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第二章 勝負の三年間 一年生編

第一話 入学

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 四月九日、朝八時十七分。


 朝食を済ませた綾乃は浩平の書斎へ。

 ドアを開け、浩平が椅子を勧める。綾乃は一言伝え、腰を下ろす。


 「よく眠れたか?」

 「はい」


 浩平の言葉に頷く綾乃。


 「いよいよ高校生活が始まる。この高校生活を無駄にしないように。良い報告を待っている。以上だ」


 浩平にそう言葉を掛けられ、綾乃は「はい」と応える。そして頭を下げ、書斎を出る。


 この日の午後に入学式に臨む綾乃は寝室でハンガーに掛けられた制服を見つめる。


 
 「三年以内に絶対…!」


 
 小鳥の囀りを耳にしながら綾乃は気を引き締める。

 小さく頷くと、窓際に立ち、外の景色を眺めると、小さな雲が青空の下を泳いでいた。

 
 「雲は風によって行き先が決まる。私は風に逆らって行き先に向かう…。目的日辿り着けるように、精進するのみです…」


 しばらく外の景色を眺めた綾乃は椅子へと腰掛けた。


 
 十時過ぎ、綾乃は公園へ足を運び、ボールを転がす。

 体はしっかり動いており、感覚は鈍ってはいなかった。それを確認し、綾乃は小さく頷く。

 その後、ドリブル練習などで汗を流す綾乃。ボールを転がす音に誘われ、公園の前を通る人物が足を止め、彼女の動きを目で追う。

 
 彼らの目に映る綾乃の姿はまさに、サッカー選手そのものだった。




 そして、正午。



 「行くわよ」

 「はい」


 由紀子の一言で椅子に掛けていた腰を上げ、綾乃はバッグを片手に寝室を出る。そして、入学式へと向かうために外へ。玄関のドアを閉めると、やさしい風が綾乃を包む。

 肌寒さはあるが、どこかあたたかさがあった。綾乃はそれをしっかりと肌で感じ取りながら最寄り駅の台府駅へと歩く。


 十分ほどして、台府駅に到着。綾乃は券売機に小銭を投入し、切符を購入。そして、改札機を通過し、列車へ乗り込んだ。



 「東山取ひがしやまとりです」



 列車が東山取駅に到着し、二人は降車。ホーム立った瞬間、綾乃は妙な緊張感に襲われる。

 その様子に気付いた由紀子が一声掛ける。

 綾乃は「大丈夫です」とだけ応え、ゆっくりと階段を上った。


 
 「入学式の会場はこちらです」


 山取東高校に到着し、受付を済ませた二人は係員の案内に従い、会場となる体育館へ。綾乃は自身のクラスメイトとなる生徒が着席する列へ。椅子へ腰を下ろすと、体育館内を見渡す。


 いよいよ始まるんですね、私の高校生活が。サッカーだけでなく勉強も。そのために山取東高校を選んだのですから!


 改めで気を引き締める。



  そして、午後一時。


 「ただ今より…」


 司会の女性の声で入学式が始まった。


 綾乃は表情を崩すことなく、話に耳を傾ける。

 それからおよそ二時間後に入学式が終了し、教室へと向かう。

 綾乃は一年二組。自身の席へ腰を下ろし、黒板を見つめる。そして、僅かに口元を緩める。



 さあ、どんな高校生活になるんでしょう…!



 東山取駅に到着した時の緊張はすっかり消え去り、今か今かと授業と練習の時を待つ綾乃。


 
 見ててくださいね、お父様、お母様!



 それからしばらくして、一年二組の担任となる男性教諭が入室し、教壇に立つ。そして、一言。


 「入学、おめでとうございます」


 この時、綾乃の勝負をかけた高校生活が幕を開けた。
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