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2 相手と会ってみた
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わたしに結婚話がきていると聞かされてから、3日後。
わたしとお母さまは、すっごい豪華な馬車でのおむかえで王都にある新公爵のお屋敷に招かれました。
新公爵のお屋敷に招かれたのは、わたしとお母さまのふたりでしたが、公爵とお話しできるのはわたしだけらしいです。
公爵の屋敷の客室に通され、飲んだこともないような、味がいいのか悪いのかも判断がつかないきっと高級なんだろう紅茶に口をつけながら、待つこと30分。
その間お母さまには、
「くれぐれも、失礼のないようにですよ?」
くり返し注意され、もう返事をする気もおきません。
やっとのことで、
「お待たせいたしました。メックール男爵令嬢ココネ様」
めちゃくちゃ背が高い美男の執事が、わたしを呼びにきました。
「ヘッセンシャール公がお会いになられます。わたくしめがご案内いたしますので、どうかご同行をお願いいたします」
丁寧語なの? それ。
よくわからないんですけど?
というかこの執事さん、プレッシャーすごいな。
背が高いし顔も濃いしで、圧(あつ)がすごいんだけど……。
ここで、
「いやです」
とはいえないし、わたしだって貴族の令嬢としての教育は……少しですけど受けてますから、
「わかりました。あんない、おねがいいたします」
無難に答えましたとも。
執事さんに続いて部屋を出ようとするわたしを睨みつけるように、無言で「わかってますよね!」を突きさしてくるお母さま。
(はぁ……わかってます)
わかってますとも!
わたしだって幼女に見えて、前世の29歳までの記憶をもってますから、「普通の幼女」ではありませんよ。
大丈夫です。
たぶん、それなりに……。
男爵家の中でも下の方だと思われる我が家と、王子のご友人であられる新公爵とでは、身分が違いすぎます。
失礼があったら、我が家の爵位没収もありえそうです。
我が家の命運は、わたしの行動と言動にかかっているわけですね?
わかりました。
はい、気が重いです……。
「メックール男爵令嬢、ココネ様をお連れいたしました」
豪華で重々しい扉の前で、わたしを案内してくれた執事さんがつげると、内側から扉が開けられる。
扉を開けてくれたのは、どうやらメイドさんらしい。
うちにいるのはお手伝いさんですけど、公爵家ともなるとちゃんとメイドさんがいるんですね。
うらやましいです。
メイド萌え。
単豪華ですが、落ち着いた雰囲気の部屋。
わたしが室内に入ると、ソファーにかけていた貴公子が腰をあげ、
「私の招待をお受けいただき感謝いたします、メックール男爵令嬢。私はフレイク・ヘッセンシャール、この館の主をしております」
にこやかというより、爽やかに微笑むこの人こそ、ヘッセンシャール新公爵。
どういった理屈かはわかりかねますが、わたしに求婚の意思を向けている人です。
うん……でも美男子だな、この人。
美麗というのかな? 王家にもつながる高い身分のお貴族さまだ。庶民とは「繫れた血で磨かれた時間」が違うのだろう。
うん。こうして近くで見ると、こわいくらい美人さんだ。
「メックール男爵が第一子、ココネともうします。本日はおまねきくださりこうえいにございます。ヘッセンシャール公爵さま」
ドレスの裾をつまみ、軽く膝を折って頭を下げるわたし。
挨拶はですね、
しつこく練習させられたから大丈夫です。
これで良いはずです。
ダメなら悪いのはお母さまです。
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。男爵令嬢は幼いにもかかわらず、すでに淑女であられるのですね」
それ、ほめ言葉なの?
それに今「幼い」っていったよね? ちょっと失礼なんじゃありません?
上手に挨拶できたね? えらいねー……ってことでしょうか。
でも、怒っているわけじゃなさそうだから、挨拶はあれでよかったのでしょう。
第一関門突破です。
「どうぞ、おかけになってください」
公爵が手で示すソファーに、
「はい。しつれいいたします」
なにこれ!?
ふっわふっわです。
わたしの正面に座り、作ったような笑顔をする公爵。
貴族ですから、作り笑顔は得意でしょう。
作り笑顔なら、わたしだってそれなりにできます。
(にっこり♡)
間近に見る公爵は、やはり20代前半くらいに思えます。
薄めの色の金髪に、濃い蒼の瞳。
いかにも貴族って感じの色味です。
肌もツヤツヤしてますし、前世のわたしから見たら「きれいな男の子」って感じですね。
爽やか系の美男子です。
本当に「前世のわたし」だったら、こうして向かい合うことすらできないくらいの……。
公爵はわたしを見つめながら一つうなずくと、
「難しいかけ引きはやめます」
かけ引きってなんですか?
わたしは幼女なんですから、幼女に対する言葉でお話しくださいません?
かけ引きって言葉を、わたしくらいの幼女が理解していたら変でしょ?
わたしは「よくわかりません」と伝えるように、目を開いて小首をかしげます。
「私は〈直感のスキル〉を持っているのです。そのスキルがこう囁きました。あなたを妻としろと」
この人、〈スキル持ち〉なんですか!?
〈スキル〉は、前世の世界でいう超能力みたいなもので、常人にはない能力です。
超能力といっても、世界トップレベルのアスリートとか、売れっ子の音楽家や画家といった、「常人には到達できない領域に到達できた人たちが生まれ持った才能」というイメージで、「いないわけではない」といったところでしょうか。
「はぁ、そうなのですか?」
それ以外、なんて答えればいいの?
わたしは〈スキル持ち〉じゃないし、〈直感のスキル〉……ですか?
直感に従えば上手くいく!
とか、そういうのですよね?
たぶん。
「わたくし、まだ子どもですけれど?」
でも、結婚できる年齢なんですよね……。
「はい、存じております」
たしかに、見ればわかりますか。
「なにか、公爵さまのおやくにたてるわけではない……と思います」
大人のわたしでも、公爵の役に立てるとは思えません。
なにせ、元地方公務員ですし。
「あなたは、なにもしなくてかまいません。年相応に学んではいただきますが、私の仕事を手伝ってほしいということではありません」
それは助かりますが、なんだかよくわかりませんね。
「ですが……ふうふ? に、なるのですよね? お父さまとお母さまのような」
子どもっぽいところも、アピールしておかないと。
「それは……そうですね。ですので、寝室は同じにしていただきます」
ちょっ……え?
そ、それは……。
でも、夫婦ならあたりまえですよね……。
ってこの人、寝室が同じって意味を幼女な今世のわたしが理解できると思ってるのかな?
幼女じゃない前世のわたしは、理解できますけどっ!
「こうしてお話をさせていただいてるだけで、あなたが普通の子どもでないことはわかります。まるで、大人の女性と対しているようです」
えー……わたし結構、子どもっぽくしてますよ?
でも、んー……どうしよう?
まさか前世の記憶があるとはいえないし、それに地方公務員の記憶が、公爵夫人をやるのに役に立つとも思えません。
わたし的にはまだまだ家にいて、のんびりと両親に甘えた生活をしていたいんですけど……。
黙りこんだわたしに、
「少し、私側の事情をお話ししましょう。私に両親はいません。母上は私が幼い頃に亡くなっていますし、父上が急逝なされたので、私が爵位を継いだのです」
お母上は、そうなのですか?
お父上が亡くなられて公爵位を継いだとは知ってましたが。
「それに兄弟もなく、小うるさい親戚もおりませんので、あなたを娶ることに反対するものはいません」
彼はわたしを見て微笑み、
「そうですね。難色をしめしているのは、あなただけです」
難色なんて難しい言葉を、幼女にむけて使わないでほしいです。
わたしだからわかりますけど、普通の幼女ならぽかーんってなりますよ?
「おことわり……は、できませんのでしょうか」
わたしの問いかけに、
「できません。というか、会って話してわかりました。あなたは普通の子どもではない。わたしは、あなたを諦めない」
普通の子どもじゃないことは、わかってもらわなくてよかったんですけど。
これほど美男の貴公子に「あなたを諦めない」なんていわれるの、乙女ゲー以来です。
ドキドキはしますけど、すぐにこの人の妻となる気にはなれません。
だって……。
こわい……です。
そうですよ!
わたしの前世は、29歳で男性経験がないまま死んだ喪女なんです。
乙女ゲーに癒しを求めて、「どうせわたしなんか」……と、膝を抱えていた女なんです!
異世界に美幼女として生まれかわったといっても、性格はそんなに変わりません。
男の人は、こわい……です。
どう接したらいいのか、わからないんです……。
わたしを見つめて、困ったような顔する公爵。
わたしが、彼にそんな顔をさせてしまう表情をしているのでしょう。
ムリにでも笑わないと。
笑顔を。
作らないと。
「……すみません、泣かせてしまうつもりはありませんでした」
そういわれてわたしは、自分が涙を流していることに気がつきました。
「ご、ごめんなさい」
慌てて手のこうで、濡れた頬をぬぐいます。
「いえ、悪いの私です。私は大人で、あなたは子どもなのですから」
違う。
わたしは子どもだけど、大人でもある。
あなたよりも年上の。
ちゃんといわないと。
彼は前世も今世も含めて、わたしの人生で初めて、わたしを求めてくれた男性だ。
「こわいんです。男のかたにどうせっすればよいのか、わからないんです」
子どもだからじゃない。
わたしという人間の、経験値がたりていないからだ。
「私が、恐ろしいですか?」
わたしは首を横にふって、
「わかりません……」
素直にそうつげた。
「そうですか、わかりました」
彼はそういって立ち上がるとわたしの側に来て片膝をついてかがみ、わたしと視線の高さを揃えて、
「また、会っていただけますか?」
微笑みながらいった。
わたしは彼の笑顔に、うなずくことしかできなかった。
わたしのうなずきで、彼の笑顔がもっと素敵なものにかわり、その変化に、
(喜んでもらえた)
そう思った瞬間。
なぜかわたしの心臓は、つぶれそうなほどにキューッとうずいた。
わたしとお母さまは、すっごい豪華な馬車でのおむかえで王都にある新公爵のお屋敷に招かれました。
新公爵のお屋敷に招かれたのは、わたしとお母さまのふたりでしたが、公爵とお話しできるのはわたしだけらしいです。
公爵の屋敷の客室に通され、飲んだこともないような、味がいいのか悪いのかも判断がつかないきっと高級なんだろう紅茶に口をつけながら、待つこと30分。
その間お母さまには、
「くれぐれも、失礼のないようにですよ?」
くり返し注意され、もう返事をする気もおきません。
やっとのことで、
「お待たせいたしました。メックール男爵令嬢ココネ様」
めちゃくちゃ背が高い美男の執事が、わたしを呼びにきました。
「ヘッセンシャール公がお会いになられます。わたくしめがご案内いたしますので、どうかご同行をお願いいたします」
丁寧語なの? それ。
よくわからないんですけど?
というかこの執事さん、プレッシャーすごいな。
背が高いし顔も濃いしで、圧(あつ)がすごいんだけど……。
ここで、
「いやです」
とはいえないし、わたしだって貴族の令嬢としての教育は……少しですけど受けてますから、
「わかりました。あんない、おねがいいたします」
無難に答えましたとも。
執事さんに続いて部屋を出ようとするわたしを睨みつけるように、無言で「わかってますよね!」を突きさしてくるお母さま。
(はぁ……わかってます)
わかってますとも!
わたしだって幼女に見えて、前世の29歳までの記憶をもってますから、「普通の幼女」ではありませんよ。
大丈夫です。
たぶん、それなりに……。
男爵家の中でも下の方だと思われる我が家と、王子のご友人であられる新公爵とでは、身分が違いすぎます。
失礼があったら、我が家の爵位没収もありえそうです。
我が家の命運は、わたしの行動と言動にかかっているわけですね?
わかりました。
はい、気が重いです……。
「メックール男爵令嬢、ココネ様をお連れいたしました」
豪華で重々しい扉の前で、わたしを案内してくれた執事さんがつげると、内側から扉が開けられる。
扉を開けてくれたのは、どうやらメイドさんらしい。
うちにいるのはお手伝いさんですけど、公爵家ともなるとちゃんとメイドさんがいるんですね。
うらやましいです。
メイド萌え。
単豪華ですが、落ち着いた雰囲気の部屋。
わたしが室内に入ると、ソファーにかけていた貴公子が腰をあげ、
「私の招待をお受けいただき感謝いたします、メックール男爵令嬢。私はフレイク・ヘッセンシャール、この館の主をしております」
にこやかというより、爽やかに微笑むこの人こそ、ヘッセンシャール新公爵。
どういった理屈かはわかりかねますが、わたしに求婚の意思を向けている人です。
うん……でも美男子だな、この人。
美麗というのかな? 王家にもつながる高い身分のお貴族さまだ。庶民とは「繫れた血で磨かれた時間」が違うのだろう。
うん。こうして近くで見ると、こわいくらい美人さんだ。
「メックール男爵が第一子、ココネともうします。本日はおまねきくださりこうえいにございます。ヘッセンシャール公爵さま」
ドレスの裾をつまみ、軽く膝を折って頭を下げるわたし。
挨拶はですね、
しつこく練習させられたから大丈夫です。
これで良いはずです。
ダメなら悪いのはお母さまです。
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。男爵令嬢は幼いにもかかわらず、すでに淑女であられるのですね」
それ、ほめ言葉なの?
それに今「幼い」っていったよね? ちょっと失礼なんじゃありません?
上手に挨拶できたね? えらいねー……ってことでしょうか。
でも、怒っているわけじゃなさそうだから、挨拶はあれでよかったのでしょう。
第一関門突破です。
「どうぞ、おかけになってください」
公爵が手で示すソファーに、
「はい。しつれいいたします」
なにこれ!?
ふっわふっわです。
わたしの正面に座り、作ったような笑顔をする公爵。
貴族ですから、作り笑顔は得意でしょう。
作り笑顔なら、わたしだってそれなりにできます。
(にっこり♡)
間近に見る公爵は、やはり20代前半くらいに思えます。
薄めの色の金髪に、濃い蒼の瞳。
いかにも貴族って感じの色味です。
肌もツヤツヤしてますし、前世のわたしから見たら「きれいな男の子」って感じですね。
爽やか系の美男子です。
本当に「前世のわたし」だったら、こうして向かい合うことすらできないくらいの……。
公爵はわたしを見つめながら一つうなずくと、
「難しいかけ引きはやめます」
かけ引きってなんですか?
わたしは幼女なんですから、幼女に対する言葉でお話しくださいません?
かけ引きって言葉を、わたしくらいの幼女が理解していたら変でしょ?
わたしは「よくわかりません」と伝えるように、目を開いて小首をかしげます。
「私は〈直感のスキル〉を持っているのです。そのスキルがこう囁きました。あなたを妻としろと」
この人、〈スキル持ち〉なんですか!?
〈スキル〉は、前世の世界でいう超能力みたいなもので、常人にはない能力です。
超能力といっても、世界トップレベルのアスリートとか、売れっ子の音楽家や画家といった、「常人には到達できない領域に到達できた人たちが生まれ持った才能」というイメージで、「いないわけではない」といったところでしょうか。
「はぁ、そうなのですか?」
それ以外、なんて答えればいいの?
わたしは〈スキル持ち〉じゃないし、〈直感のスキル〉……ですか?
直感に従えば上手くいく!
とか、そういうのですよね?
たぶん。
「わたくし、まだ子どもですけれど?」
でも、結婚できる年齢なんですよね……。
「はい、存じております」
たしかに、見ればわかりますか。
「なにか、公爵さまのおやくにたてるわけではない……と思います」
大人のわたしでも、公爵の役に立てるとは思えません。
なにせ、元地方公務員ですし。
「あなたは、なにもしなくてかまいません。年相応に学んではいただきますが、私の仕事を手伝ってほしいということではありません」
それは助かりますが、なんだかよくわかりませんね。
「ですが……ふうふ? に、なるのですよね? お父さまとお母さまのような」
子どもっぽいところも、アピールしておかないと。
「それは……そうですね。ですので、寝室は同じにしていただきます」
ちょっ……え?
そ、それは……。
でも、夫婦ならあたりまえですよね……。
ってこの人、寝室が同じって意味を幼女な今世のわたしが理解できると思ってるのかな?
幼女じゃない前世のわたしは、理解できますけどっ!
「こうしてお話をさせていただいてるだけで、あなたが普通の子どもでないことはわかります。まるで、大人の女性と対しているようです」
えー……わたし結構、子どもっぽくしてますよ?
でも、んー……どうしよう?
まさか前世の記憶があるとはいえないし、それに地方公務員の記憶が、公爵夫人をやるのに役に立つとも思えません。
わたし的にはまだまだ家にいて、のんびりと両親に甘えた生活をしていたいんですけど……。
黙りこんだわたしに、
「少し、私側の事情をお話ししましょう。私に両親はいません。母上は私が幼い頃に亡くなっていますし、父上が急逝なされたので、私が爵位を継いだのです」
お母上は、そうなのですか?
お父上が亡くなられて公爵位を継いだとは知ってましたが。
「それに兄弟もなく、小うるさい親戚もおりませんので、あなたを娶ることに反対するものはいません」
彼はわたしを見て微笑み、
「そうですね。難色をしめしているのは、あなただけです」
難色なんて難しい言葉を、幼女にむけて使わないでほしいです。
わたしだからわかりますけど、普通の幼女ならぽかーんってなりますよ?
「おことわり……は、できませんのでしょうか」
わたしの問いかけに、
「できません。というか、会って話してわかりました。あなたは普通の子どもではない。わたしは、あなたを諦めない」
普通の子どもじゃないことは、わかってもらわなくてよかったんですけど。
これほど美男の貴公子に「あなたを諦めない」なんていわれるの、乙女ゲー以来です。
ドキドキはしますけど、すぐにこの人の妻となる気にはなれません。
だって……。
こわい……です。
そうですよ!
わたしの前世は、29歳で男性経験がないまま死んだ喪女なんです。
乙女ゲーに癒しを求めて、「どうせわたしなんか」……と、膝を抱えていた女なんです!
異世界に美幼女として生まれかわったといっても、性格はそんなに変わりません。
男の人は、こわい……です。
どう接したらいいのか、わからないんです……。
わたしを見つめて、困ったような顔する公爵。
わたしが、彼にそんな顔をさせてしまう表情をしているのでしょう。
ムリにでも笑わないと。
笑顔を。
作らないと。
「……すみません、泣かせてしまうつもりはありませんでした」
そういわれてわたしは、自分が涙を流していることに気がつきました。
「ご、ごめんなさい」
慌てて手のこうで、濡れた頬をぬぐいます。
「いえ、悪いの私です。私は大人で、あなたは子どもなのですから」
違う。
わたしは子どもだけど、大人でもある。
あなたよりも年上の。
ちゃんといわないと。
彼は前世も今世も含めて、わたしの人生で初めて、わたしを求めてくれた男性だ。
「こわいんです。男のかたにどうせっすればよいのか、わからないんです」
子どもだからじゃない。
わたしという人間の、経験値がたりていないからだ。
「私が、恐ろしいですか?」
わたしは首を横にふって、
「わかりません……」
素直にそうつげた。
「そうですか、わかりました」
彼はそういって立ち上がるとわたしの側に来て片膝をついてかがみ、わたしと視線の高さを揃えて、
「また、会っていただけますか?」
微笑みながらいった。
わたしは彼の笑顔に、うなずくことしかできなかった。
わたしのうなずきで、彼の笑顔がもっと素敵なものにかわり、その変化に、
(喜んでもらえた)
そう思った瞬間。
なぜかわたしの心臓は、つぶれそうなほどにキューッとうずいた。
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