は怒りで顔を真っ赤にし喚き散らす。

「たかが冒険者風情がこの私の申し出を断るだと!? 今すぐその冒険者をここへ連れてくるのだ! 私が直接話をする!」

 そうデブブ伯爵が言うがリアは先ほど町を出ていった。
 すぐにリアを町から出して正解だったな、とアーモスは思う。

「申し訳ございません。その冒険者は旅をしている者でして、町を出るような話をしておりました。おそらくもうこの町にはいないと思われます」

 申し訳なさそうな表情を作りさらに頭を下げながら伝える。

「ふ、ふ、ふざけるな!!」

 デブブ伯爵の手元にあったグラスが飛んできてアーモスはワインを被る。

「お父様、僕の絨毯は戻ってこないのですか?」

 大きな声で怒鳴っていたから聞こえたのか、デブブ伯爵の息子のバカダが扉を開けて部屋に入ってくる。
 どうやらあの財宝の中にあった高級な絨毯はここにいるバカダのものだったらしい。

「おお、かわいいバカダよ。愚かな冒険者のせいで絨毯は届かなくなってしまった。すぐに村に命じて新しくてもっと豪華なものを作らせよう!う!」  

 そうデブブ伯爵は言うがバカダは我慢ができないのか地団駄を踏んで騒ぎ出す。

「あの村の絨毯は人気で買えなかったのを村人に命じて予約品とは別で特別豪華に作らせたものなんだぞ!! お父様どうにかしてください。あの絨毯が欲しい欲しい欲しい!!!」

「おお、そうかそうか。かわいい息子のためだ。今すぐに絨毯を持って行った冒険者を探して取り戻そう」

 そうデブブ伯爵は言うとすぐに後ろに立っていた護衛たちを連れ部屋を出て行く。

 まずいことになったぞ。
 まさか追いかけてまで取り戻すとは思っていなかった。絨毯が息子のバカダのものだったのが誤算だったな。
 どうか見つからずに無事でいてくれ!

 アーモスは貴族に目をつけられてしまったリアの身を案じて必死に祈った。
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