上 下
16 / 76
第二章 勝負の三年間 一年生編

第八話 入学後最初の試合

しおりを挟む
 四月二十七日。

 
 山取東高校女子サッカー部一年生はこの日、練習試合に臨む。相手は同じ県南地区の岩浜西いわはまにし高校。

 試合前の練習を終え、宮城が一年生部員を集める。


 「君達にとっての高校入学後、初の試合。こちらは一年生のみという形。しかし、これにはしっかりとした狙いがあるということを理解してほしい。岩浜西高校さんは上級生の選手も出場する。経験という意味では相手が上。しかし、君達にしかないものが相手の上をいくかもしれない。それを存分に発揮してほしい」

 「はい!」


 一年生部員が声を揃えると、宮城は練習試合のスターティングメンバーを発表する。綾乃は緊張の面持ちで自身の名前が呼ばれる瞬間を待つ。

 GK、DFの発表が終了し、MFの発表へ。一人の名前が読み上げられると同時に、綾乃の鼓動は高鳴る。

 そして、スターティングメンバーMF、最後の一枠。


 「一ノ瀬」


 宮城がそう読み上げる。

 綾乃の苗字。

 宮城の声を聞き、小さく「ふぅ」と息をつく綾乃。同時に、鼓動の高鳴りは徐々に収まる。気持ちを引き締めるように、小さく頷くと、スターティングメンバーの発表が終了した。


 「男女ともに去年、見事に躍進。更なる躍進には君達の力が必要だ。この練習試合は更なる躍進への第一歩」

 
 綾乃達は真剣な表情で宮城を見つめる。


 「最後に一言。全力でボールに食らいつけ」

 「はい!」


 綾乃達の心にエンジンが入った。


 
 キックオフの時刻まで綾乃は即席のベンチ前で体を温める。すると、校舎の廊下に一人の男子生徒の姿が。綾乃は彼の目の前へ。

 
 「宮本さん!」


 その男子生徒は潤だった。


 「練習が休みだから観に来たんだ。宮城先生に許可を取って。綾乃ちゃんが試合でプレーする姿って俺達はなかなか観ることはないからね」


 綾乃は口元を緩めると、軽く目を閉じる。


 「恥ずかしいプレーをお見せするわけにはいきませんね…」


 囁くように綾乃が言う。それからすぐに、ゆっくりと目を開ける。そして、視線を潤へ。

 綾乃の緩めた口元が動く。
 

 「サッカー選手としての一ノ瀬綾乃の姿をお見せします」


 同時に、山取東高校のベンチで美幸と美智恵がハイタッチを交わす。そして、彼女達は綾乃の元へ。


 「絶対勝とうね、綾乃ちゃん!」


 美幸が笑顔で言葉を掛ける。

 綾乃は美幸をじっと見つめる。そして、微笑みながら小さく頷く。


 「ええ!絶対勝ちましょう!」


 綾乃の言葉と同時に、日差しが強くなる。そして、気温が若干上がった。

 それは、グラウンド内のボルテージが上がった瞬間だったのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

お父さん!義父を介護しに行ったら押し倒されてしまったけど・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
今年で64歳になる義父が体調を崩したので、実家へ介護に行くことになりました。 「お父さん、大丈夫ですか?」 「自分ではちょっと起きれそうにないんだ」 「じゃあ私が

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...