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第三章「ハイラント王国の危機」

第二十八話:メテオストライク

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 王都の外壁を突破して、魔王アンデッドゾーラが入り込んでくる。

「おいおいおい! 危ないぞ逃げろ!」
「助けて!」

 魔王はガイアス王が倒すゆえに、避難など必要ないという布告を王都の民が本当に信じていたわけではなかった。
 しかし、避難しそびれた人たちがいたのは、魔王との戦いなどモニターの向こう側の世界でどこか他人事のように考えていたからだろうか。

 分厚い外壁が破壊され、王都の象徴である栄光の大門がもろくも崩れた時。
 王都の民は、自分たち人類がいかにちっぽけな存在であるかを知った。

「神様!」

 身の丈五十メートルを超える魔王に踏み潰されていく人々。
 どこに行ったら良いかもわからず逃げ惑う人々は、もはやアスラ神に祈ることしかできない。

 巨大な魔王アンデッドゾーラに対峙するように、高台に立つ王城のバルコニーに立つ筆頭王宮魔術師ベーコン・イドラは何が神かと嘲笑っていた。
 結局のところ、神が魔王を倒すべく定めた勇者もどうにもできなかったではないか。

 魔王をも、神をも凌駕するこの世界の真理、魔術の理。
 我ら魔術師こそが、世界を救いうる!

「ベーコン師! 術式完了しました」
「目標、あと一分ほどで、王都中央部に到達します」

 いよいよだ。
 筆頭王宮魔術師ベーコンの人生を賭けた、一大魔法が始まる。

「偉大なるマナよ! 天なる星よ! 古の盟約に従い、我が導きのままに全てを押しつぶせ!」

 数十名にも及ぶ、エリート神官と魔術師たちが同じ呪文を唱和して、莫大な魔導エネルギーが天空へと上がっていく。
 そうして、そのエネルギーが究極の高まりを見せた瞬間。

隕石落としメテオストライク!」

 それは、星の運行を変えるほどの莫大なる魔力。
 天空に浮かぶ、直径十数メートルにも及ぶ隕石が、ゆっくりと引き寄せられるように地上へと落ちてくる。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 その隕石、重さは一万トン以上。
 速度は次第に加速度を増し、時速六万キロメートルにも達する。

「隕石目標に到達します!」

 魔王アンデッドゾーラは、空を見上げて叫んだ!

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 ふっと、ベーコンは笑う。

「もう遅い!」

 衝突の瞬間、防御魔法で守られている王城も凄まじい衝撃波に襲われて揺れた。
 舞い上がる激しい土煙。

 大地は割れ、隕石が衝突した地点には、半径百メートルにも及ぶクレーターが発生する。
 地表の大地ですら焼けただれ、灼熱の炎の中で蒸気と化す。

 圧倒的な質量攻撃の前に、魔王は為す術もないでろう。

「やったな」

 たとえ魔王が世界を滅ぼす存在であったとしても、あの攻撃で存在を保っていられるわけがない。
 神官や、魔術師から歓声があがる。

 しかし……。

 舞い上がる土煙が晴れた時、焼けただれた大地に動きがあった。

「バカな、まだ動いているだと、なぜ動ける!」

 隕石の衝撃によりその身を半ば砕かれた魔王アンデッドゾーラは、地獄の炎をまとって、なおもこちらに向かってくる歩みをやめていなかった。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 その形相は、ベーコンに対する憎悪。
 魔王アンデッドゾーラは、誰が自らを傷つけたのか、明確に理解していた。

 青ざめた顔のベーコンは、恐怖に魔術師の杖を取り落とした。
 びっしょりとかいた汗で、服が重く感じるほどだ。

「ベーコン師! ご指示を!」

 魔王は、王城の眼の前まで来ている!

「防御魔法! 全力だ! 第二射の攻撃の準備を……」

 ベーコンが言えたのはそこまでだった。
 魔王が振り下ろした巨大な拳の前に、守っていた防御魔法はもろくも崩れ去り、圧し潰されるバルコニーとともにベーコンたちは息絶えた。

「うわああ!」
「助けてくれ!」

 怒り狂って暴れる魔王の恐ろしく太い拳が、王城へと突き刺さる。
 そのたびに、王国の高級官僚が、大臣たちが、ギルド長が、神殿長が死んでいく。

 ハイラント王国が滅びていく。
 バラバラと崩れ落ちる天井。赤く焼ける空が見えた。

「マクスウェル……」

 玉座にあり、叫んだガイアス王。
 しかし、すでに傍らにいたマクスウェル王太子は圧し潰されてひき肉へと変わっていた。

 もはや、ガイアス王には頼みにしていた国務大臣も、王宮魔術師たちもいない。

「よ、余は王であるぞ! 誰か、余を守れ!」

 謁見の間にあって、そのほとんどはすでに死に絶え。
 生き残った者は、せめてあの恐ろしい腕から逃げようと必死にあがくか、それかガイアス王と同じように腰を抜かしていた。

 王の目の前に、魔王アンデッドゾーラのおぞましい顔が見える。
 地獄の炎に燃える腕が、ゆっくりと王の視界に迫ってくる。

 余は、一体どこで間違えた!
 最後の瞬間、そう考えたガイアス王の思考は、永久に失われるのであった。

     ※※※

 安全な場所に避難していたガンプたち勇者パーティーは、そんな王城の様子を魔導球でモニターしていた。

「俺の実力を信じなかったからだろ」

 裏切った奴らが死に絶えるのを見て、嘲笑うようにガンプは言う。

「お父様……」

 エリザベート姫は、苦しげに言う。

「あんなのでも父親か。すまなかったな、エリザ」

 心にもない様子で、お悔やみ申し上げるガンプに、エリザベート姫はため息を付いて言う。

「いえ、いいのです。ガンプ様の言う通り、父は判断を間違えました」

 エリザベート姫がお願いして、ガンプが救う手立てを連絡したというのに。
 これ以上どうしようもなかった。

 ガンプとしては、どうせガンプが提案しても、愚かな王宮の上層部は動かないとわかっていたので一緒のことだった。
 どうせこうなる運命だったのだろう。

「じゃあ、行こうかセイラ」
「うん」

 魔王を倒し世界を救うため、ガンプたちはめちゃくちゃに破壊された王都へと走る。
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