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第二章 勝負の三年間 一年生編
第十七話 チャンスはある
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五月十七日。
この日、綾乃達山取東高校女子サッカー部一年生部員は試合会場のスタンドにいた。
スタンドからピッチで躍動する二、三年生部員を鼓舞する一年生部員。
得点が決まると、自分のことのように喜び、失点すると自分のように悔しがる綾乃。
その姿を観た一年生部員も彼女に感化されるように喜び、悔しがる。
そして。
ピーッ!
ホイッスルが鳴り、試合終了。山取東高校は四対一で勝利を収め、県大会出場を決めた。
応援を終え、帰宅の準備を進める一年生部員。綾乃は準備を済ませると、バッグを左手に持つ。すると、美智恵が綾乃にこう話す。
「出たかった?」
その問いに、綾乃は少し遅れて「はい」と答える。しかし、声と表情からは悔しさを感じさせなかった。
「いきなりベンチに入ることができるとは思っていませんから。これが普通だと思っています。練習を積み重ねて新人戦はベンチ入りの座を掴み取りたいです」
笑顔の綾乃。
美智恵は綾乃の横顔を見つめ、微笑みながら頷く。
続々と会場を出る山取東高校一年生部員の背中を見つめ、綾乃と美智恵も会場を出た。
「ただ今戻りました」
午後二時過ぎに綾乃は帰宅。晴義が綾乃を出迎える。
「お食事は?」
「いただきます」
「食堂にご用意してございます」
「ありがというございます」
綾乃は一度、バッグを寝室へ置きに二階へ。そして、寝室を出て、食堂へと向かった。
食堂のドアを開けると、すぐ目の前のテーブルに料理が並べられたトレーが。綾乃はその席へと腰掛け、手を合わせた。
ご飯茶碗を持ち、箸を進める綾乃。すると、由紀子が食堂へ。
綾乃は彼女の姿が見えると箸を置き、立ち上がる。
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい。どうだったの?試合」
「勝ちました。来月、県大会が行なわれます」
「そう。勝てるようにしっかり応援するのよ」
「はい」
由紀子は食堂から出る。ドアが閉まる音を聞き、綾乃は再び席に着き、箸を持った。
食事を済ませた綾乃は寝室へ入り、椅子に腰掛ける。
「やっぱり、先輩方にはまだまだ及びません。練習あるのみです…」
そう呟いた綾乃はバッグからスパイクを取り出し、磨き始める。汚れはみるみる消え、まるで新品のように輝く。磨いたスパイクを見つめ、小さく頷く綾乃。
すると。
「チャンスはある。新人戦の前に選手権予選がある。もしかしたら、そこでベンチに入るかもしれないぞ」
ドア越しに浩平の声が。綾乃はドアを見つめると、立ち上がる。ドアノブを掴み、廊下へと出る。しかし、既に浩平の姿はなかった。
「選手権…」
綾乃がそう言葉を発すると同時に、部屋のドアが閉まる音が。その音と同時に、寝室に置かれたバッグへ視線を移す。
「そういえば、新人戦の前に選手権の予選がありますもんね…」
綾乃はゆっくりとドアを閉める。そして、視線はネットに入ったサッカーボールへ。
「少しだけ、練習してきましょうかね…」
綾乃は口元を緩めると、ネットを右手に持ち、外へ出た。
厚い雲の向こうには濁った光が。綾乃はその光を見つめ、何かを誓うように目を閉じる。
「まずは、そこに向かって…」
小さく頷くと目を開け、軽快な足取りで近所の公園へと歩を進めていった。
この日、綾乃達山取東高校女子サッカー部一年生部員は試合会場のスタンドにいた。
スタンドからピッチで躍動する二、三年生部員を鼓舞する一年生部員。
得点が決まると、自分のことのように喜び、失点すると自分のように悔しがる綾乃。
その姿を観た一年生部員も彼女に感化されるように喜び、悔しがる。
そして。
ピーッ!
ホイッスルが鳴り、試合終了。山取東高校は四対一で勝利を収め、県大会出場を決めた。
応援を終え、帰宅の準備を進める一年生部員。綾乃は準備を済ませると、バッグを左手に持つ。すると、美智恵が綾乃にこう話す。
「出たかった?」
その問いに、綾乃は少し遅れて「はい」と答える。しかし、声と表情からは悔しさを感じさせなかった。
「いきなりベンチに入ることができるとは思っていませんから。これが普通だと思っています。練習を積み重ねて新人戦はベンチ入りの座を掴み取りたいです」
笑顔の綾乃。
美智恵は綾乃の横顔を見つめ、微笑みながら頷く。
続々と会場を出る山取東高校一年生部員の背中を見つめ、綾乃と美智恵も会場を出た。
「ただ今戻りました」
午後二時過ぎに綾乃は帰宅。晴義が綾乃を出迎える。
「お食事は?」
「いただきます」
「食堂にご用意してございます」
「ありがというございます」
綾乃は一度、バッグを寝室へ置きに二階へ。そして、寝室を出て、食堂へと向かった。
食堂のドアを開けると、すぐ目の前のテーブルに料理が並べられたトレーが。綾乃はその席へと腰掛け、手を合わせた。
ご飯茶碗を持ち、箸を進める綾乃。すると、由紀子が食堂へ。
綾乃は彼女の姿が見えると箸を置き、立ち上がる。
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい。どうだったの?試合」
「勝ちました。来月、県大会が行なわれます」
「そう。勝てるようにしっかり応援するのよ」
「はい」
由紀子は食堂から出る。ドアが閉まる音を聞き、綾乃は再び席に着き、箸を持った。
食事を済ませた綾乃は寝室へ入り、椅子に腰掛ける。
「やっぱり、先輩方にはまだまだ及びません。練習あるのみです…」
そう呟いた綾乃はバッグからスパイクを取り出し、磨き始める。汚れはみるみる消え、まるで新品のように輝く。磨いたスパイクを見つめ、小さく頷く綾乃。
すると。
「チャンスはある。新人戦の前に選手権予選がある。もしかしたら、そこでベンチに入るかもしれないぞ」
ドア越しに浩平の声が。綾乃はドアを見つめると、立ち上がる。ドアノブを掴み、廊下へと出る。しかし、既に浩平の姿はなかった。
「選手権…」
綾乃がそう言葉を発すると同時に、部屋のドアが閉まる音が。その音と同時に、寝室に置かれたバッグへ視線を移す。
「そういえば、新人戦の前に選手権の予選がありますもんね…」
綾乃はゆっくりとドアを閉める。そして、視線はネットに入ったサッカーボールへ。
「少しだけ、練習してきましょうかね…」
綾乃は口元を緩めると、ネットを右手に持ち、外へ出た。
厚い雲の向こうには濁った光が。綾乃はその光を見つめ、何かを誓うように目を閉じる。
「まずは、そこに向かって…」
小さく頷くと目を開け、軽快な足取りで近所の公園へと歩を進めていった。
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