麗しき女性監督「如月麗奈」

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第一章 監督一年目

第六話 まずは秋の大会まで

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 午後四時過ぎ、麗奈はBar SGSのドアを開け、更衣室で着替える。着替えを済ませると、倉庫へ。そして、ほうき塵取ちりとりを持つと、店内の清掃を始める。

 
 十分以上が経ち、集めたゴミを袋へ。箒と塵取りを倉庫へ片付けると、カウンターに入り、布巾を一つ手に取り、カウンターテーブルを拭き始めた。

 
 「よし…!」


 カウンターテーブルを拭き終えた麗奈は布巾を洗う。水を止め、洗い終えた布巾を絞る。そして、布巾掛けへ。

 麗奈は店内を一通り見渡すと、カウンター内の椅子へ腰を落とす。そして、天井を見つめる。


 「エース候補は本田君。まだ一年生だけど、二年後に県内に名を轟かせるピッチャーになってそう。投げてる姿を見て、そう思った」


 麗奈の頭の中で、寛人がマウンド上で右腕を振る映像が流れる。ゆったりとしたモーションから繰り出されるストレートはキャッチャーミットへきれいに吸い込まれた。

 
 「でも、私は野球のピッチングを指導することはできない。学生コーチに託すのみ。でも…」


 その先の言葉を発しようとした瞬間、陽翔が店内へ。同時に、麗奈は椅子から下りる。


 「おお。お疲れさま。どうしたんだよ、曇った表情浮かべて」

 「え…。あ、すみません。ちょっと考え事を…」

 
 陽翔は麗奈の表情から考えていたことを察した。


 「いいんだよ。自分ができることをこなしていけば。麗奈の役目は自身が持っている知識を伝える、選手の起用法を考える、ベンチで指揮を執る。そして、選手を守る」


 腕を組んだ陽翔は笑みを浮かべる。


 「まずは秋の大会まで頑張ってみろ。それまでにどれだけの結果を出せるか。もしかしたら、そういう話に繋がるかもしれないぞ?」


 そう言葉を掛け、陽翔はドアを開け、更衣室へ。ドアが閉まると、麗奈は店内の時計へ視線を向ける。


 「秋の大会…。それ以降の私はどうしてるのかな…」


 監督を続けているのだろうか、それとも、バーテンダーに専念しているのだろうか。

 そのようなことを考えていると、時計の針は四時三十分を指す。僅かに険しくなった麗奈の表情は緩む。


 「でも、どちらになったとしても、全力で取り組む。ただそれだけ…!」


 そして、口元を緩め、小さく頷く。


 「今日もよろしくお願いします…!」


 お店に挨拶をし、麗奈は凛々しい表情でネクタイを締め直し、開店時間に備えた。
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